昨日より配信が始まった『フォールアウト』のシーズン2。このたび、製作総指揮を務めたジョナサン・ノーランに直撃インタビュー! 兄クリストファー・ノーランと共に培った撮影哲学から、現代社会とリンクする作品のテーマまで語ってくれた。
ゲーム未経験者をも虜にする「独立した世界観」
――シーズン1は原作ゲームのファンはもちろん、プレイしたことがない人でも存分に楽しめる内容になっていましたが、どのような工夫をされましたか?
まず、すべてのゲームが映像作品への脚色に向いているわけではありません。『フォールアウト』の場合は、そのユニークな「トーン」こそが重要でした。
原作ゲームのクリエイティブチームを率いるトッド・ハワードは、新作を出すたびに新たな世界をプラスしています。それぞれのゲームが必ずしも物語として繋がっているわけではなく、各作品がオリジナルストーリーを持っているのです。これはトッドのこだわりでもあります。
ですので、我々も同じアプローチを取りました。ゲームを知らない新規の視聴者を、まるでゲームがプレイヤーを誘うように、新しい世界へと連れて行くことを心がけました。
シーズン1を見ていなくてもシーズン2から楽しめるような、そんな広がりのある世界観をテレビドラマとして展開しています。もちろん、シーズン1は素晴らしい演出がなされているので、ぜひ見てほしいですけどね(笑)。

「デジタルでは無理」を覆した、実写へのあくなき執着
――実写撮影に強いこだわりをお持ちの印象がありますが、技術的な課題も多い中で、「これだけは実写で撮りたい」と考えているものは何ですか?
「なるべく全部撮りたい」というのが本音ですね(笑)。とにかく、できる限りCGではなくプラクティカル(実写的)に撮影したいと思っています。これは兄(クリストファー・ノーラン)と共に映画作りの中で育ち、体験して学んできたことだからです。
私は常にフィルムで撮りたいと考えています。フィルムは光を含めたすべての情報を取り込むことができるからです。本作ではLEDボリュームステージでの撮影も行っていますが、実は友人のジョン・ファヴローが『マンダロリアン』で使った手法を見せてもらったのがきっかけでした。
その後、『ウエストワールド』でも導入したのですが、最初は「カメラ(フィルム)で撮るのは無理だ、デジタルでしかできない」と言われました。しかし、私は「そんなことはない」と確信していました。ボリュメトリックビデオという新しい技術と、昔ながらの撮影手法を組み合わせることで、より面白い映像ができるはずだと。
実際、フィルム特有の少しザラザラした質感や、すべての光を統合する力は、デジタルでは出せない味わいになります。もちろん素晴らしいVFXチームがいますが、彼らに任せる量はなるべく少なくして、カメラで実際に撮ることを大切にしています。

ブルース・リー、座頭市…バイオレンスは「様式美」
――本作が大ヒットした要因の一つに、残酷なのにどこか笑えてしまう独特な世界観があると思います。このバランスは意識されたものですか?
まさにその独特なトーンこそがこだわった部分であり、私が実際に原作……特に「Fallout 3」をプレイした時に感じた魅力そのものでした。最初はレトロフューチャーで笑える感じだったのに、外に出た途端に頭が爆発するようなバイオレンスが起きて、「なんだこのパンク・コミック・バイオレンスは!」と衝撃を受けました。これは絶対に落とせない要素です。
このバイオレンス表現の肝となっているのは、クエンティン・タランティーノ作品や、ブルース・リーなどの東洋のマーシャルアーツ、そして日本の『座頭市』や『用心棒』といった作品に見られるような、ある種様式化された「バレエのようなバイオレンス」です。怖さと面白さが同居するこの感覚こそが、本作を『フォールアウト』たらしめているのだと思います。

『ダークナイト』での経験と、テレビドラマならではの贅沢
――これまでに『ダークナイト』や『インターステラー』などの映画脚本、そして『パーソン・オブ・インタレスト』や『ウエストワールド』などのドラマシリーズを手掛けてこられました。両方の魅力を知るノーランさんが考える、ドラマならではの魅力とは何でしょうか?
どちらも大好きですが、それぞれ特性が異なります。映画の場合、大スクリーンで物語を届けるという点で、やはり監督のメディアだと思っています。映画脚本を書いていると、尺の都合で泣く泣くカットせざるを得ないことがあります。例えば『ダークナイト』でも、個人的にはすごく気に入っていた革新的なシーンがあったのですが、入りきりませんでした。
一方で、テレビドラマは長い時間をかけて語ることができるため、脚本家のメディアだと考えています。映画に比べれば画面は小さいかもしれませんが、より大きな物語を伝えることができます。
私がテレビ作品で特に好きなのは、キャラクターをじっくりと深掘りできる点です。『ウエストワールド』シーズン2で、それまでは背景にいた先住民のキャラクターに主眼を置いたエピソードがありましたが、私はああいうのが大好きなんです。
『フォールアウト』という作品自体もまさにそうで、広大なキャンバスの中で、「ちょっとあの角を覗いてみよう」といった寄り道ができ、見たことのない世界やキャラクターが現れる。この尺があってこそ、様々なキャラクターの物語を深く掘り下げることができるのだと思います。

「移行期」を生きる私たちへのメッセージ
――『ウエストワールド』と本作には、文明とテクノロジーの融合や、人間がどう選択していくかという共通のテーマを感じます。これはノーランさんご自身の根源的な関心事なのでしょうか?
はい。実は12、13年前に『ウエストワールド』のパイロット版を手掛けていた頃、出演交渉のためにアンソニー・ホプキンスとお話しした際にも話題になったことです。
言葉にするのは難しいですが、「今までの世界(Before)」と「これからの世界(After)」があるとして、当時はまだ「今までの世界」に住んでいる感覚でした。しかし今は、その「Afterの世界」へと移行していく、まさにその只中にいるような感覚を誰もが持っているのではないでしょうか。
いずれにせよ、大きな変化がやってくる。ストーリーテラーとして私が強く惹かれるのは、まさにこの「移行していく世界」です。なぜなら、それこそが私たちが今、現実に生きている世界だからです。
『フォールアウト』シーズン2は、Prime Videoにて独占配信中。(海外ドラマNAVI)






