『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』でエミー賞主演女優賞を受賞したエリザベス・モスが見えない敵と死闘を繰り広げる最新主演映画『透明人間』が、いよいよ7月10日(金)より公開される。【映画レビュー】
"透明人間"といえば、ユニバーサル映画のクラシックホラーを代表するキャラクター。今回は、1933年版のリブート企画となるわけだが、製作段階で紆余曲折はあったものの、最終的にハリウッド・ホラーを牽引するブラムハウス・プロダクションズ(『ゲット・アウト』『ハッピー・デス・デイ』など)の手に委ねられ、これがまさに功を奏した。
プロデューサーのジェイソン・ブラムは、映画『アップグレード』『インシディアス』シリーズなどでタッグを組んだリー・ワネルに監督・脚本を依頼するが、彼は『ソウ』シリーズの脚本も手がける名手。「透明人間の映画を作るなら、彼の"被害者"の視点から描くべきだ!」と独創性を主張し、結果、この逆転の発想が本作を傑作に押し上げる礎となる。
物語は、天才科学者である恋人の束縛に耐えきれなくなった女性が逃亡を図るも、男は自身が開発したテクノロジーで透明人間となり猛追してくるというもの。これを"被害者の女性視点"で描くということは、すなわち主演女優の演技で本作の成否が決まるわけだが、そんな責任重大な状況のなか、ヒロインに選ばれたエリザベス・モスは、期待に違わぬパフォーマンスを見せる。
ブラム製作の映画『アス』に出演した際、エリザベスはホラーに魅せられ、いつかヒロインを演じてみたいと言っていたそうだが、その希望が叶った喜びからか、冒頭の脱走シーンから、気合いが入りまくり! 髪を振り乱しながら、恐怖顔全開で全力疾走するさまは、ディストピアで過酷な生活に耐える待女の姿は微塵もない。
これでもか!というくらい逃げに逃げて、警官の知人宅という最も安全な場所に避難してもなお、彼の存在を感じるエリザベス。人間探知機化した彼女は、男の"気配"と戦うことになるが、見えない敵とのバトルシーンは、まさに彼女の一人舞台。暴行シーンを暴行される被害者のみで演じるという前代未聞のチャレンジは、ホラー史に残る名場面となった。
リー監督からアクションスター並みの動きを要求され、エリザベスはそれなりに体作りをしたらしいが、『ターミネーター2』のリンダ・ハミルトンには遠く及ばず。ただ、すぐ隣にいそうなごく普通のアラフォー女性が、先端テクノロジーを操るDV男と戦うところに緊迫感が生まれ、そして次第に応戦していく姿が全女性に勇気も与えてくれたりする。
アクション、サスペンス指数は測定不能、ホラー指数はやや低め、女性一人でも安心してドキドキハラハラを楽しめる娯楽作だ。『透明人間』は、7月10日(金)より全国公開。
(文/坂田正樹)
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『透明人間』(c) 2020 Universal Pictures