Netflixオリジナル『オクジャ/okja』アン・ソヒョン&ポン・ジュノ直撃インタビュー

第70回カンヌ国際映画祭長編コンペティション部門にノミネートされたNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』で、家族のように大切にしてきたオクジャを救うために、韓国の山奥からソウルまでたった一人で旅に出る、勇敢な少女ミジャを演じたアン・ソヒョンと、監督のポン・ジュノがプロモーションのため来日した。

映画と比べるとぐっと大人びたアンだが、「あれからまた背が伸びたんです」と話す彼女に対し、「(彼女は)撮影中もどんどん背が伸びて、心の中で"これ以上大きくならないでー!"って叫んでいました(笑)」と返す監督の愉快なトークから始まり、撮影現場の雰囲気や、キャラクターの詳細についてが、和やかな雰囲気の中で語られた。

――『オクジャ』を見終わって、しばらくお肉はいらないかな、と感じる視聴者が多いと思いますが、実際にお二人はそのような気持ちになりましたか?

ジュノ:日本に来るとよく豚骨ラーメンを食べていたんだけど、今はすごく葛藤が生じていて...。誰かに見られたらどうしようって(笑)

それはさておき、映画の中でミジャが鳥の煮物を食べているように、これは菜食を強要している映画ではないし、だからといって肉食を批判している映画でもないんです。ただ、ここ数10年の間に生まれた、屠殺システムについては、一度立ち止まる必要があるのではないかと考えました。実際に私はシナリオを書いていた2015年に、コロラドにある東京ドーム4個分くらいの巨大な屠殺場に行きました。1日に5000匹近い動物たちが殺されるそのシステムの細かな部分まで見届けた後、2カ月近く肉は食べられませんでした。食べないのではなく、食べられなかったのです。そこで見たものがあまりにも圧倒的過ぎて。

アン:完成した映画を観たのは、撮影が終わって何カ月も経った後なので、その時には肉を食べていましたが、屠殺場を撮影した時には肉は食べなかったですね。自然と体が受け付けなくなっていました。

ポン・ジュノ

――先日行われた会見では、大きなブタのイメージを見たことが、映画誕生のきっかけとおっしゃっていましたが、それを彷彿とさせるような何かがあったのでしょうか?

ジュノ:会見で"見た"と言ったのは、想像したということなんです。想像したものを現実で形にしてスクリーンに映し出す、それが監督の仕事だと思っているのですが、だからこそ私は実際に見るものと、想像で"見る"ものの境界線があやふやになっていくんです。オクジャも、そのような"見る"過程で作られました。

――デザインをするうえで、力を注いだ部分はありますか?

点を置いたのは、大きいながらも、愛らしく従順な感じが伝わってくる存在にすることです。普通は大きいと威圧的だし、怖いですよね? でもオクジャは、心優しく、まるまるとしたかんじです。ブタとカバをベースにして作っているのですが、ほかに参考にしたのは、フロリダにいるマナティーとジュゴン。優しい顔をしていて、どこか物悲し気な、何かに耐えている顔をしている。その部分もデザインに取り入れました。

オクジャ

――個人的にはトトロとも共通点があるのかな、と思いましたが。

ジュノ:ミジャが、オクジャのお腹の上で寝ているシーンがあるので、そう思われたかもしれないですね。ですが、トトロや猫バスは、ぬいぐるみを作るのに最適な形と毛並みをしていますが、それに比べてオクジャは毛があまりありません(笑)

――ミジャはまだ幼いながらも、意思が強く逆境にも立ち向かっていく強い女の子ですが、アンさんと似ている点はありますか?

アン:一つのポイントにはまってしまうと、諦めずにとにかく最後まで突き進む部分です。決めたことを完璧にやり遂げるまで最善を尽くすところが、似ていると思いました。

アン・ソヒョン

――家族と離れての撮影でしたが、苦労した点はありましたか?

