女優たちがすべてを賭けた"格闘"が見どころ!!『ブラインドスポット』シリーズの知られざる魅力に迫る。

観光客たちがめまぐるしく行き交い、無数のネオンの光が夜を彩る、NYのタイムズ・スクエア。
その中で、一人の警官が路上に放置されたボストンバッグを見つけた。

怪しさに気づき、バッグに動揺する警官。楽しげに散策する人々は、その異物を気にも留めない。
警官がバッグに付いている紙のタグを見ると、

CALL THE FBI (FBIに連絡しろ)
と書いてある。

そして...

誰もいなくなったタイムズ・スクエア。

NY警察が、観光客や周囲のビルや店舗の人々を一切避難させたのだ。
異様に静かな広場にまだ置かれたままの大きなバッグ。

辺りには、不気味な緊張感が漂う...

そのバッグに、爆発物処理班の男が一人、近づいていく。
危険物の処理のミッションは、常に死と隣り合わせだ。

防護服に身を包んだ男は、突然、目を見開いておののいた。

バッグが動いたのだ!

そしてバッグのファスナーが、勝手に開き始めた...

中から現れ、立ち上がった「女」は、全裸だった。
まぶしいライトを浴び、震えながら、爆発物処理班員の厳しい指示の言葉に従い、両手を上げた彼女の全身の肌には、おびただしい数のタトゥーが刻み込まれていた。

これが『ブラインドスポット』の、息をのむファーストシーンだ。

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この映像の衝撃は、全米のテレビドラマファンを驚かせ、2015年秋の新シーズンの話題を独り占めにした。米国の地上波ネットワークNBCが、『ブラックリスト』に次ぐ犯罪サスペンスで、観る者を魅了したのだ。初回放送は、録画視聴も含め約1700万人の眼を引きつけ、放送からまもなく「第2シーズン」の製作を決めた、異例のドラマだ。

傑作と呼べる作品には、必ず《名シーン》がある。

第1シーズンの第1話の最初のシークエンスに、その《名シーン》を持ってきた、製作チームの心意気には唸らされた。

この場面には、近年ありがちな"背景のCGIによる背景の合成"が無い。実際にタイムズ・スクエアで、車や観光客の通行を完全に遮断し、深夜3時、主演女優は、本当に一糸もまとわぬ姿で、ボストンバッグの中で身を縮めていたのだ。そして容赦なくサーチライトが照らし出す中、4台の撮影カメラが狙う前で、迫真の演技を見せた。

この鮮烈なシーンだけでも、一度は観てみる価値がある。ハリウッドはこれまで「男性至上主義」と呼ばれてきたが(※女性監督がまだまだ少なかったり、男性スターより女性スターのギャラが低く設定されることに対し、業界内のパワー溢れる女性たちは闘いを今も挑んでいる)、テレビドラマのシリーズでは女優たちが番組を見事に牽引することが、このところ著しい。

そして、ジェイミー・アレクサンダーも、その仲間入りを果たしたのだ。

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本ドラマよりも一足先に、彼女を一躍世間が知るところにした作品は、やはりマーベル・スタジオ製作の映画『マイティー・ソー』シリーズだろう。その中でジェイミーはソーの仲間の一人、"レディ・シフ"を演じている。そして同じ役でドラマ『エージェント・オブ・シールド』にも何度か出演した。しかし、物語の中心のキャラクターではない彼女は、常に脇に置かれた印象は否めなかった。もちろん、大作映画や、人気のドラマに何度も登場できることは、ハリウッドの競争の中ではそれだけで本当に素晴らしいことなのだが、

『ブラインドスポット』で主役を演じきることは、彼女の運命を一変させる!

とジェイミーは一番わかっていたのだろう。それだけに彼女の演技には気迫が溢れている。本シリーズでは、レディ・シフ役と比べても顔つきや体型がかなり絞り込まれているのが明らかだ。肉体的な強靭さと、過去を知らない感情の不安定さや脆さを併せ持つ、という役の要素を完璧なほどに演じきっている。

「役」を競う凄まじい倍率のハリウッドでは、"主演"や"レギュラー"の座につくのは、至難の業だ。

ジェイミーは、この役にすべてを賭けたのである。

考えてみてほしい、ケーブル局やプレミアム・チャンネルではなく、1000万もの視聴者がリアルタイムで見つめるような地上波のドラマ番組で、主演女優が冒頭から全裸で現れるようなリスクの高いストーリーなど滅多にあるものではない。「脱ぐ」こと自体が偉いわけではない、そこで度肝を抜く勝負に出る、地上波の枠を越えてやる!というクリエイター、女優、スタッフらの勇気ある試みに、頭が下がるのだ

