【お先見!海外ドラマ日記】自分がクローンのひとりだったら? 絵空事ではすまされない現代サスペンス『Orphan Black』

自分と瓜二つの人間を、ある日偶然に見かけたら、どうしたらいいだろう。

とりあえず話しかけて、お近づきになってみる? これも何かの縁だと、仲良しになる? もしかしたら生き別れの双子かもしれないから、出生の秘密を一緒に探り当ててみるか。あるいは"触らぬ神にたたりなし"と、見なかった振りをして一切関わり合いにならない、という選択肢もあるだろう。

しかし、今回紹介するドラマの主人公はひと味違う。彼女が真っ先にとった行動とは、「個人情報をいただいて当人になりすまし、銀行口座から多額のお金を盗む」ことだった。

BBC Americaで3月30日(土)に放送が始まったドラマ『Orphan Black』は、ひらたく言うと、「自分がクローンのひとりであることを知ってしまった女性の話」だ。羊を対象にしたクローン実験が成功してから、はやくも20年近くがたっている。今世紀に入って、新興宗教団体が「クローン人間を作る」と宣言したことも記憶に新しい。もしかしたら人間を対象にした実験はすでに成功していて、クローン人間は私たちと同じような生活をしているのかもしれない。いやそれどころか、あなた自身がそうしたクローンのひとりだとしたら...? たいへん興味を惹かれる設定で、前評判もかなりよかったのでチェックしてみた。

ニューヨーク近郊を走る列車の中で、主人公サラはうたたねから目を覚ます。英国なまりがあり、ちょっとパンクな身なりをした女だ。乗り過ごしたことを悟って舌打ちをし、あわてて降りた夜中の駅。プラットホームの公衆電話で通話相手と口論になる。

同じホームに、悄然とたたずむもうひとりの女。身なりのよいその女は靴を脱ぎ、スーツジャケットをきちんと折りたたんでバッグのわきに置き、こちらを向く。その顔は、サラとそっくりだった! しかも女はホームのふちに向かってふらふらと歩き出し、猛然と滑り込んできた列車の前に身を投げ出してしまう...!

遺体の回収作業があわただしく行われるなか、茫然自失としていたサラは、女の遺していったものに目を留める。誰も遺品の存在にはまだ気づいていない。ハッと我に返り、何食わぬ顔でバッグを持ってそそくさと立ち去るサラ。そのバッグの中には、現金と身分証明の入った財布、そして、2個の携帯電話とカギが入っていた。身分証明から、自殺した女はエリザベス(ベス)・チャイルズという名前だとわかる。高級アパートに住み、羽振りのよい生活をしていたようだ。高級車を所有し、イケメンの恋人もいる。

一方サラはといえば、踏んだり蹴ったりの人生を歩んでいた。親のいない不遇な生い立ちで、ヤクの売人と付き合うようになってからは、娘のキラを里親に預けたまま一年近くも帰っていない。そして、いまはとにかく大金を手にしてキラを取り戻し、人生をやり直したいと切実に願っている。

そこでサラは一計を案じた。死んだベスにうまくなりすませば、ベスが銀行に預けてある多額のお金を引き出せるのではないか? 養子として一緒に育ち、弟のように思っているゲイの青年フェリックスの協力を得て、自殺したのは自分のほうだったことにした。そして、アパートに残されたビデオやカードの筆跡から、必死にベスの役作りにはげむ。外見はまったく同じなのだから、メークや服の選択、話し方などに気をつければ、周囲の人間は別人だとは気づかないだろう――。

しかし、たとえ外見が似ているからといって、完全に別人になりきるのはやはり至難の業。ベスの残した2個の携帯電話には、見知らぬ人物からひっきりなしにテキストメッセージとコールが入ってくる。生活の深部にはまりこめばはまりこむほど、ボロが出る確率が高くなる。しかも、ベスには外面からは予想がつかない意外な秘密があったのだ!

――というのが、第一話序盤のストーリー。偽者だとばれそうになる窮地を、とっさの機転で乗り越えるサラを見ているだけでもハラハラさせられるのだが、彼女やベスにそっくりな女性がまた新しく登場することで、物語は坂道を転がり落ちていくような急展開になる。外見の同じ人間はアメリカだけでなく、ヨーロッパ各国にも存在しているようだ(個人的には、日本でも英語学校の先生になっているという設定を希望)。そして、告知映像から判断するに、サラたちは実は全員クローンで、何者かに命を狙われていることを悟る展開になると思われる。

まずなにより、主人公のサラが、なかなかにビッチな役柄に仕上がっているのが面白い。ふつうならこういう女性は、クローンのなかでも脇役に追いやられて、早めに死んでしまったりするのだろうけれど、本作では感情移入のできるキャラクターに仕上がっている。そして、お金ほしさに別人になりすましたばかりに、クローンをめぐる謎の深みから抜け出せなくなるストーリーもよくできている。

サラをはじめ、本作に登場するさまざまなクローンを演じるのは、カナダ出身のタチアナ・マズラニー。『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』『君への誓い』などの映画に出演し、日本映画『トイレット』では、もたいまさこと共演したこともある女優だ。本作では、異なる生活環境で育ったクローンをひとりひとり巧みに演じ分け、"別のクローンの振りをするサラ"という、難しい演技もきちんとこなしている。

さて、クローンはいったい全部で何人いるのか? クローンを作り出した黒幕は誰で、いまになってなぜ彼女らの存在を抹消しようとしているのか? そして、オリジナルはいまもどこかで生きているのか?...と、興味が尽きないこの作品。ぜひこの調子で、緊張感を保ったまま突っ走ってほしいものだ。

Photo:
・『Orphan Black』広告。(現地の雑誌より)
・2枚目右端:タチアナ・マズラニー
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