ムービープラス『吹替王国』第4弾に登場の小山力也さんに突撃インタビュー!

CS映画専門チャンネル、ムービープラスの人気企画『吹替王国』。"もっと吹替で映画を観たい!"という視聴者からのリクエストに応えるために立ち上げられたこの企画は、特定の声優にフィーチャーして映画をセレクト&一挙放送するという新しい試みだ。藤原啓治さん、大塚明夫さん、玄田哲章さんに続いて、今回は第4弾として、キーファー・サザーランドやジョージ・クルーニーの吹替でおなじみの小山力也さんが登場。ということで、『吹替王国』の番宣収録現場にお邪魔して、小山さんに吹替の魅力を存分に語って頂きました!

 

――そうそうたる方々が選ばれてきた『吹替王国』で今回、小山さんがフィーチャーされることについてご感想は?

素直に感謝申し上げます。沢山の声優さんが活躍されている中でピックアップして頂いて、とても嬉しいです。第4弾ということで4番打者ですからね。「俺が4番だ!」と宣言すると怒られるかな(笑)

――このように特定の声優にフィーチャーした上で、放送する作品を決めるというのは珍しい企画ですね。

色々な媒体やコンテンツが増えて、なおかつお客さんの興味が細分化されていって、その中でこのような企画が実施されるというのは、素直にありがたいなと思います。このような取り上げ方だと、他にも興味を持って頂けますからね。そこは本当に嬉しいです。

――最近は吹替版だけでなく、洋画全体の地上波での放送機会が減っていますからね。

そうなんですよね。ですから、こういう企画があると本当にありがたいんですよ。

――今回は、ガイ・ピアースの「不良探偵ジャック・アイリッシュ」シリーズ、ジョージ・クルーニーの『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』、キーファー・サザーランドの『ポンペイ』の吹替版が放送されますが、これらの作品に対する思い入れは?

本当に、吹替の収録はよく覚えているんですよ。やっぱり大きな役をやらせてもらった作品は、その時の情景が甦ってきたりして覚えていますし、それぞれに思い出があります。『ポンペイ』は最近ですし、映画のスペクタルの王道を行くようなドラマで、俳優陣も映像も素晴らしくて。キーファーも悪役になって、ワルの魅力全開でしたね。

――小山さんはアクション作品の吹替が多いイメージですが、『スーパー・チューズデー~』は政治ドラマということで、他とは少し毛色が違いますね。

まぁそういうのもないと。ドンパチばっかりだとね。アクションに強いと言ってもらえるのも、それはそれで嬉しいですけど。クルーニーの立ち位置が好きですし、自分から手を変え品を変えて、色々とチャレンジすることも必要ですから。

――ガイ・ピアースのメジャー作品としては、同じく小山さんが吹替えされている『メメント』もありますが、今回放送となるのは「不良探偵ジャック・アイリッシュ」シリーズですね。

『メメント』は、喋りっぱなしで楽しかったです。細かい心の機微がいっぱいの激しい作品でした。でも、あれはすでに沢山の人が知ってくださっていますし、視聴者に彼の別の作品を知ってもらえるという意味では面白い選択ですよね。「不良探偵ジャック・アイリッシュ」シリーズでのガイは、分かりやすいアクションをやっています。典型的なB級アクション作品で、それはそれで映画の魅力の一つですよね。

 

――『吹替王国』の面白さの一つとして、今まで吹替えてきたキャラクターによる番宣予告などがありますが、その番宣収録やインタビュー撮影を終えられていかがでしたか?

色々なところから許可を頂いて、やってもいいよと言われて、そうですかと思いながら演じました(笑) 何となく無言のお認めがあったり、あるいはその逆があったりと紆余曲折があるのでね。

――過去に担当したキャラクターを再び演じたご感想は?

まずやっぱり、演じるキャラクターの状況が分からないと戸惑っちゃうんですよ。決まったセリフだけを、さらっと流せばいいんですけど。一応、これはどういう場面で、どういうことをやっていたのかとかが分からないと、なかなか自分の中で腑に落ちなくて。あぁそうかと分かった上できちんと演じるのと、分からないでいい加減に演じるのとでは大きな違いですから。それが、実際に観てくださった方にどれだけ違いとして明確に分かるかというのもあるんですけどね。おちゃらけるにしても、やっぱりやる方としては納得した上でやりたいので、ちょっとそこで戸惑いはしました。

――吹替で面白くしてほしいと言われたという話もよく聞きます。

ありましたね。それはそれで楽しかったりはしたんですけど。本当にヒドイのとかありましたよ(笑) 「発売されて少ししたらもう誰も観ないんだから、とにかく何でもいいからやっちゃって、何やってもいいです」と言われたりしてね(笑)

――小山さんは、俳優座に入団された後、声優デビューとなる『ER -緊急救命室-』のダグ・ロス役まで少し間がありますが、入団当初は声優よりも舞台俳優を目指されていたのですか?

