あなたはアリ?ナシ? TikTokでドラマ・映画鑑賞

キャリアについてのアドバイス、メイクのハック、おすすめの本など、あらゆる情報源として活用されているTikTokだが、最近は、このアプリをストリーミングサービスとして利用する人が増えているという。米Dazedが伝えた。

今年4月、あるユーザーが「今日、TikTokで『一流シェフのファミリーレストラン』を全部見たと思う」とX(旧Twitter)に投稿。8月には別のユーザーが「TikTokで映画を43回に分けて見ることに成功」と呟いた。他にも『グレイズ・アナトミー』『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』など、TikTokに上げられる断片的な動画を繋いで人気番組を完走する人が増えている。

あるアカウントはNetflixの人気シリーズ『エミリー、パリへ行く』を300ほどのクリップに分けてアップロードし、1万1000人以上のフォロワーを獲得。別のアカウントは米Maxの『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』の動画掲載に特化し、シーズン2だけで31万回以上の再生回数を記録している(もちろん、これらは違法アップロードにあたるわけだが)。アメリカの動画配信サービスPeacockはこのトレンドに乗り、コメディシリーズ『Killing It(原題)』のシーズン2プレミアに先駆けてパイロット版をTikTokにて配信した。

小さい画面で数分毎の短いクリップを順番通りにかき集めることは大変、と思うかもしれないが、TikTokを利用するメリットのひとつにコミュニティという側面がある。各動画に設けられるコメント欄で、他のユーザーとお気に入りの番組について議論することを楽しんでいるのだ。ドラマや映画を見るという行為に、コメント欄を通してファン同士で会話できるという付加価値がつけられた。

また、スキップできることに魅力を感じているユーザーも多い。そもそも現在主流の動画配信サービスは、リアルタイムのテレビ放送と違って「好きな時に好きな場所で」視聴できることが最大のメリットだが、TikTokにはドラマや映画のハイライトシーンが上げられることが多いため、要点だけを掴むことができる。つまり、「好きなときに好きなもの」を突き詰めた結果、TikTokでのドラマ・映画視聴に至ったようだ。

ドラマや映画に関しては、ハイライトだけを見るという視聴方法に批判的な層も少なくないということは想像に難くないが、冗長な場面が多いリアリティ番組などに置き換えて考えると、特筆すべきシーンだけを楽しむというのは、合理的といえるのかもしれない。

一方で動画を配信する側にとっても、「話題になりやすい」、「再生回数やフォロワー数を獲得しやすい」というメリットがあるため、ドラマや映画をアップロードする人が後を絶たないという背景がある。

もちろん、メリットばかりではない。キングス・カレッジ・ロンドンのボビー・ダフィー教授は、このような断片的な視聴は「理解を深めるには不向き」であり、「常に新しいコンテンツに囲まれていると、より深く考えるための余白を失い、文脈もわからなくなってしまいます」と意見している。たしかに、『ロスト・イン・トランスレーション』や『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』のような作品は、バラバラなクリップを集めてではスクリーンやテレビと同じような衝撃を得ることはできないだろう。

しかし、TikTokで見たことをきっかけにテレビやストリーミングサービスで全編を視聴する、という流れもあるようなので、結局のところ、視聴者を増やしたい製作側にとって若者の関心を惹きやすいSNSの活用を無視することは難しいだろう。

(海外ドラマNAVI)