ジェイミーの身体には、7時間以上をかけて、タトゥーのメイクアップが施された。(※シーズンが進むにつれ、のちのち、遠めのショットなどではタトゥー柄を施したボディー・スーツなども利用され、準備時間は短縮されたらしい)。7時間の全身メイクに耐えたあと、真夜中のNYで撮影がスタートする...これだけを想像しても、過酷さは並々ならぬものがある。しかも、ジェイミーは、タトゥーをまったく嫌がることもなく、撮影毎に何時間でもかけて役に近づいていくことに前向きだったそうだ。

この突如現れた「女」は、FBIに身柄を確保される。彼女には記憶がまったく無い。名前すら判明しない「女」を、FBIは"ジェーン・ドウ"と呼んだ。

"ドウ"という呼び名、映画やドラマファンなら、どこかで耳にしたことがあるはずだ。僕は、"ジョン・ドウ"...という役名を思い出す。"ジョン・ドウ"は、映画『セブン』(デイヴィッド・フィンチャー監督、ブラッド・ピット主演)で観客を震え上がらせた、ケヴィン・スペイシーが演じた連続殺人者の役名だ。

"John Doe"は、身元不明の男性の総称として使われる名前で、
"Jane Doe"は、身元不明の女性の総称なのである。

ジェーン・ドウ。一体、彼女は誰なのか...?

この番組を説得力の強いものにしている重要なポイントに、スリルを生む巧みな映像処理と、斬れ味の鋭いアクション(スタント)がある。

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記憶を失っているジェーン・ドウは、高度な格闘技術を身につけており、外国語も理解できるという、おそらく特殊な訓練を受けていたはずだという背景が、徐々に明かされていく。このキャラクター設定は、傑作『ジェイソン・ボーン』シリーズ(マット・デイモン主演)のボーン役にも似ている。

『ジェイソン・ボーン』や『ブラインドスポット』のような作風を成功させる最も重要なカギは、緊迫したリアルさだ。存在そのものが"兵器"だとされる人物設定は、ジェイソン・ボーンもジェーン・ドウもまったく同じ。しかし、「何らかの組織による特殊な訓練を受けた」という背景をもっともらしく演じることをそれらしく見せ、視聴者や観客の眼を騙すことには、相当な努力を要する。特に、ストーリー上、FBIの捜査に協力していくジェーンは、ハンド・トゥ・ハンドの肉弾戦のファイトに挑むことが多く、セルフ・ディフェンス的な防御と攻撃が、脳が判断するよりも前に、身体が反応して繰り出されるような演技が要求される。これが、ジェイミー・アレクサンダーは非常に巧い。相当な練習を積んだ賜物でもあり、また戦うセンスも備わっていたのだろう。ある撮影のアクションシーンで、彼女は鼻の骨を折った。しかし、メイクを施して復帰。撮影は継続されたという。役に打ち込む姿勢が尋常ではないのだ。女優が鼻を骨折...といったら、普通ならショッキングなニュースになったはずだ。

このドラマの中で、ジェイミーはアクション場面のショットの多くを自らも演じているが、アクションの画を描いていくスタント・コーディネーターたち(『ジョン・ウィック』『ダークナイト ライジング』『ブリッジ・オブ・スパイ』『ディパーテッド』などにスタントマンとして名を連ねた強者数名がこの番組のアクションをデザインしている)や、スタントの代役の強力な支えが、番組の素早いキレやリズムを生んでいることも忘れてはならない。特に、ジェーン・ドウ役のスタント代役を担当するカイリー・ファノウ(Kylie Furneaux)は、ジェイミーと仕事で組んで10年来の信頼関係を築いており、カイリーはジェイミーの肉体がどのような動きの幅やスピードに対応できるかを知り尽くしている。しかも見た目も本当に似ているので、ジェイミー自身が演じているショットとカイリーが演じているショットの繋がりに全く違和感がなく、同化している。すべての格闘シーンの動きが信じるに足る、この点は非常に大きい。