いや、そんなことはないですよ。昔から吹替の映画は好きでしたし、俳優・声優の津嘉山正種さんに憧れて吹替映画を観ていたので、声優はやりたかったんですが、その道が無かったんですよ。そんな時、たまたま『ER』が吹替ファンの知らない声を集めようとオーディションを行っていて、そこで引っかかったんですよね。それが無かったら、声優としての道は開けていなかったと思います。

――大作ドラマの主役級の吹替キャストにいきなりの抜擢ですね。『ER』のオーディションでは、最初からクルーニー演じるロス役を受けたのですか?

NHK-BSが始まった頃の目玉作品の一つでしたからね。ロス役でどうですかと俳優座に話が来て、なぜか分からないんですけど、僕をそのオーディションに出してくれたんですよ。主役級のキャストに関しては色々な劇団や声優事務所に話がいったと思います。

――主役級の声優の方は劇団出身の方がほとんどでしたね。

そうなんですよ。偶然ですけどね。後で話を聞いたら、たまたま綺麗にばらけたんだと言われました。

――声優初挑戦の思い出は?

それまでに聞いた声がいっぱい周りにいて、大先輩の方がビシッといてくださる現場でした。ロスが酔っぱらって歌を唄いながら入ってくるシーンからで、僕のセリフから始まるので緊張しました。でも、そういうのも楽しいもんだと思いましたね。一度の収録で声優が40人を超えた時もあって、すごい収録現場でしたよ。

――今でこそ声優デビュー前に養成所などで吹替の授業を受けることができますが、小山さんはデビュー前に吹替の訓練を受けていたのですか?

そんな経験はありません。いきなり現場に行きました。だから、収録ブースで使用するヘッドホンは、片耳しかない事も知りませんでした。オーディションの時も、このヘッドホンは壊れているんだなと、勘違いしていました。これは要するに、俺は採用されないって事なんだなと、本当にそう思ってね(笑)。
後から考えたら、一方の耳で原音を聴いて、反対側の耳では共演者の日本語を聴かないといけないんだから、当然だよねと気付きました(笑)。

――周りの声優の方に教えてもらったりしなかったのですか?

オーディションは、一人一人、時間差でトライしますから、聞く人がいなかったんです。

――これまで色々な作品の吹替を担当されていますが、特に『24 -TWENTY FOUR-』は日本でも社会現象になるほど人気が出ましたね。吹替されている時、そこまでヒットすると思っていましたか?

こんなに話題になるとは、全然思っていませんでした。24は、自宅でのリハーサルが本当に大変でした。
収録は、1日に2本、午前10時から始まるんですが、自宅で徹夜でリハしても、全然終わらなくてね。駄目だ、間に合わない、もう朝だ、今日は出来ないって、何度も思いましたよ、本当に(笑)。

――かなりキツイ収録現場だったんですね。

いいえ、自分がリハに時間が掛かるなら、収録から逆算して、リハーサルの時間を造り出さなければならないのです。ただ、当時は、VHSだったので、外出先ではリハーサルが出来ず焦りました。今は、ポータブルDVD再生機がありますから、仕事の空き時間に、何処ででもチェック出来ます。吹替は、例えば2時間を越える大作でも、大抵、1日で収録します。昔は、夜の12時を越える事も、時にはありました。キツイと言えばキツイですけど、それはそれで楽しかったです。僕は、スタジオの中で長いこと座っているのが嫌いなんです。出ずっぱり、喋りっぱなしで、ずっと立って収録するのが好きです。素晴らしい作品で主役を戴いて、喋りっぱなし、立ちっぱなしの収録は、吹替冥利に尽きます!

 

――ご自身が声を吹替えたハリウッド俳優とお会いになったことは?

キーファー・サザーランドさんには、2度お目に掛かりました。24と、『TOUCH/タッチ』という作品のプロモーションで来日なさった時ですね。向こうのスタッフからは、「ジャック・バウアーの台詞のリクエストはNG」と言われていたのですが、でもキーファーさんが、「君の日本語のバウアーの声を聴きたい」と言ってくださって、彼から「Drop the weapon!」と叫んでくれて、僕が「銃を捨てろ!」とジャックの声で返すと、すごく喜んでくれました(笑) すごく気さくでフレンドリーな方でしたね。

――『ER』や『24』をきっかけに、他の作品でもジョージ・クルーニーやキーファー・サザーランドの吹替を担当することになったのですか?

いやいや、なかなかそうもいかなくて。大人の事情でね。「なんで、これ呼んでくれなくなったの?」みたいなこともあったりね(笑) もっと呼んでほしいんですけど。

――今まで数多くの吹替をされてきましたが、『ER』や『24』以外で印象的な作品は?

よく質問されるんですけど、大きい役をやらせて頂いた吹替作品はほとんど覚えているんですよ。映画だと『ザ・ロック』『身代金』『シュリ』、それとデンゼル・ワシントンの『悪魔を憐れむ歌』ですかね。デンゼル・ワシントンの吹替を初めてやらせてもらったのは『マーシャル・ロー』でね。宗教が絡んだテロリストとの戦いという、まさに今でもタイムリーな話で。俳優さんも素晴らしいし、よく出来た作品でした。『ザ・ロック』ではニコラス・ケイジを吹替えましたが、あれも良い作品でしたね。

――先程も先輩声優の名前が出てきましたが、尊敬したり憧れている声優は?

