アガサ・クリスティーの原作小説から「殺人は容易だ」ドラマ版が変化した理由

アガサ・クリスティー作品を次々とドラマ化している英BBCが新たに手掛けた「殺人は容易だ」のドラマ版『Murder Is Easy(原題)』(全2話)が、本国にて2023年12月27日(水)・28日(木)の2日連続で放送された。原作小説から変更された点について、脚本家がその理由を説明している。英Radio Timesが伝えた。

原作にある描写もヒントとなり…

BBCは近年いくつものクリスティー作品をドラマ化。2015年の「そして誰もいなくなった」を皮切りに、サラ・フェルプスの大胆な脚色で「検察側の証人」「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「蒼ざめた馬」が映像化された。そのほかには、2022年に『ドクター・ハウス』でおなじみのヒュー・ローリーが監督・脚色・製作・出演を兼任して「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」も全3話のミニシリーズとして放送された。

それらに続いて制作された『Murder Is Easy』の原作は、クリスティーが1939年に発表。現役から退いた元警官のルーク・フィッツウィリアムスは、列車で乗り合わせた女性から彼女の暮らす村で自然死や事故死に見せかけた連続殺人が起きていると聞かされる。女性はロンドン警視庁へそのことを訴えに行くと言っていたが、フィッツウィリアムスは駅で別れた彼女が直後にひき逃げで死んだことを翌日の新聞で知り、事件について調べ始める…というストーリーだ。

主人公のフィッツウィリアムスは、原作では植民地で警官を務めていた経歴を持つということで、ある程度年齢のいった白人男性のはずだったが、今回のドラマ版では米HBOのドラマ『インダストリー』にガス役でレギュラー出演する若き黒人男性のデヴィッド・ジョンソンが演じており、元警官でもない。そうした変更が加えられた理由について、脚色したシアン・エジウミ=ルベールは以下のように説明する。

「主人公はもはや警官ではありません。私がそうしたくなかったので。そして、もともとのルーク・フィッツウィリアムスは、架空の植民地からイギリスに戻ってきた警官なので、明らかに白人です。ただ、原作の中でクリスティーは彼のことを“浅黒い”(brown)と描写しています。私自身、肌が浅黒い女性なので、男性のことを考える時、その人は白人だという風にはそもそも考えません。そのため、フィッツウィリアムスは黒人男性なのだと考えるようになりました」

エジウミ=ルベールはまた、舞台となる村に多くの人々が住んでいる設定であることから、原作にはいなかったキャラクターも増やした。一方で、原作が持つアルフレッド・ヒッチコック作品のような雰囲気は保つようにしたという。

「この物語に関して私が惹きつけられたのは、誰がやったのかを予想する古典的な作品でありながら、ヒッチコック作品のようにミステリーだけでなくロマンス要素もあったことです。そこは変えたくないと思いました。スクリューボール・コメディ(1930年代から1940年代にかけてハリウッドでさかんに作られたコメディ映画のサブジャンル)のように、二人組が衝突しながらも物語が進んでいく…。そういう要素は残してあります」

主演のデヴィッド以外のキャストは、モーフィッド・クラーク(『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』)、トム・ライリー(『ダ・ヴィンチと禁断の謎』)、マーク・ボナー(『シェトランド』)、ダグラス・ヘンシュオール(『シェトランド』)、ペネロープ・ウィルトン(『ダウントン・アビー』)、シネイド・マシューズ(『ターナー、光に愛を求めて』)、マシュー・ベイントン(『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』)、ニムラ・ブチャ(『ミズ・マーベル』)、タムジン・アウスウェイト(『ニュー・トリックス ~退職デカの事件簿~』)など。(海外ドラマNAVI)

参考元:英Radio Times