Netflixが贈るファンタジー大作『ウィッチャー』の公開が始まっている。剣士と魔術師たちが活躍する中世風の世界観は、まるで『ゲーム・オブ・スローンズ』を想起させるクオリティだ。2019年12月20日(金)のシーズン1配信前にシーズン2への更新が決定し、公開後は破竹の勢いで視聴者を獲得。その10日後にNetflixが発表した『2019年 最も観られた作品 TOP10(日本)』で早くも9位にランクインを果たした。
♦︎特大スケールの歴史ファンタジー
作品冒頭で登場するのは、大剣を頼りにモンスターを討伐し、日銭を稼ぐ男・ゲラルト(ヘンリー・カヴィル)。魔女の男版とも言うべき「ウィッチャー」を名乗りながらも、魔術というよりは剣術と独自の道徳観を道標に生きている。ミュータントとして生まれた彼は、卓越した武術をマスターしながらも、人々にいつも忌み嫌われる存在。あるときブラビケンの街で酒場に立ち寄ったゲラルトは、そんな自分の境遇に初めて理解を示してくれる女性と運命的に出会う。互いの過酷な運命に共感した二人は急速に惹かれ合い、やがて官能的な夜へ雪崩れ込むが...。
一方、まだ十代の幼き王女・シリラ(フレイヤ・アーラン)が暮らすシントラの城は、屈強なニルフガードの軍隊に攻められ陥落寸前。王妃は最後の力を振り絞りシリラを城外へと逃すが、シリラには彼女自身もいまだ知り得ない不思議な魔力が宿っていた。
奴隷として売られながら魔術の訓練を積む女性・イェネファー(アーニャ・シャロトラ)も加わり、時と場所が交錯する中世ファンタジー群像劇が始まる。
♦︎『ゲーム・オブ・スローンズ』終了のショック、その癒しとなるか
ファンタジー大作の宿命というべきか、本作『ウィッチャー』はHBO製作の『ゲーム・オブ・スローンズ』との比較で語られることが多い。米エンタメサイトのAV Club誌は、映像業界は次世代ゲーム・オブ・スローンズを模索し続けてきたと指摘。そのうえで、本作も人気作の後追いなのではと厳しい意見を示している。予算をふんだんに注ぎ込んだ豪勢な作りは認めているものの、血みどろの決闘や突然のヌードシーンなどにその影響を見出したようだ。しかしこれには同誌の読者から反論も寄せられており、『ゲーム・オブ・スローンズ』はジャンルの代表作なので似たように感じるだけだとの意見も出ている。たとえて言うならば、あらゆるスペースオペラが『スター・ウォーズ』との比較で語られてしまうように、中世ファンタジーが多かれ少なかれ似てしまうのはある程度許容すべきなのかもしれない。
他方、より期待できるかもしれない、と見込むのは米番組情報誌のTV Guide。『ゲーム・オブ・スローンズ』は空想巨編として不動の地位を築きながらも、最終章でファンの期待を裏切ってしまう結果となった。本作にはその「トラウマ」を癒す役目さえ期待される。運命と愛をテーマに丹念に作り込まれたストーリーラインと、その線上を歩む勇猛な白髪の剣士・ゲラルト。没入感のある豪勢なセットや衣装が演出するファンタジーの世界に、心ゆくまで浸ることができるだろう。
♦︎整理されたキャラクターに好感
『ゲーム・オブ・スローンズ』と比較して明らかに異なるのは、視点人物が主役3人に明確に絞られている点だ。シーズンを重ねるごとにキャラクターが広がりすぎてしまった『ゲーム・オブ・スローンズ』と比べると、確実に馴染みやすい構成になっている。確かに、無骨な剣士や世界内の複雑な政治背景など、両作品に共通する要素も目立つ。しかし『ウィッチャー』は主要人物を3人にまで削ぎ落としたことで、明確に別の路線を歩んでいる。ミニマムな視点人物を中心に、彼らを取り巻く豊かなキャラクターたちを用意することで、説得力あるファンタジー世界を成立させている、とTV Guide誌は評価している。
本作のもう一つの美点は、いわばジャンルの必要悪であるエログロを極限まで抑えていることにある。確かに第1話では、やや唐突にも感じられるヌードシーンや、ショッキングな自殺シーンの連続など、視聴者を引き込もうとする不自然なフックが感じられる。しかしこうした技法が鳴りを潜めた2話以降、本当のプロットの妙が光り出す、とAV Club誌は論じている。ウィッチャーとして人々に眉を潜められるゲラルト、両親にブタよりも安い値で売り払われ魔女として生きるイェネファー、そして王家を追われながら未知の魔力を秘め続けるシリラ。絶大なパワーと絶望的なまでの弱みを併せ持った3人が壮大な物語を奏でる。
ファンタジー大作『ウィッチャー』は、Netflixで配信中。(海外ドラマNAVI)