Netflixで配信が始まった『マーダーヴィル~謎解きはアドリブで~』。不覚にもノーマークだったが、蓋を開けてみたら、これが実に面白い。少し軽めの犯罪捜査ものかと思いきや、爆笑アドリブ満載の謎解きバラエティー、言い換えれば、ミステリー仕立てのムチャブリ・エチュード(即興劇)。毎回、台本を全く知らされていないゲストが登場し、おバカ刑事の相棒役として全てアドリブで演じながら、しかも殺人事件を解決しなければならないというミッションが課せられる。これが思わぬ展開を引き起こし、笑いが腹筋を直撃するのだ。【ドラマレビュー】
そもそも本作は、イギリスBBC Threeで放送された『Murder in Successville』(2015~2017)のアメリカ版リメイク。ある日、殺人課のベテラン刑事テリーのもとに、新人の相棒がやって来て、一緒に難解な事件の捜査にあたる、という大枠は決まっており、この相棒役をゲストが受け持つ。
テリー刑事を演じるのは、コメディドラマ『ブル〜ス一家は大暴走!』や映画『俺たちフィギュアスケーター』などの"俺たち"シリーズ、さらには『怪盗グルーの月泥棒』『LEGO ムービー』などアニメの声優としても活躍するウィル・アーネット。本作では病みつきになるほど超ノリノリ! ほんの一瞬、ケヴィン・コスナーに見える時もあるが、総じて中二病全開のトボけたおっさんだ。
そんなウィルの餌食?となるゲストは、シャロン・ストーン(『ラチェッド』)を筆頭に、アニー・マーフィ(『シッツ・クリーク』)、クメイル・ナンジアニ(『シリコンバレー』)、ケン・チョン(『コミ・カレ!!』)、元アメフト選手のマーショーン・リンチ(『ウエスト・ワールド』)、そしてコメディアンのコナン・オブライエン(『ブル〜ス一家は大暴走!』)と、海外ドラマファンには馴染みのあるスターが勢ぞろい。テリー刑事がぶちかます笑いじかけのアドリブに耐えながら、どこまで犯人を推理できるか...素早い反応、粋な返し、笑いをもたらすセンスなど役者としてのさまざまなスキルが試される。
※ここからは内容のネタバレはないが、構成のネタバレが多少ありますのでご注意ください。
ちなみに、テリー刑事と相棒役のゲストが事件の捜査にあたる、という大枠だけが決まっていると前述したが、もう一つ、捜査の流れのなかでこの番組には決まりごとがある。それは、テリー刑事がゲストで登場した相棒と面談し、失礼かつおバカな質問を投げ、笑いを堪えながらもゲストは役になりきり回答しなければならない。そして、面談の茶番が佳境に入ると、別居中?の妻で警察署長の女性が現れ、「事件よ!」と空気を一変させる。
ここから現場検証が始まるのだが、一応、殺人を紐解くヒントがあちこちに埋め込められていて、視聴者も台本を知らない俳優と一緒に謎解きできるという楽しさがある。容疑者は3人、警察署での取り調べ、訪問、潜入などの手法で捜査を進めるのだが、毎回、大笑いさせてくれるのが潜入捜査だ。
潜入するためにゲストがイヤモニをつけるのだが、変な偽名を名乗らせて(例えば、アイダホ・ポテト・ウマタロウとか)、俳優が思わず吹き出しそうになったり、「クールにしろ」と言いながら出来損ないのゴリラのような歩き方を伝授したり、まぁ、俳優はたまったものじゃない。時には、死体役の俳優さんまでイジリ出し、死んでいるのに目をぴくぴくさせたり、半笑いになったり...テリー刑事、恐るべしだ。
そして、捜査が終わったところで、エルキュール・ポワロ風にテリー刑事が容疑者を集めて、ゲストの俳優にガチで推理した真犯人を発表させる。するとそこに、またまた署長が現れ、その推理は...「当たり!」「ハズレ!」とジャッジするという流れ。その時のゲストのリアクションがまた面白く、視聴者も自分の推理が正しかったかどうかで一喜一憂する下りは妙な一体感さえ感じる。笑いに惑わされず、いかに真犯人を突き止めるか...よくよく考えると、とても緻密に練られた秀逸な番組、と言えるかもしれない。
(文/坂田正樹)
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『マーダーヴィル~謎解きはアドリブで~』Netflix