初めて津嘉山さんの芝居を観た頃から、本当に津嘉山さんに憧れていたんですよ。自分がそんな仕事ができるとは思っていなかったですけど。吹替でご一緒できた時は嬉しかったですね。

――津嘉山さんは声優だけでなく、舞台や映像作品など幅広く演者として活躍されていますが、そういうところも憧れる点ですか?

色々ですね。大塚周夫さんも時代劇に出演されていましたし。それと、なんて本当にカッコイイ声だと思ったのは、アニメ『忍風カムイ外伝』でカムイの声を演じていた中田浩二さんですね。アニメ『名探偵コナン』のゲストで中田さんがいらっしゃった時は「うわっ、カムイだ!」って思って、嬉しかったですよ(笑)

――小山さんほどのベテランでも、憧れの先輩と一緒の仕事では、そう思われるんですね。

そりゃそうですよ。池田昌子さんの相手役をやらせて頂いたこともあるんですが、その時も本当に嬉しかったですね。

 

――吹替の場合は原音の俳優が存在していて、口の動きを合わせるなど、他の声の仕事とはまた違った難しさがあると思いますが、その点はどう感じていますか?

ただの口合わせにならないように気を付けています。実際に演じている、向こうの俳優さんを、畏怖しなければなりません。その上で、吹き替えで演じる場合、どうしても向こうのニュアンスとは違う事が、絶対にあるんです。それをきちんと汲み取って、日本語の表現として活かす事がとても重要です。

――吹替よりも字幕という方は、そういう所が上手くいってない作品を観てしまって、抵抗感を持つのかもしれませんね。

吹替の粗悪品を観てしまうと誰だってそう思いますよ。良い作品を観ると、吹替の良さを理屈抜きで分かって頂けると思うんですけどね。もちろん、素晴らしい作品は原音が素晴らしいに決まっているし、それをそのまま素直に理解できる人は、それはそれで良いですけどね。吹き替える場合もしっかりとした日本語で自分の血の通った声を喋れる人が吹替えないと。やっぱり、ちゃんと融合した一つの作品になるということを信じて、それを目指してやらないとね。そうすることで、作品自体を壊さずに、別のテイストを加えることも可能になりますから。

――そういった点が吹替の面白さでもあるんですね。

そうですね。日本語だと、こんな風に遊べるんだということも含めて。吹替えることで、こんな風な表現ができるんだということが色々ありますから。シリアス、ギャグを問わずに。

――アクション、サスペンス、コメディなど色々な作品を担当されていますが、好きなジャンルは?

全て好きですよ。何か特定のジャンルというよりも、自分の頂いた役の振り幅が大きいのが好きですね。一つの作品の中でその役が色々な表現をしていると、やっぱり嬉しいです。大きな作品で主演させて頂くのは、そういうキャラクターが多いですね。先程の『ザ・ロック』とか『身代金』とか。

――小山さんが声優デビューされた1990年代後半というと、吹替の収録方法もノンリニア編集などで色々と変わり始めた時期ですね。当時と今と比べていかがですか?

昔みたいにフィルムやビデオをいちいち回さなくても、今はデジタルで観たいシーンがすぐに出ますよね。ただ、逆にそうなると、心の準備ができなくて。突然、「じゃあ、ここだけ別録りします」とかディレクターに言われると、うわって思ったりします(笑)昔は有線でね。例えば『ER』の収録でしたら、ワンロール、15分、テストを終えると、みんなのヘッドホンのコードが、ぐちゃぐちゃに絡み合って、もうどれが誰のコードだか判らない。だから、一旦全部のコードを抜いて、コードを整理して、もう一度差し込んで、それから本番の収録に臨みました。

――今はDVDなどで収録前にチェックできるように映像を事前にもらえますが、当時はビデオテープですか?

収録の数日前に、VHSテープで貰っていました。映画によっては、全員で通し見しかないことも、いくつかありました。前日に声優陣が集まって1回通して見る形で。ジョージ・クルーニーが主演した『ピースメーカー』の時は、まだ吹替の経験が浅かった僕だけ映像をもらえて、他の声優の方は前日に通し見なんてこともありましたね。

――それでは最後に、今回の『吹替王国』の見所をお願いします。

「4番の一振りを見ろ!」以上です!!(笑)...という冗談は置いておいて、とにかく吹替を愛してください。僕もまだまだ修行中ですけど、天職と思って演じておりますので。修行中と言って甘えるつもりもありませんが、日々修行している人間の吹替を愛してください。僕以外の諸先輩もそうですし、才能のある後輩もそうですけど、良いものを作ろうと頑張っている吹替を、どうか愛して頂ければと思います。