華麗なミスコンの舞台裏を描く『Queen America(原題)』は、ユーモアと皮肉たっぷりのコメディ番組。プライドの高い候補者を一流に育て上げてきた熟練コーチが、謙虚で荒削りなある女性の指導を請け負ってしまう。30分枠で気軽に観られる本シリーズは、現在Facebook Watchが英語版を配信中。
♦名コーチ、最高で最低の候補生にバッタリ
美人コンテストの優勝歴を持つヴィッキー(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、女性たちをミスコン優勝に導くコーチとして活躍中。昨年、彼女の指導を受けたヘイリー(ヴィクトリア・ジャスティス)は、オクラホマ州タルサの街で優勝。ミス・タルサの称号をモノにした。よほど誇りだったようで、今ではランニング・マシンに乗る時でさえ優勝のティアラを外さない。
州大会での優勝を目指すヘイリーに付き添う形で、ヴィッキーは上位のコンテストへ。そこで彼女が目にしたのは、候補者の一人であるサマンサ(ベル・シャウス)。最高の美貌を持つ彼女だが、貧しさのためヘアもメイクも自分でこなそうとし、あまつさえトレーに盛られたスナックにガッつく始末。ヴィッキーの旧友でゲイのニゲル(ティーグル・F・ブーガー)は、それを見て思わず号泣。「ああいう人のためのチャリティーはないの?」という要らぬ気遣いのおかげで、サマンサはさらに惨めに。
しかし、どういう風の吹き回しか、ヴィッキーはサマンサの指導を請け負ってしまう。ミスコンの名コーチとして実績を積んできたヴィッキーのキャリアに、初めての危機が訪れようとしている。
♦自然体の美女、サマンサ
ミスコンについて鋭い視点を持っている、と評するのは米Boston Herald。一例を挙げれば、勝者として名前を呼ばれた者は皆、実にわざとらしいほど驚いた表情を披露する。実はこのポイントも、ヴィッキーの指導に織り込み済み。たとえ可愛くても、優勝して当然という態度では好感度が下がってしまうのだ。感謝と申し訳なさの入り混じった表情を浮かべなさい、とヴィッキーはアドバイス。可憐な優勝者の裏に、こんな抜け目のない指導があったとは。
もっとも、このような練習はサマンサには不要だ。彼女の姿勢は至って謙虚。その様子は、米Vultureが詳しく紹介している。多くの候補者の内心とは違い、美女の称号が相応しいとはサマンサは決して思っていない。出場の動機は、副賞として用意された奨学制度だ。貧乏から脱したい一心でミスコンへの応募を決意したのだから。彼女のストーリーにこそ本作の優れた点が現れている、とVultureは評価する。容姿を競うコンテストという視点を超えて、若い女性の未来を切り開くという大会のポジティブな側面を描き出している。劇中では、可愛さなど重要じゃない、というサマンサの独白も。知性でアピールする彼女の戦略にも注目したい。
♦軽いノリなのに真摯
コメディ作品にも様々なタイプがあるが、本作はユーモアと配慮の深さを併せ持つ不思議なスタイルの作品になっている。驚くほどギリギリな大人向けのシーンがいくつか見られる、と警告するのはBoston Herald紙。過激なセリフのなかにはピー音で消されたものもあるようだ。こうした情報からすると、ある種軽薄なノリという印象も。
しかし、その根底には深い配慮が潜んでいる。Vultureは本作を、Netflixで今年配信開始されたドラマ『欲望は止まらない!』と比較。どちらも、ミスコン優勝を狙う少女とそのコーチを描いたコメディであり、非常によく似ている。両作を比べることで本作の良さが際立つ、と同メディアはコメント。『欲望は止まらない!』のあらましは、ふくよかな体型の女子が細身に激変し、ミスコンを目指すというもの。摂食障害などへの誤った認識を助長するとして、配信前から批判が殺到してしまっていた。一方本作には、体型以外の面から女性の魅力を描こうとする試みが感じられる。
『Queen America』は、Facebook Watchで配信中。日本からも視聴可能だが、英語音声のみで字幕は未提供だ。レビュー中で比較された『欲望は止まらない!』に興味のある方は、Netflixで吹替または字幕版を配信中。
『欲望は止まらない!』作品データベースはこちら。(海外ドラマNAVI)
Photo:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
(C) Joe Seer / Shutterstock.com