現地時間9月18日(日)、ダウンタウン・ロサンゼルスにあるマイクロソフト・シアターにて開催された第68回エミー賞授賞式。その潜入レポート第2回は、受賞者が立ち寄って記者からのQ&Aに答えてくれるプレスルームからのレポートと、授賞式後のこぼれ話をお伝えします!
今年のエミー賞も様々なドラマがありました。まずは、ホストを務めたジミー・キンメルの上出来パフォーマンスにお疲れ様の拍手を贈ります! ジミーがエミー賞の司会をするのは2012年に続いて今回が2度目。前回よりもリラックスしていてジョークのキレも抜群でした。例えば、『ダウントン・アビー』で複数回受賞をしながら今回も含めて一度もエミー賞授賞式に顔を出したことのないマギー・スミスに対してのメッセージです。「マギー、今回はエミー像を郵送しませんよ! 欲しければ劇場の落とし物コーナーに置いておくから自分で取りに来てください」。大御所の英国女優にここまで言ってのけてしまうジミーに会場も大爆笑。
でもマギー叔母はジミーよりもうわ手でした! 授賞式の翌日にマギーは『ダウントン・アビー』のツイッターアカウントでエミー賞関係者たちに丁寧にお礼を言った後、「キンメルさん、落とし物コーナーの場所を教えてくださったら次の飛行機で伺わせていただくわ。愛を込めて、年寄りマギーより」とのメッセージを投稿。
さすがは"ヴァイオレットおばあさま"、小僧ジミーになど負けてはおりません(笑)
っと、ここまでは授賞式自体の余談でしたが、ここからは特別現場レポートで、スターの素顔が垣間見られる受賞者インタビュールームことプレスルームからの模様をお伝えします! プレスルームがあるのは、授賞式会場であるマイクロソフト・シアターの向かい側にある仮設大テント内。今年もエアコンで生鮮食品倉庫のように寒い広間でエミー賞受賞者たちへのQ&Aが行われました(マジで激寒です・・・苦笑)
今年の授賞式をご覧になった方はご存知だと思いますが、プレゼンターにトム・ヒドルストンが出たんですよね。この情報を事前に傍受した筆者は、どうかトムが『ナイト・マネジャー』で主演男優賞を獲りますようにと祈っていたのですが(受賞しない限りプレスルームには来ないので・・・笑)、でもやはり予想通り、『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』のコートニー・B・ヴァンスが主演男優賞を受賞したため、生トムを見る可能性は一瞬のうちに打ち砕かれたのでした。でもコートニーの演技はハッキリ言って愛するトムの演技よりも上でした。(トムごめん!)
12部門制覇でエミー賞受賞数のトップを行く『ゲーム・オブ・スローンズ』に続いて、9部門で受賞を果たした『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』は、お世辞抜きで今年必見ドラマです。
この作品はリミテッドシリーズ/TVムービー部門で主演男優賞・助演男優賞の両方を獲得したわけですが、主演男優賞受賞者のコートニーと助演男優賞受賞者のスターリング・K・ブラウンがプレスルームで興味深い話をしてくれました。コートニーは、O・Jが大学のアメフト選手だった頃から大ファンだったことから、事件の報道に大変なショックを受けて、そんなことは信じまいと報道をほとんどシャットアウトしていたそうです。そして被告側弁護団のリーダーであるジョニー・コクランを演じると決まってからも彼の法廷でのパフォーマンスを一切参考にすることなく、ライアン・マーフィーの演出に従い自分なりのジョニー・コクランを演じたとのこと。実在した人物を演じる場合に参考にするものがなくてもあんなに素晴らしい演技ができるものなんだなぁ、と感心してしまいました。
一方、検察側のクリストファー・ダーデンを演じたスターリングは、O・J事件が勃発した当時はまだ学生で、黒人が直面していた社会的ギャップに憤りを抱えていたため、彼の裁判では詳細も分からず単にO・Jの弁護団を応援していたそうです。でもこのドラマで検察官を演じて事件の詳細を目の当たりにした時、「当時の自分が間違った見解を持っていたことが今更わかった」と吐露していました。「僕たち多くの黒人は、ニコールとロンという人が命を失った殺人事件だということをすっかり無視して、事件を人種問題にねじ曲げてしまっていたんだ」と後悔のにじむ声で話していました。
