20世紀初頭、イギリスが近代化へ向けて動き始めた時代を舞台に、田園地帯にある大邸宅"ダウントン・アビー"で、貴族や使用人たちの間で繰り広げられる人間模様を描いた大ヒットドラマ『ダウントン・アビー』。11月30日(日)23:00より、いよいよシーズン2の放送がNHKでスタートする。それを記念して、グランサム伯爵役ヒュー・ボネヴィルと、その夫人コーラ役を演じるエリザベス・マクガヴァンのインタビューをお届けします!
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――『ダウントン・アビー』の成功には驚かれましたか?
ヒュー・ボネヴィル:幅広い人たちに興味を持たれていることに初めて驚いたのは、10歳の子が私に寄ってきて、「第一下僕のトーマスがひどい奴だ」ということに当主のわたしが気づいていない、と叱られたときだよ。
あのとき、この作品がこれまでの時代ドラマの視聴者からさらに多くの人たちに広がっていて、人々にいろいろな形で感動を与えていることをひしひしと感じたね。作品が本当で、自分のものであるかのようにのめりこんでくれる人が多かったよ。人々は本当につかみかかってきて聞くんだ。「なんで今週の日曜は放送がないのか?」と。私は、私たちもできるだけ急いで撮影してるんだよと答えてる。
エリザベス・マクガヴァン:多く場合、おそらく99パーセントの場合は、理想を追求して努力することに慣れているけど、それは(自分以外の)誰にも何の意味もないことなの。シーンを正しく演じるとか、すばらしい脚本を見つけるとか。これまでの歳月で、私は、そんなことは私以外、誰も気にしていないという事実を受け入れたわ。でもこのドラマの場合、私たち全員が驚いたと思うけど、私たちが演じながらすごく気に入った点は、ディテールもすべて、視聴者のみなさんも印象に残っていると感じたこと。そういうディテールにこだわって作った作品なだけに、視聴者がわかってくれるのは、とてもありがたいわ。このドラマの出演者全員が心からそう思っているわ。今回は視聴者も同じ気持ちみたい!自分だけじゃないってうれしいわね。
ヒュー:私は毎日のように、美術部門のきめ細やかさに圧倒されているよ。例えば、私たちが席について朝食のシーンを撮影しているとき、私は新聞を読んでいるとする。その新聞は日付も正しいし、当時の新聞を複製したものなんだ。脚本がそもそも素晴らしい上に、それを実際に細部に至るまで表現することは、細やかな描写という点ですばらしい。朝食の席でウィンカーニス(イギリスのトニックワイン)か何かの広告を読んだり、一番下にはロマノフ一家の死を伝えるニュースの記述がある。その新聞は日付も正しいし、当時の新聞を複製したものなんだ。脚本がそもそも素晴らしい上に、それを実際に細部に至るまで表現することは、細やかな描写という点ですばらしい。朝食の席でウィンカーニス(イギリスのトニックワイン)か何かの広告を読んだり、一番下にはロマノフ一家の死を伝えるニュースの記述がある。それを朝食の席で読むことで実感がわくし、美術スタッフには本当に脱帽するよ。彼らの仕事はすばらしいよ。
――「ダウントン・アビー」の成功は、あなたにどのような影響を与えましたか?
エリザベス:隠さず正直に言うと、期待していたほどでもないわ。私は今でも食器を洗ったり、洗濯をしたり、ヨークシャーテリアのお世話をしたりしてる。(笑)影響が出たら知らせるわね。もちろんドラマの成功は誇りに思っているし、出演できて光栄だわ。変化はそれだけよ。毎日、ほんのちょっとトッピングされてるくらいね。
――何百万人もの人がこのテレビシリーズを見ており、誰かが礼儀作法でしくじるかと目を見張っています。これほどすばらしい本物らしさを維持するにはどの程度のリサーチが必要なのですか?
ヒュー:"アスパラガス事件"という出来事があってね。その日、ディナーのシーンの撮影で、私たちは(アスパラガスを食べるのに)指を使うべきか、フォークを使うべきかで大激論になった。最終的に、私たちは確実な答えが見つからなかったので、ジュリアン・フェロウズがある意見を言い、アリステア・ブルース(歴史考証のアドバイザー)が別の意見を言い、ほかの誰かが3つ目の...という具合になった。それで結局、私たちはアスパラガスをスライスして、豆を食べているふりをしたんだよ!
エリザベス:だけど、アスパラガスにディップを付けて食べるときって、フォークを使うの?それとも自分の指?
――あなたのキャラクターにとってドラマチックなハイライトは何でしたか?