アン:私は普段から両親に頼らない性格なんです。例えば、遊びに行くとか、友達と会うとかだったら両親がいた方がいいかなあと思いますが、仕事の場ですから、両親がいるとむしろ公私の区別がつかなくなってしまうと思うので。だから、大丈夫でした。

監督:プロフェッショナルですね!(日本語で)

――ミジャの育ての親であるおじいさんは、韓国で結婚式などのめでたい行事に贈られる、金でできたブタの置物を彼女に買ってあげたり、「街へ行って恋人を見つけなさい」と言い聞かせたりと、とてもアジア的な印象を受けました。そのような流れもあることから、主人公は初めから女の子と決めていたのでしょうか?

ジュノ:おっしゃる通り、彼はアジア的、または韓国的な考えを持った、典型的な"おじいさん"ですね。(「街へ行って恋人を~」のセリフについて)字幕では"恋人"と出ていましたが、もう少し軽い、"町に出かけて、ボーイフレンドでも作ったらどうだい?"といったニュアンスなんです。もし主人公が男の子であったら、それはそれで理解し合うのは簡単ではないでしょう。ジェネレーションギャップというのがありますから。

そういうものに加え、"少女"を描くことで、さらに理解するのは困難になりますし、その逆も同じです。かわいい孫のためにブタの金塊を買ったり、ボーイフレンド作りのアドバイスをする行為は、心情としては理解できますが、ちょっと強引ですよね。だからこそ、おじいさんと少女、という関係性が描いていくことにしたんです。

ポン・ジュノ

――日本でも大人気の『ウォーキング・デッド』で有名なスティーヴン・ユァンさんとの共演はいかがでしたか? 現場では韓国語でお話ししたりしたのでしょうか?

アン:最初の頃、スティーヴンさんは英語で話しかけてくれていたのですが、私は英語に、彼は韓国語に慣れていないということもあって、英語で聞かれて韓国語で答えたり、その逆もあったりと、不思議な会話システムができあがっていました。でも、私の方から英語で話しかけたり、それに対してスティーヴンさんが韓国語で答えてくださることも増えていき、とても魅力的な楽しい現場でした。

監督:スティーヴンさんは、とてもかわいいです。(またもや日本語で)

韓国語でまくし立てて指示すると「分かりました!」って言っておきながら、隅っこの方へ行って、「今、なんて言ってた?」って通訳に聞くんです(笑)現場では韓国語をたくさん使ってくれて、とてもかわいい青年ですね。

ポン・ジュノ

――スタッフも含め、色々な国からキャスティングをされていますが、意図して選ばれたのですか? また、国をまたいでの撮影となりましたが、大変だった点や、文化や考え方の違いで苦労した点などありましたか?

私の場合、映画はまだ6本しか撮っていませんが、本作でいきなり多国籍のスタッフとの作業や、国をまたぐ撮影が始まったわけではなく、今までにそういう機会があったので、今回も自然な流れがありました。

それは、外国のアーティストさんとの最初のお仕事となった、『殺人の追憶』の音楽監督の岩代太郎さんから始まり、『グエムル-感江の怪物-』のアメリカ、ニュージーランド、オーストラリアのスタッフや、『TOKYO!』というオムニバス映画での香川照之さん、蒼井優さん、竹中直人さんとの撮影などがあります。『TOKYO!』では、自分以外は全員日本人の方だったりと、そんな経験もあり、少しずつ海外での仕事、外国の方々との仕事になじんでいきました。ですから、『スノーピアサー』と『オクジャ/okja』の時には、どこの国へ行って、どこの国の方とお仕事をしても、違和感を覚えたり、やりづらさなどは感じませんでした。

監督は最後に「こんな風に話していたら、また東京でも映画が撮りたくなってきたなあ。ざるそばを食べながら(笑)」とポツリ。アンも、オクジャのぬいぐるみを抱えながら、笑顔で相槌を打った。そんな二人が支えたNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』は、6月28日(水)より全世界同時配信スタート。

アン&ジュノ

『オクジャ』ポスター

Photo:インタビューに応じたアン・ソヒョンとポン・ジュノ
『オクジャ/okja』