また、スターリングはドラマへの出演が決まった時に本物のクリストファー・ダーデンに連絡を取ろうと四苦八苦したのですが、結局行き違いなどが続いた挙げ句に本人とはコンタクトが取れずじまいだったとか。「彼はきっと、O・J事件に関係したことからなるべく遠くに離れていたいのだと思う」と分析していました。
本作で主演女優賞を受賞したサラ・ポールソンの方は、スターリングの状況と打って変わって、自分が演じたロサンゼルス検事マーシャ・クラークさん本人とともに授賞式に出席しており、和気あいあいムード。
サラは、プレスルームでの質疑応答で「ドラマの撮影中は、マーシャさんに迷惑がかかりませんように、とずっと祈っていました。彼女は私たちのようなセレブでなく公務員なんです。スカートの丈の長さや髪型でとやかく言われる筋合いのない人だったのに、O・J裁判のせいで大変な目に遭ったんです」と自分が演じた実在の人物に対して気遣いを示しました。番組の製作中にはプロデューサーだったマーフィーのリクエストにより、マーシャさん本人とは一切接触しなかったそうです。「だから、今回エミー賞にマーシャさんを誘った時もどんな返答が返ってくるかわからなかった」と緊張したことも話していました。でも、どうやらすっかり親しくなった"二人のマーシャ"は、授賞式後も一緒にパーティーなどに出席して楽しい時を過ごしたようです。
エミー賞での"O・J・シンプソン事件・フィーバー"の後は"ゲーム・オブ・スローンズ・フィーバー"です。歴代のどの番組よりもエミー賞受賞数が多いドラマとなった『ゲーム・オブ・スローンズ』、プレスルームでのQ&Aもすっかり毎年の恒例となりましたが、毎回思うのは壇上に上がる人数の多さ。カメラのファインダーに収まりきれないほどの人数で、思わずパノラマで撮影しようかと思ったくらいです! 今年はブライエニー役のグウェンドリン・クリスティーが何やら随分はしゃいでいました。酔っぱらっていたのかな!?(笑)
そんなプレスルームで一番印象に残ったのは『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』で主演男優賞を受賞したラミ・マレック。受賞した瞬間も信じられないといった様相で、「別の人の名前が呼ばれると思っていたんだ。だから自分に向かって"動いちゃダメだ。別の人が呼ばれたに違いないんだから"・・・って言い聞かせてた」と語ったラミ。でもそのうち、周りの人たちが笑顔で振り向きだして、本当に自分の名前が呼ばれたのだと理解したそうです。ラミは受賞後かなり感情が高まっていたようで、受賞スピーチの後でホストのジミーからおめでとうのハグをもらうと、感情が一気に溢れ出して号泣してしまったとか。「泣きながら、ジミーのスーツにシミが付かないように祈っていた」と言っていました。
ラミのご両親はエジプトからアメリカに渡ってきた移民で、彼を含む3人の子どもの将来だけを考えて一生懸命働いて、ラミたちに成功するチャンスを与えてくれたのだそうです。『MR. ROBOT』ではハッカーであると同時に精神を病んだエリオットを演じているラミですが、実際に同様の病で苦しむ人たちの糧になればと、一生懸命リサーチをして役に取り組んでいると語っていました。そして報道陣からの質問がひとしきり済むと、広報係の女性に連れて行かれそうになったのですが、再びステージに戻ってきて、「ここに来てくれている記者の皆さんが番組に対して思いやりのある批評やコラムを書いてくれたことで今日の僕があるんです。本当にどうもありがとうございました」と私たちにお礼を言って去っていったのです。セレブが記者にお礼を言うことなど滅多にないハリウッドで、ラミが送ってくれた言葉の温かさは本当に胸に染みました!
ということで、今年も大成功に終わったエミー賞。ラミが残してくれた温かい言葉を胸に家路に就いた夜でした。
(写真・取材・文: 明美・トスト / Akemi Tosto)
Photo:ジミー・キンメル (C)Kazuki Hirata/HollywoodNewsWire.net マギー・スミス (C)Izumi Hasegawa/www.HollywoodNewsWire.net