『プリズン・ブレイク』を見ながらリアル・プリズナーが誓うこと...

この数年、アメリカで犯罪ドラマが流行っている。それも昔ながらの刑事物ではなく、『CSI:』シリーズを代表する科学捜査班物。『Weeds~ママの秘密』の様に、郊外に住む普通のママがマリファナを売るコメディ。囚人たちの現実ルポ系ドラマなど、ちょっと捻ったドラマが受けている。

囚人物は、昔から脱走劇や、無実の囚人対極悪非道のシステムの陰謀物が定番だが、ここ数年で、もっと写実的な刑務所物が登場してきた。善悪をはっきりするのが好きなアメリカにめずらしく、グレーな部分の多いドラマ、「犯罪者にも良い人もいる。善悪の分け隔ては紙一重」的なメッセージに共鳴者が増えてきているのだ。
写実的な刑務所ジャンルが受けている理由の1つとして、アメリカでは刑務所が身近な存在であるということが挙げられる。『Law & Order』は、ニューヨーク市ライカーズアイランド刑務所が使われたし、『プリズン・ブレイク』では、シカゴ州ジュリエット刑務所が使われた。
また、アメリカ人の15人に1人、黒人男性の3人に1人は、一生のうち何回か刑務所にお世話になるという。それだけに、 刑務所経営は立派な産業で、ニューヨークの田舎町などでは、町の経済すべてが刑務所の建設、運営にかかっていたりする。日本で刑務所が近所にオープンするとなると反対運動がおこりそうなものだが、アメリカでは反対に、刑務所産業ウェルカムなのだ。

ラッパー上がりのPのプロダクションの撮影現場で、プロダクション・アシスタントをしているXと出会った、日本から来たばかりの女優の卵M。Xは俳優と見間違えるほどの容姿で撮影中からデートを重ね、まさにラブラブ。が、そんなある日、Mが暗い声で電話をかけてきた。
「彼、一度もうちに泊まったことがなくって、いつも9時前にはブルックリンに帰っていくの。週末も、会えないときとかあって。それに家にも連れて行ってくれたことないし、あやしくない?」と。
確かにあやしいが、プロダクション系の男はどれもあやしい。そのくらいで参っていたら、付き合いは無理。そして、「家に連れて行ってて何度も頼んだら、寮みたいなところにいるから、門限があるしゲストは無理だって。嘘っぽくない?」。
"寮"という言葉に、ぴんときた。
「彼、お酒飲む?」
「ううん。そういうとこ、彼、とっても真面目なの」
うーん、真面目というか...。
「彼ずっとブルックリンに住んでいたって?」
「アップステートにしばらく住んでいたみたいだけど」
ニューヨークからカナダにむかって北上した地域をアップステートと呼ぶが、ストリートスラングではニューヨーク州の刑務所という意味になる。仮出所をしたり、刑期を終えた囚人は、半年ぐらいハーフウェイハウス(社会復帰をするための支援、訓練をする施設)に入れられ、そこで徐々に社会復帰をする。 酒や薬物使用は禁止で、門限もきびしい。けれど、社会復帰の一環として、職業につくことが義務付けされているので、昼間はみんな普通に仕事をしている。
Mに忠告するべきかと迷っているうちに、Xの告白で彼の犯罪歴を知ったMは、慌てて彼と別れてしまった。犯罪者であったことが怖かったらしい。そんなXが、ブルックリンで行われたコメディの撮影に呼んでくれた。
しょげているかと思ったが、Xは悪びれる様子もなく、元気に働いていた。その番組のプロデューサー自身、幾つも前科があり、新聞沙汰になった発砲事件の裁判は、まだ記憶に新しい。その上、彼の直属の上司は仮出所が終わったばかりだという。ラップ系プロダクション内だと、前科など成人式のようなもの。大人になるための1つの儀式程度の認識しかないらしい。
「ところで、刑務所の中でも、刑務所物のテレビ番組とかって見てるの?」。
なんでそんなこと知りたいの、と不思議そうにしている彼に、日本では『プリズン・ブレイク』がすごく人気があったんで、アメリカの囚人はどんなテレビ番組を見るのか知りたくって、と答えると、彼は大笑いをした。
「ニューヨーク市の刑務所は、広間のチャンネル権を争って死傷事件が起きるくらいだけど、州の刑務所だと、各人種を代表する委員が一週間ごとに番組のプログラムを構成するんだ。人気が高いのはスポーツで、その次にジェリー・スプリングのバラエティ・ショー。HBOの『OZ』は刑務所の現実そのものだから人気があったな。『ザ・ワイヤー』も臨場感があるしね。『プリズン・ブレイク』は、あんまし現実感はないんだけど。でも...」と 少し躊躇する。
「あのドラマを見て、みんなでいつも誓うんだ。もう二度と刑務所には戻らないようにしようって」。
テレビの前で目をうるうるさせて、番組を見ながら誓い合う囚人たちの姿を想像する。その姿は、Mの恐れていた、犯罪者のイメージからほど遠かった。

 

 

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