映画やドラマの中で、驚くほどの身体能力を披露しなければストーリーが成立しないことは今や日常茶飯事であり、"(訓練された)人間兵器"と呼ばれるようなキャラクターが平凡なアクションを見せれば、目の肥えたファンの関心は一気に冷めてしまうことになる。そういう危惧が、本ドラマには一切無い

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加えて、共演のサリヴァン・ステイプルトン(FBI特別捜査官カート・ウェラー役)も、映画『300<スリーハンドレッド>~帝国の進撃~』やドラマ『ストライクバック』などの作品群を通じて、戦闘や軍事訓練の経験が豊かであり、ジェーン・ドウが危機に晒された時に頼りにするカートの役柄としてぴたりとハマっている。サリヴァンはオーストラリア映画『アニマル・キングダム』でも猛々しい演技を見せた、豪腕のイメージのある俳優だ。

フィジカル的に、語らずとも、人物の背景を感じさせることに成功した、ジェイミーとサリヴァンのアクション場面の数々はこのドラマの絶大なる見どころであり、この二人の役に対する真摯さ抜きでは、作品の成功はなかっただろう。

また、彼らが繰り出すスリリングな演技とアクションの魅力を映し出す「撮影と編集」の技も、特筆すべきものがある。アクションの振り付けは、あまりに長く、複雑になると、俳優たちの負担になる。"振り"がうろ覚えになっては、力一杯演じることはできない。また、覚えたとしても、ただ覚えただけで、痛みや怖さの表情をとらえることができなければ、危機感が視聴者には伝わらず、カメラワークやフレームの広さや角度によっては凡庸な流れに見えてしまう。ならば、完全にマスターでき得る長さの振りを全力のスピードで演じたショットを(一瞬一瞬の表情もとらえつつ)素早いリズムで編集した方が迫力を生み出せる。前述した『ジェイソン・ボーン』や、『ブラインドスポット』が優れているのはこの点なのだ。

撮影のカメラは、"固定"にしないことが多く、"手持ち"で揺れを意図的に起こし、注視する対象を次々と変え、焦点を合わせていく。この手法は、その場に居て、現場を目撃している臨場感を生むので、観る側はついつい手に汗を握ってしまう。さらに、映像のトーンも、やや冷たく感じる色味を貫く。スタジオのセット撮影以上に、ロケーションを重視し、NYの実際のアパートの中や汚れた廊下、階段、道、荒廃したビルの壁、古びた家具など、"実物"そのままの姿を捉え、狭さや雑踏の中での捜査や格闘の生々しさを倍増させている。このドラマの画の秀逸さは、地上波の番組とは思えない、ケーブル局のドラマか、映画のレベルに匹敵するので、そういうタッチの世界に浸りたいファンには是非お勧めする。

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さてもう一人、このドラマの中で"格闘(健闘)"している女優について触れたい。

主人公ジェーン・ドウの全身に刻まれている、あらゆる文字や数字や図柄で、一見して意味の判らないタトゥーには恐ろしい意味がそれぞれに含まれている。タトゥーの一つひとつが、これから起こる事件の数々の解決のヒントになっているのだ。その謎が解けるにしたがい、ジェーンの過去も明らかになっていく。

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それらの暗号のようなタトゥーの謎を、解き明かしていく科学捜査部門のパターソンを演じているのが、アシュレー・ジョンソンという女優だ。研究室から提供する情報で、ウェラー捜査官やジェーンたちをサポートする役割を果たしている。記憶喪失という辛い境遇で、多くの謎を抱えるジェーンを中心とした重厚でショッキングな雰囲気に覆われるシリーズの中でパターソンは、明るさとユーモアを醸し出し、物語の中の"清涼剤"、もしくはマスコットのような人柄で好かれている。どこにでもいそうな普通さと愛嬌がいいのだ。
おそらく、アシュレー・ジョンソンの存在を、多くのドラマファンの皆さんが初めて認識するのが、この番組となるだろう。全米ネットのドラマで、レギュラー枠を獲得したもう一人の新鋭が彼女なのだ。

実は彼女は、映画『アベンジャーズ』の中で、大役ではないものの、重要なポイントに出演している。キャプテン・アメリカことスティーヴ・ロジャーズ(クリス・エヴァンズ演じる)が通う、NYのカフェのウエイトレスが彼女で、名も無い役であるその「ウエイトレス」は、宇宙からのエイリアンの襲来の中、自分たちを救ってくれたキャプテン・アメリカの素顔を目撃し、のちに報道のテレビカメラにそのことを語るという数シーンに登場している。激しい戦闘の中で、希望を感じさせるその役どころは、少なからず爽やかな印象を観客の脳裏に残しているのだ。