ヒュー:私の場合のハイライトは、ドラマチックなシーンの撮影の時だね。シーズン1で、3人の姉妹がいろんな方法でお互いに喧嘩をしていたが、実に若い娘たちらしい振る舞いだった。あるシーンに特別なショットがあるんだが、そこにはセリフがないんだ。それはメアリーが(少女から)女性へと成長したことを私が気づくシーンだ。あれは特に胸を打たれたね。彼女は自分で考え、行動を起こすようになった。すべての少女がするようにね。みんな大人になっていく。彼女は自分のことを考えるのをやめ、間もなく静養するためにダウントン・アビーのドアからやってくる人たちのことを考えるようになった。あれは大きな分岐点だし、とても感動的だと思ったよ。
エリザベス:シーズン2のコーラの人生は、その大半を屋敷の第一線で戦うことに費やされるの。彼女にとっての勝利とは、屋敷に設けられた療養所を仕切るために引っ越してきたイザベルに、基本的に"くたばれ"と言う機会があるときよ。コーラは、自分の屋敷を取り戻して、再び主導権を手にする。戦争によって一度は自分の屋敷を奪われたけれど、もう一度主導権を握るの。つまりコーラは戦いに勝利したわけ。
――グランサム伯爵はかなり気の毒なキャラクターです。当主ですが、実際は女性たちが物事を仕切っており、第一次世界大戦の第一線へ行き頂点に機会も拒否されてしまう?
ヒュー:そう、それは新シーズンの第1話でね、ここからどん底に転げ落ちるんだよ!(笑)シーズン1でロバートが所有していたすべての確実性は、戦争によってダウントンの周りの世界が揺さぶられるのと同じくらい揺らぎ、彼の戦争への貢献は、彼が期待していたような形にはならなかった。彼はほとんどお飾りの当主だ。彼の屋敷での役割は変わり、第3話では実質上、主ではない。屋敷はそこはもはや彼が統治する領域ではなくなって、けがをした兵士の回復を仕切る人たちの領域となり、療養のための病院として機能するようになるんだ。そこで彼は、自分の役割は何かと自問するようになり、戦争への貢献という点では自分は無力だという感情を抱くようになる。それに加え、相続人であるマシュー・クローリーは、自分が(戦争に)貢献しようと期待していた形で、日々、危険にさらされている。だから憂鬱になるのも最もだし、彼はもう自分が何をしているのかわからなくなっているんだ。
――娘たちが彼に相談せずに好きなことをしているというのは、彼にとってどの程度つらいことなのでしょう?
ヒュー:彼は、第1話でシビルが自分のやりたいこと、したいことのために家を出ると宣言したことは、とても誇りに思っていると思う。彼がそれをうれしく思った理由は、彼女が常に自立した子だったからさ。だがメアリーが自ら行動するようになり、イーディスも彼女らしい方法で戦争に貢献し始めたことには、非常に大きな誇りを感じている。だが、それもまた、彼の権威や居場所が失われることになり、それはのちにとても大きな意味を持つようになるんだ。
――グランサム(伯爵)はベイツに厳しいですが、現代ならそれに我慢できますか?
ヒュー:私には従者がいないからね。ロバートのような人物にはすべてが関連性を持つから、もし誰かが忠誠を裏切り、カフスボタンを付けるために現れないなら、それは非常にけしからんことだね。(笑)ロバートにとっては、誰かがそんなふうに職務を放棄することは受け入れがたいことだ。ベイツがなぜそんなことをしたのか、ロバートは気づいていない。気の毒なベイツは、いつも彼のために自ら犠牲になる。ロバートは自分のまゆの中で暮らしているが、戦争がそのまゆを吹き飛ばすと思うよ。
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――細部への気配りがすばらしいですね。例えば、アスパラガスの食べ方で議論したように。ディテールに関して、ほかにどんな例がありますか?
エリザベス:それはいつも興味をそそられるわね。イギリスとアメリカの文化のちょっとした違いだと思うの。私が誰かと会うときは自動的に自分の手を伸ばして握手してしまうけど、それは必ずしも行われていたわけではないの。それは私が、しょっちゅうしていた間違いよ。私はいつもドアのところにいて、馬車を降りてきた人たちを出迎えていたから、いつも握手をしようと手を伸ばしたくなっちゃうの。でもそれは行われていたことではないし、行われたとしても、手袋をしていちゃダメ!おじぎをして出迎えるべきで、"握手、握手"はベタベタしすぎだったの。
ヒュー:そしてもし握手をするなら、ぎゅっと握るのではなく、軽く触れる程度だ。ほかにもちょっとしたディテールがある。森で撮影したシーンがあったんだが、それは撮り直しになった。その理由は、彼らが何度か話し合いをした結果、ツイード(の服)の仕立てが、町から来た人と田舎で育った人では微妙に違うことがわかったからだ。ロンドンからの客が一人登場するシーンだったが、町の人間と田舎の人の違いが十分でなかったから、それを強調するためにそのシーンを取り直したんだよ。だがそれは礼儀作法上のことではなく、外見に関することだ。それでもそうした要素が本物らしさを目指すことに貢献している。私たちは、単に言葉や登場人物を通してだけでなく、小さなディテールをも通してストーリーを伝えようとしているわけさ。
エリザベス:将校と彼の部下が到着するショットを撮った日は、口があんぐりと開いたわ。その理由は、彼らが扉から入ってくるときに男たちが行った儀式が、信じられないようなものだったからよ。それはすべてアリステア・ブルースが振付をしたもので、すべて間違いなく正しいの。将校が入ってくるときに男たちが行っていたのは、秘密の内輪のクラブの握手なのよ。もし完全に外部の人から見たら、あれはかなり笑えるわ。それはいわば男たちがお互いに持つ歴史的な秘密の言語みたいなものね。
――衣装がすばらしいですが、あの服装はいまの時代でも着たいと思いますが?
