ネゴシエイター/交渉人と聞くと、誘拐事件の交渉や、企業間のビジネス交渉を思い浮かべる人が多いだろう。だが世の中にはその交渉を生業にしているプロの人たちがいる。今回ご紹介する新感覚頭脳系クライムサスペンス『ランサム 交渉人』は、世界トップレベルの交渉人が、各国で起こる数々の難事件を解決する姿を描いた超話題作だ。
本作は、『X-ファイル』や『高い城の男』などを手がけたフランク・スポトニッツがクリエイターを務めた折紙付の作品。カナダのモントリオールにあるクライシス・レゾリューション社には、交渉人、プロファイラーたちで構成されるエキスパートチームがあった。チームを率いて交渉にあたるエリック・ボーモントを筆頭に、彼らは世界中で起こるさまざまな犯罪を、交渉術で解決していく。数多くある犯罪ドラマの中で、本作がその他の作品と明らかに一線を画するのは、このチームが民間人であり警察やFBI、CIAという政府組織ではないという点だ。さらには、武器も持たずに犯罪者の懐まで飛び込んでいく。そして犯人を逮捕することが目的でもない。あくまで交渉という話術と分析力、頭脳戦で事件に対処していくという今までにないスタイルのクライムサスペンスなのだ。
そんな唯一無二のドラマである本作の魅力をお伝えしよう。
フランスに実在するプロ交渉人もお墨付き!世界で起こる仰天難事件の裏で繰り広げられる頭脳戦
本作は、実在する世界トップクラスの交渉人で、FBI出身のローラン・コンバルベールとマルワン・メリーの存在に、スポトニッツが感銘を受けたことで製作された。ローランたちはフランスに本社を構える国際交渉組織を経営しつつ、今なお世界中を飛び回り、グローバル企業や政府機関と共に事件や紛争を交渉で解決している。そんなプロ交渉人の実体験を題材にした本作では、我々が想像もつかないような複雑な事件や、時代を反映したリアルな犯罪が描かれている。
原題の『Ransom』は日本語では「身代金」の意味で使われることが多いが、(身代金と引き換えの)「解放、釈放」の意味もある。そのタイトルの通り、本作のチームは何よりも人命優先で、人質の解放に全力を注ぐ。面白いのは、犯人に堂々と「警察は呼ばない。それは自分たちの目的ではないから交渉が成立したら逃してやる」とさえも言うことだ。類まれな才能を持つチームメンバーたちは、犯人たちの心理を読み、理解し、いつの間にか犯人さえも気がつかないうちに操っていく。その手法はまるでチェスや将棋の何十手先を読むかのように見事だ。また単純に金銭目当てではない犯罪もあり、要求を明らかにしない犯人たちの目的さえも紐解いていく。派手なカーチェイスや銃声がバンバン飛び交うアクションが多くはなくても、それ以上に興奮する物語がここには存在する。
果たして信用できるのか? 過去と秘密を抱えるメンバーたち
チームリーダーのエリック・ボーモント(ルーク・ロバーツ)は、数千件の事件を片付けた凄腕交渉人。そこに、不採用になったにも関わらず、「雇って欲しい」と半ば強引に押しかけたマクシーン・カールソン(セーラ・グリーン)が加入する。だが彼女には、是が非でもこのチームに加わりたいある理由があった。プロファイラーのオリヴァー、元警官のザラという他のメンバーらも渋々彼女と行動を共にするが、マクシーンの加入により、エリック、そしてチーム全体の脅威となる"ある引き金"が引かれることに。またリーダー、エリックも過去に重大な秘密を抱えていた。元々マクシーンを不採用にしていた理由とは一体なんだったのか。彼女は信頼できる人物なのか。エリックにはどんな過去があるのか。皆が心を読むエキスパートゆえにお互いの素性の探り合いもあり、犯罪事件への対応とメンバー同士の謎というダブルの緊迫感が、普通の犯罪ドラマにはない絶対的な面白さを醸し出している。
北米だけじゃない!グローバルなロケ地にも魅せられる映像美
本作は、米CBS、仏TF1、独RTL、そして加Globalの4か国4局による共同製作。よって、ロケも北米だけでなくヨーロッパまで実際に飛んで行われている。シーズン1では特にフランスの美しい古城や真っ青に輝く地中海などのシーンが多く、重大事件と相反するかのような穏やかな映像美にも魅せられる。
主演のルークは、「フランスでの数ヶ月のロケは本当に最高だった」と話しているが、ロケ地の移動は製作側としては莫大な予算もかかるだろう。だからこそ本作の本気度が伺える。実在するプロ交渉人には、現実に日々世界中から依頼がきているという。本作でも、依頼があればすぐに現地に飛び立つチームだが、彼らは警察やFBIとは違い、自家用ジェットで移動する。その姿はゴージャス感満載でシンプルにかっこよく、これこそが"世界を股にかける"交渉人なのだと思わされる。視聴している私たちも、彼らと共に旅に出ているかのように色々な都市の風景も楽しめるだろう。
クリエイターのスポトニッツによると、世界では年間数万件ものプロ交渉人が関わっている事件が起こっているという。それらが無事解決された背景には、ニュースには出てこない交渉人という影のヒーロー的存在がある。エンターテイメントとして最高に面白い本作だが、楽しむだけでなく実在する交渉人たちの視点、思考、そして勇気をも感じ取ることもできる。エリックを演じているルーク自身も「(プロ交渉人のことを学ぶのは)とても教養的だ」と語っている本作。そんな頭脳系クライムサスペンス『ランサム 交渉人』で、今この瞬間にも地球のどこかで事件に立ち向かっている彼らの活躍を感じてみてはいかがだろうか。
『ランサム 交渉人』シーズン1は2月4日よりDVD発売&レンタル開始
(文/Erina Austen)
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『ランサム 交渉人』© 2016 Ransom Television Productions Inc., Wildcats Productions and TF1. All rights reserved.