米NBCのサスペンスドラマ『ハンニバル』で、猟奇的殺人鬼の顔を持つ天才精神科医レクター博士をゾクッとするほど妖艶に演じたデンマークの名優マッツ・ミケルセン。同作で海外ドラマファンのハートも鷲掴みにした北欧の至宝が、今度は最新主演映画『ポーラー 狙われた暗殺者』(Netflixにて絶賛配信中)で、賞金稼ぎの標的となる孤高の暗殺者に扮している。実践で鍛えた巧みな戦術とガンさばき、拷問にも屈しない強靭な肉体と精神力、そして、許されぬ過去を背負いながら大切な女性を守り抜く一途な男気...とにかくこの作品は、マッツの魅力を全て凝縮したファン悶絶の逸品なのだ。
ヴィクター・サントス原作の大人気グラフィックノベル「Polar」シリーズを実写映画化した本作は、雇い主から懸賞金をかけられた伝説の暗殺者、通称"ブラック・カイザー"ことダンカン・ヴィズラ(マッツ)が次々と襲い来る刺客を迎え撃つアクション・エンターテイメント。引退まであと14日、ダンカンは50歳を機に退職金820万ドルを手にして余生を楽しむはずだったが、そもそも性根の腐った暗殺会社がそんな大金、払うわけがない。「老いぼれ暗殺者は葬るべし」とばかりに、狂気のヒットマン軍団が血の雨を降らせるが、応戦するダンカンがまぁ〜強いのなんのって!
多勢に無勢でもおかまいなし、弾丸を1発2発食らおうが、全身をナイフで刺されようが、ものともしない鋼(ハガネ)の肉体。接近戦では倒した敵を盾にしながら銃でバンバン撃ち殺し、絶体絶命の窮地でもハイテクを駆使したマシンガンで敵を一気に大掃除。クールで隙のない戦いぶりは、「さすが伝説の暗殺者!」とリスペクトの気持ちさえ生まれるが、渋い顔してダンカンおじさま、心の中にはしっかりエロスも棲みついているようで、いとも簡単にハニートラップに引っかかる一幕も。頭の中は性欲に占領され、体は一糸まとわぬスッポンポン...「こ、これは何かあるとヤバイことに!」と観ているこちら側はヒヤヒヤするが、案の定、ダンカンの命を狙う魔の手が現れる。ここからは前代未聞の"全裸"アクションが展開するが、マッツの肉体が躍動する狂喜のクライマックスに、ファンは悶絶すること間違いなし!
「引退できない最強暗殺者」という点では、キアヌ・リーブスが演じた『ジョン・ウィック』と類似性が高い本作。年齢的にもマッツとキアヌは同世代(実年齢はなんとキアヌが1つ年上の54歳!)、複数の敵にもひるまないガンさばきや格闘技のキレ味も、観た目はほぼ互角。「タイマン張ったら、どちらが強いのか?」などと子どもじみた妄想がどんどん膨らむが、マッツとキアヌの圧倒的な違いは、その佇まいからにじみ出る「哀愁」だ。特に本作では、過去の"ある過ち"が悪夢となってたびたび現れ、ダンカンは「禊(みそぎ)」のためだけに生きているようにも見える。その思いが彼の表情に影を落とし、そこはかとない人生の悲哀を醸し出しているのだ。
そういえば、大人気を博した『ハンニバル』が惜しくもシーズン3で打ち切られ、マッツが「悔しさをにじませていた」と、当時、米Entertainment Weeklyが報じていたが、もしかすると、やり場のない怒りが、彼の中に眠っていた新たな情熱に火を付けたのかもしれない。その後、魔術師のヴィランを冷酷に演じた『ドクター・ストレンジ』(16)、帝国軍に復讐心を燃やすデス・スター開発者を情感豊かに演じた『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)と、超大作に立て続けに出演。いずれもマッツの名を世界に知らしめる作品となるが、伝説の暗殺者を演じた本作は、1作ごとに役幅を広げていくマッツの"現時点"での集大成と言っても過言ではないだろう。
(文・坂田正樹/Sakata Masaki)
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Netflixオリジナル映画『ポーラー 狙われた暗殺者』