エリザベス:全然思わないわ!今はコルセットから解放されているんですもの!でも別の世界を体験するのもちょっといいものよ。
――昔の総督のユニホームを着るのはうれしいかったですか?
ヒュー:うれしかったよ。私のために仕立てられたものだからね。あのシーンは、ロンドンのチャーターハウス広場で撮ったんだ。都会のちょっとしたオアシスさ。緋色の夜会服はいつも魅力的で人目を引くね。
――ドラマの中で出てくるあなたの連隊は、実際に存在したのですか?
ヒュー:彼は紋章院で仕事をしているから、紋章のことを何でも知ってる。だからあの記章は彼の発明なんだ。
――シーズン2では第一次世界大戦が大きな役割を果たしますね。あの戦争に参加されたあなたの親族はいらっしゃいますか?
ヒュー:みんないるんじゃないかな。私は軍服に身を包んだ祖父の写真を持っている。ダン・スティーヴンスが軍服を着た姿を初めて見たときは、ハッとしたよ。その理由は、彼が、軍服姿で写っている写真の祖父と同じくらいの年ごろだったからさ。そのことが家族の記憶を鮮明に思い出させたんだ。それもこのドラマを特徴づけるポイントの一つさ。それは1世代か2世代しか離れていない、手が届く範囲の歴史なんだ。作り話にできるほど遠い昔のことじゃない。それは現実とつながってる。
――「ダウントン・アビー」が成功した理由の一部は、現在、私たちが混沌とした時代に生きており、当時は物事がもっと秩序立っていたからでしょうか?
エリザベス:当時はもっと平穏だったけど、今より自由も少なかったわ。何もかもは手に入らないのよ。
ヒュー:人口の90パーセントにとっては、おそらくひどい時代だったと思うよ。シーズン2では、私たちが話してきたようなすべての確実性や、すべての体制がバラバラに吹き飛ばされてしまう。あらゆる社会的な変化が起こり始める。戦争の不安感や不安定さが、ダウントンやそこにいるすべての人たちに影響を与え始めるんだ。それは全員に影響するから、社会的な確実性は変わり始めるんだよ。
――アメリカで『ダウントン・アビー』がこれほど受け入れられた理由は?
エリザベス:私が教えてほしいわ。アメリカ人は多くのいいテレビ(作品)を生み出している。ストーリー展開の面白さ、感情的に真実みがあるところじゃないかしら。彼らはイギリスという物語の設定に夢中なんだと思うわ。それは周知の事実よ。それにアメリカ人にとって、『ダウントン・アビー』のような番組が好きだと言えば、ちょっとしたインテリみたいな印象を与えるんじゃないかしら。よくわからないわ。単に私の憶測だけどね。だって私もみんなと同じく驚いているんだもの。
――『ダウントン・アビー』はエドワード朝の「ダラス」だと言われていますがどうですか?
ヒュー:そんな感じだね!
エリザベス:私は『ダラス』をよく知らないの。
――ご家族と一緒に『ダウントン・アビー』を見るのはどんな感じですか?
エリザベス:自分が出演した作品を見るのは面白い経験よ。なぜなら、大半の時間、ああ、あそこは私が想像していたのとは違うわって考えてるから。だからそうしたすべてを克服しなきゃならないの。でも、このドラマのいいところは、自分以外のストーリーもたくさんあるところよ。だから、普通は自分が出演した作品だとそうならないんだけど、この作品は実際に彼らの中に引き込まれて見ていることに気づいたわ。
ヒュー:最初に見たときに思うのは、ああ、あいつら、あのシーンをカットしたなとか、なんであのシーンはあそこじゃなく、そこの設定にしたんだとかだ。つまり、かなり技術的な見方をしてる。だから視聴者として楽しむには、もう一度みなきゃならないんだ。
――シーズン1の衣装でキープしたものはありますか?
エリザベス:いいえ。みんなは私が衣装を着て帰宅すると思ってるけどね。でも、少なくとも私は一度もしていない。だけど、私が着た赤いドレスはすごく好きよ。
――『ダウントン・アビー』には、ずっと続いてほしいですか?
ヒュー:報酬次第だね(笑)!
大ヒットドラマ『ダウントン・アビー』のシーズン2は、いよいよ11月30日(日)23:00よりNHKにて放送スタート!
Photo:『ダウントンアビー』
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