1986年、リアルタイムで観た前作『トップガン』は衝撃的だった。F-14戦闘機を駆使したドッグファイトもさることながら、カワサキのスポーツバイクGPZ900R A2で爆走する若武者トム・クルーズがあまりにも美しく、あまりにもカッコ良くて…。あれから36年、肉体も、精神も、スターオーラも、衰えるどころかますますバイタリティーに溢れ、ハリウッド映画を背負って立つほどの巨星になったトムが、とんでもない続編を送り込んできた。最新作『トップガン マーヴェリック』には衰えなど微塵もない、あるのは“進化”という年輪だ。【映画レビュー】
『トップガン マーヴェリック』あらすじ
アメリカのエリートパイロットチーム“トップガン”は、世界的危機を回避するための極秘ミッションに直面していた。誰もが「不可能だ」と口にする無謀なミッションをなんとしてでも成功させたい上層部は、最終手段として、トップガン史上最高のパイロットでありながら、型破りな性格から組織を追放されたピート・ミッチェル、コールサイン“マーヴェリック” (トム)を教官として呼び寄せる。新世代チームとともに命懸けのミッションに挑むことになったマーヴェリックだが、そこには、今は亡きかつての同僚グースの息子ルースター(マイルズ・テラー)の姿があった…。
現在59歳のトム・クルーズが魅せる
レイバンのサングラスに派手さを抑えたフライトジャケット、相棒のスポーツバイクはカワサキのフラッグシップモデルNinja H2に進化し、鍛え抜かれた肉体はむしろ59歳となった今の方が力強く、引き締まって見える。36年前は年上の女性教官チャーリー(ケリー・マクギリス)をメロメロにさせたマーヴェリックだが、今回はジェニファー・コネリー演じるかつての恋人ペニーの閉じた心をジワジワと開いていくという大人の恋模様。御年51歳のジェニファーも変わらぬ美貌を披露し、「こりゃ、焼けぼっくいに火がついてもしょうがない」と納得だ。
ラブストーリーもきっちり押さえながらも、見せ場はやはりF-14からF-18へと進化した戦闘機でのドッグファイト。その肝になるのが、因縁のあるルースターとの心理戦だ。訓練中に父グースを死なせてしまったという負い目だけでなく、マーヴェリックはグースの妻キャロル(メグ・ライアン)とある“約束”を交わし、それがルースターの怒りに火をつけたのだ。
二人の確執は命懸けの訓練をさらにエスカレートさせる起爆剤となるが、撮影前、トムが計画した3カ月のトレーニングを経て、パイロットとして乗り込んだマイルズら若手俳優陣は、7G(体重×7の負荷)に耐えるリアルなリアクションで戦闘バトルに恐ろしいまでの臨場感をもたらしている。その一部始終を捉えたSONY製の最新IMAXカメラの功績も大きく、映画『ラスト・アクション・ヒーロー』さながら、スクリーンに観客を引きずり込んでいく。
よくよく考えてみると、マーヴェリックという男は、いろんな人に絡み、いろんな人の心に火をつけているが、なぜこんなにも爽やかなのか。それはやはり、トム・クルーズの生来持っているパーソナリティーが大きな要因となっている。熱血漢で知られる彼は仕事でも、プライベートでも、ポジティブな意味でいろんな人の心に火をつけ、歴史を作ってきた男。前作でライバル“アイスマン”を演じたヴァル・キルマーも、大病を押して本作への出演を切望したところに、トムへの友情、そして何よりも『トップガン』を愛してやまない気持ちが見て取れる。前作をリアルタイムで体験したファンにとって、彼の出演シーンはきっと涙なしでは直視できないことだろう。
映画『トップガン マーヴェリック』は2022年5月27日(金)より公開中。
(文/坂田正樹)
Photo:映画『トップガン マーヴェリック』© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved. 配給:東和ピクチャーズ