日本の昔話が「むかし、むかし、あるところに......」で始まるように、英語での決まり文句『ONCE UPON A TIME』をそのままタイトルにしたドラマ『ワンス・アポン・ア・タイム』。そして童話の決まり文句と言えばもうひとつ。「そしてみんな幸せに暮らしましたとさ」というのがあるが、このドラマはいわばその"幸せに暮らしました"に至るまでの、おとぎ話の登場人物たちの知られざる物語を描いている。ミステリーとしても秀逸なので、元ネタを知らなくても十分に楽しめると思うが、せっかく白雪姫を筆頭に、有名なおとぎ話のキャラクターがわんさと登場し、驚くべき関係や意外な一面が見られるのだから、ここで基本的なおとぎ話を頭に入れておこう。
このドラマのメインとなる『白雪姫』からは、白雪姫にプリンス・チャーミング、悪い女王に七人の小人、魔法の鏡や狩人まで登場する。童話は王女の白雪姫が美しく成長した頃から始まる。世界で一番美しいと自負していた継母の悪い女王が魔法の鏡に「世界で一番美しいのは誰?」と問うと、鏡は「白雪姫」だと答え、継母は激怒し狩人に森で白雪姫を殺すよう命じる。白雪姫に同情した狩人は彼女を逃がし、彼女は森で出会った七人の小人たちと暮らし始めるが、彼女の生存を知った継母が老婆に化け、毒リンゴを食べさせ殺してしまう。小人たちが白雪姫の棺を囲み嘆き悲しんでいるところに、王子が通りかかり、あまりの美しさにキスをすると、彼女は息を吹き返し、白雪姫は王子と結婚して幸せに暮らした。というもの。ドラマはこの結婚式から幕を開け、披露宴には他の童話の登場人物の姿も。おとぎ話の世界がひとつに繋がっているという事が分かるはずだ。
白雪姫に復讐心を燃やす悪い女王に協力するのがルンペルシュティルツキンだ。グリム童話に登場する彼は強力な魔力の持ち主。童話では貧しい粉ひき男が王様に「娘はわらから黄金の糸を紡ぐ事ができる」とウソをついた事から、大量のわらと糸車のある部屋に閉じ込められた娘の前に現れ、何かくれれば金を紡ぐと約束する。3日目にはあげるものがなくなった娘に対して「最初の子どもをくれ」と要求し、娘が同意した事から彼女の願いを叶える。その成果で王と結婚した娘が彼と結婚し、息子が生まれるとルンペルシュティルツキンが現れ、3日以内に自分の本当の名前を当てられたら許すと言い、娘は3日目になって使いの者から真実の名を聞き、無事に難を逃れたという話。ルンペルシュティルツキンはどんな願いでも叶えられるが、必ず相手に代償を求める。ドラマでも一筋縄ではいかない人物として描かれている。
『ピノキオ』からはピノキオ、ゼペットじいさん、ブルー・フェアリー、そしてジムニー・クリケットが登場。カルロ・コッローディの原作となるこの童話は、子どもが欲しい時計職人のゼペットじいさんが、ピノキオと名付けた人形を作り、人間になるよう星に願いをかけるところから始まる。それを聞いたブルー・フェアリーが「良い子でいたら人間にしてあげる」という約束でピノキオを動けるようにするが、彼は家にも帰らず遊んでばかり。そんなピノキオを心配したゼペットじいさんは、彼を探しに行き海でクジラに飲まれてしまった。ピノキオはクジラのお腹の中にいたゼペットじいさんを見つけ出し脱出するが、最後は彼をかばって死んでしまう。そこにブルー・フェアリーが現れ、ゼペットじいさんを助けた良い子のピノキオを人間の子どもとして生き返らせ、二人は幸せに暮らすのだった。ドラマの中で、感動的なエピソードを担当する事が多いのが、実はこのピノキオ。ピノキオのキャラに関わるエピソードは複数回あるが、ほぼ毎回涙腺を直撃するので、ハンカチの準備をお忘れなく。
『赤ずきん』と言えば、赤いずきんをかぶった可愛い女の子が主人公。おばあちゃんが作ってくれた赤いずぎんが似合っている事から村の人たちから赤ずきんと呼ばれるようになった彼女は、病院のおばあちゃんのお見舞いに行く事に。森で赤ずきんに出会った狼は、彼女とおばあちゃんを食べようと先回りするが...。最後は狼がやっつけられ、めでたし、めでたしで終わるこの物語。ドラマでは赤ずきんの可愛らしいイメージからはかけ離れた出で立ちで登場するが、それもすべて意味があってのこと。"おばあちゃんが作ってくれた赤いずきん"にも重要な意味が隠されているので要チェックだ。
もともとは1740年に出版されえたヴィルヌーヴ夫人の童話だが、ディズニーアニメで有名なのが『美女と野獣』だ。(ちなみに映画の元になったのは1756年出版のボーモン夫人版)この物語からはヒロインのベルが登場。魔女によって野獣の姿に変えられた王子と、発明家の娘ベル。父親が野獣に捕えられたと知った彼女は、父の身代わりとなると申し出る。城で暮らすようになったベルは、次第に野獣と心を通わせるようになり、紆余曲折を経て最後は野獣と結ばれる。真実の愛を見つけた野獣は魔法が解け、二人は末永く幸せに暮らすのだった。というおとぎ話の定番のようなストーリー。ドラマの中でもベルは美しい心である登場人物の心を溶かしていく役どころとして登場する。製作スタジオがディズニー傘下のABCだけあって、『美女と野獣』以外にも、ディズニーアニメでお馴染みのキャラクターが次々と出て来るのもこのドラマの面白さ。いい意味でそのディズニーアニメの先入観を裏切ってくれる。
ドラマではこの他にも『シンデレラ』や『ヘンゼルとグレーテル』、『不思議の国のアリス』『眠れる森の美女』『ジャックと豆の木』『アラジン』、『アーサー王と円卓の騎士』、さらには『フランケンシュタイン』といった、おとぎ話以外の物語からもキャラクターが登場する。誰がどのキャラクターを演じるのか、キャラクター同士にどんな繋がりがあるのかは見てのお楽しみ。だが間違いなく毎回ワクワクするような驚きが用意されている事は保証しよう。
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