上半期のベスト作品を各誌が発表するなか、米メディアIndiewireは少し毛色の違うランキングを掲載している。10年ほど前に始まった黄金時代以来テレビドラマは堅実な成長を見せている、と断言し、ここ10年間でのベスト作品をランキングにまとめている。
ここ10年のベスト作品10本
ランキングは50作品にも及ぶが、うちトップ10は以下のとおり。付記された年はアメリカでの公開時期を示している。なお、2009年以前にスタートした作品であっても、2010年代に入ってからもシーズンが継続しているものであれば、ランキングの評価対象となっている。
1位:『LEFTOVERS/残された世界』(2014年〜2017年・米HBO)
2位:『Fleabag フリーバッグ』(2016年〜2019年・米Amazon Prime Video/日本でもAmazon Prime Videoで配信中)
3位:『ブレイキング・バッド』 (2008年〜2013年・米AMC/日本ではNetflixで配信中)
4位:『ボージャック・ホースマン』(2014年〜2019年・米Netflix/日本でもNetflixで配信中)
5位: 『ハンニバル』(2013年〜2015年・米NBC/日本ではHuluで配信中)
6位:『Veep/ヴィープ』(2012年〜2019年・米HBO/日本ではAmazon Prime Videoで配信中)
7位:『30 ROCK/サーティー・ロック』(2006年〜2013年・米NBC)
8位:『ジ・アメリカンズ』(2013年〜2018年・米FX/日本ではNetflixで配信中)
9位:『パークス・アンド・レクリエーション』(2009年〜2015年・米NBC)
10位:『アトランタ』(2016年〜・米FX/日本ではNetflixで配信中)
近年の話題作『Fleabag フリーバッグ』が2位につけるなど、聞き覚えのある作品もちらほら。3位『ブレイキング・バッド』は映画化も決定している名作であり、夢中になって観たという方も多いのではないだろうか。
カルト・ミステリーからほのぼのコメディまで
それでは1位から10位まで、各作品の特徴を駆け足で見てみよう。
トップに輝いた『LEFTOVERS/残された世界』は、人間の消失とカルト集団を軸にしたミステリー。世界人類の数パーセントが消失した世界で、残された者たちは悲しみに包まれる。そんななか、白服のカルト集団が良からぬ動きを見せ始め…。『LOST』のデイモン・リンデロフが脚本・製作総指揮を務めるだけあり、状況が飲み込めたかと思うとすぐにまた次の謎が押し寄せるという思わず引き込まれる構成。ニッチな人気でスタートしたが健闘し、3シーズンまで更新した。
2位『Fleabag フリーバッグ』は、いま話題の人気コメディ。思うままに生きる女性・フリーバッグだが、トラブルだらけの人生でストレスは極限状態。3位『ブレイキング・バッド』は、末期がんを宣告されたしがない化学教師が、家族のためにドラッグ精製に乗り出し、ドツボにハマっていく異色ドラマ。エミー賞作品賞を受賞した名作だ。ブラック・ユーモアで視聴者を引き込んだフィナーレから、気づけば6年が経つ。続く4位『ボージャック・ホースマン』は、気難しい馬人間が主人公の少し変わったアニメ。かつては俳優業で鳴らしたボージャックだが、その落ちぶれようには目も当てられない。
5位には、『羊たちの沈黙』などの映画シリーズと世界観を共有する『ハンニバル』がランクイン。FBI勤務の優れた精神科医だったハンニバル・レクターだが、悪の道に傾倒するように。卓越した頭脳が仕掛ける高度な心理戦に息を呑む。6位『Veep/ヴィープ』は、副大統領の座に就いた女性・セリーナの奮闘記。政界のドタバタを皮肉たっぷりに描くコメディ・ドラマだ。
以下、TV業界を舞台にした社会風刺コメディ『30 ROCK/サーティー・ロック』、スパイアクション『ジ・アメリカンズ』、お役所コメディ『パークス・アンド・レクリエーション』と続く。節目の10位は、日本出身のヒロ・ムライ監督による『アトランタ』。あか抜けない青年が従兄弟をラッパーとしてプロデュースする、ゆるいトーンのお気楽コメディだ。
トップ10以外にも見逃せない名作あり
本ランキングでは、上位のほとんどをコメディが占める結果になった。ただ、惜しくもランキング下位となった作品のなかには、別ジャンルの名作も多数名を連ねている。
34位には、マーガレット・アトウッドの原作をもとに、子どもを産める女性が自由を奪われ、女性は男性の所有物という衝撃的な設定のデストピアな世界を描くSFスリラー作品『ハンドメイズ・テイル/ 侍女の物語』。米Huluで6月より放送開始中のシーズン3は、日本でも今秋Huluにて配信予定。また、女性が主演のドラマといえば、39位『キリング・イヴ/Killing Eve』も外せない。美しく冷酷な暗殺者と優秀な捜査官とのスリリングな攻防をスタイリッシュかつユーモラスに描き、先日発表された第71回エミー賞で作品賞・主演女優賞(ジョディ・カマー&サンドラ・オー)を含む6ノミネート。すでにシーズン3の製作も決まり、世界中で好評を博している。BBCアメリカで今年5月に放送が終了したばかりのシーズン2が、日本でも今年11月にWOWOWプライムにて放送開始予定。
43位『ホームカミング』は、ジュリア・ロバーツが謎の施設で退役軍人の青年たちのカウンセラーを演じるスリラー。自分の知る物語の裏に、まったく別の物語が隠されていたことに気付き、その謎を追う本作は、何通りにも解釈できるフィナーレが美しい余韻を心に残す。
44位にランクインした『ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~』は豪華女優陣の共演が話題の作品。高級住宅地にある小学校に子どもを通わせ、完璧な人生を送っているかのように見えるセレブなママ友たちの間に殺人疑惑が持ち上がるミステリーで、米HBOで6月から放送開始したばかりのシーズン2も好評で、日本でも7月31日(水)よりスターチャンネルにて日本最速独占放送が決定している。
意外にもランキング外となった作品はこちら
この手のランキングではありがちだが、お気に入りの作品が「あった」「なかった」をめぐり、IndieWireのコメント欄には熱心な書き込みが山のように寄せられている。佳作だが選外という扱いになった『MAD MEN マッドメン』(米AMC/日本ではNetflixで配信中)には、入選させるべきという応援の声が多数。1960年代NYの広告業界を舞台にしたドラマで、エミー賞を4度、ゴールデングローブ賞を3度受賞している秀作だ。
海外ドラマの代表格で本年度エミー賞で実に32部門でノミネートされた『ゲーム・オブ・スローンズ』(米HBO/スターチャンネルにて全シーズン放送中)は、意外にも選外にさえ名が挙がらなかった。これについて読者の間では意見が二分。「同作に触れていないランキングなんて信頼できない」という声から、「過大評価されているGOTを除いたのは英断」という評価までさまざまだ。ファンタジーの金字塔として輝き続けてきたが、酷評の嵐となった最終章が議論を呼んだか。
SFスリラー『ウエストワールド』(米HBO/日本ではAmazon Prime Videoで配信中)も、IndieWireの番付ではランク外に。最先端のテーマパークに勤務するアンドロイドたちが、長い虐待生活ののちに反乱を起こすというストーリー。SFとしてはベーシックな設定だが、伏線とどんでん返しに満ちたシナリオが視聴者を驚かせた。
過去10年間を振り返るランキングだけに、懐かしのシリーズから最新作までが出揃うリストとなった。絶え間なく生み出される秀作の数々を見る限り、TVドラマの黄金時代はまだまだ続きそうだ。(海外ドラマNAVI)