その映画から3年...、彼女は『ブラインドスポット』のレギュラー6人の中に抜擢された。

彼女を、ジェイミーと同様に本シリーズに起用したのは、『スターゲイト』シリーズを手掛けてきたマーティン・ゲーロ(本シリーズ企画・製作総指揮)と、ワーナー・ブラザース・テレビジョンと共同製作するバーランティ・プロダクションズのトップであり、ドラマ製作の旗手グレッグ・バーランティ(本シリーズ製作総指揮)だ。

グレッグ・バーランティが、地上波CWネットワークで『ARROW/アロー』『THE FLASH/フラッシュ』などのDCコミック原作ドラマを立て続けに大ヒットさせていることは、ドラマファンの皆さんはご存知だろう。脚本家としても、プロデューサーとしても、その勢いは止まらず、『ブラインドスポット』でもその力量を再び証明する形となった。

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これだけのクリエイターたちに見初められるということは、アシュレー・ジョンソンが端役時代に見せた輝きは本物だったということだろう。いや、ハリウッドの業界において、"端役"という捉え方そのものが間違っているのかもしれない。冒頭でお話ししたように、この国の業界で「役」を掴むということは、無数の競争の壁を打ち破ることなのだから。彼女は「端役」と言われるようなパートを演じていた際にも、"力"を確実に発揮していたということだ。
アシュレーが演じるパターソンは、パズルのような暗号や謎を解明し、その答えをFBIの仲間に告げ、説明する任務を負っているだけに、セリフの分量も難しさも並ではない。それをあたかも(台本を手に格闘したことを感じさせず)スラスラと自然に、しかも聴く側に解り易く説明できる器用さは素晴らしい。彼女のような人の抜擢と活躍には、本当に勇気をもらえる。
第1シーズンの途中(2015年冬のシーズン中盤のフィナーレ)では、そのパターソンの身に悲劇が訪れ、彼女が軸となるストーリーラインがある。その事件をきっかけにジェーンとパターソンが心を通わせるエピソードは感動的だ。
その中盤の折り返し地点から、ドラマはジェットコースター的な面白さで加速する。

全23話あるシーズン・フィナーレまで、どんでん返しが続くこの作品。犯罪スリラーや心理サスペンス、そして女性主人公の痛快なアクションに期待するドラマファンにはたまらないものになるはずだ。
第1シーズン最終話で、「25年前の秘密」が明かされる際のジェイミー・アレクサンダーとサリヴァン・ステイプルトンが見せる、切なすぎる結末の演技は必見!!

そしてこの二人は、第2シーズンの初回エピソードでも、いきなり一対一の渾身のアクションで激突する。出し惜しみしない、製作チームの変わらぬ心意気はあっぱれだ。

第1シーズンで番組が提供してくれたスリル/映像の質/迫力のスタントのレベルは、第2シーズンでも維持され、そしてさらに新キャストも加わる。

知性が光る、『グッド・ワイフ』のアーチー・パンジャビ
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初登場ですぐにキレキレの動きを見せてくれる、『エージェント・オブ・シールド』のルーク・ミッチェル
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得体の知れない闇を感じさせる、『デアデビル』のミシェル・ハード
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「誰を信じていいかわからない」展開のドラマは、彼らを迎え、より豪華な布陣となる。

FBIのみならず、CIA、NSA(アメリカ国家安全保障局)、そして凶悪テロリスト組織に取り囲まれていくジェーンの運命は!?

そして、

「ジェーン・ドウが、一体誰なのか...?」

ついに、その正体も明かされる。

"Blindspot = 盲点・死角"という題名のこの作品は、

まだまだ視聴者を新たな視点に惹き込んでくれるに違いない。

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■『ブラインドスポット2 タトゥーの女』放送情報
WOWOWプライムにて好評放送中
[二]毎週土曜 23:00~
[字]毎週水曜 22:00~
公式サイトはこちら

■『ブラインドスポット<ファースト・シーズン>』商品情報
ブルーレイ&DVD好評発売中/デジタルセル・レンタル配信中
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Photo:『ブラインドスポット』
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