「僕がやらずに誰がやる!?」 生中継!第68回トニー賞授賞式 スペシャル・サポーター井上芳雄にインタビュー!

アメリカ演劇界最大の祭典『第68回トニー賞』授賞式が、日本時間6月9日(月)に催されます。この授賞式の模様は、グラミー賞、アカデミー賞に引き続きWOWOWにて生中継されることとなりますが、本番組のスペシャル・サポーターにミュージカル界のプリンス・俳優の井上芳雄が就任! 熱いミュージカルファンの一人として、この祭典を長年見守っている井上さんに早速話をうかがってきました。

 

――この度、「生中継!第68回トニー賞授賞式」のスペシャル・サポーターに任命されたということですが、お話を受けたときのお気持ちは?

ミュージカルをやっている自分たちにとっては、"トニー賞"と耳にするだけで心躍り、テンションアップします。トニー賞は小学生の頃からNHKで観ていたんです。今でこそYouTubeなどいろいろな場所で観ることができますが、当時は"動いている"ブロードウェイミュージカルを観る機会なんてこの番組しかなかったんです。あと当時、黒柳徹子さんがトニー賞を振り返るクロニクルのような番組をなさっていたんです。それを僕は毎日観ていて、歌も覚えてしまうくらいで...そんなトニー賞に自分が関わることができるなんて、想像したこともなかったんです。本当に嬉しいです。

...逆に、トニー賞の仕事を「僕にやらせないで誰にやらせるんだ!?」って、言えなくもないかも(笑)

――トニー賞と言えば、授賞式のパフォーマンスが毎年注目されますよね。

僕はパフォーマンスがいちばん気になりますね。サウンドトラック、もしくは噂などで耳にするあの作品が実際どういうものなのか、と。トニー賞のパフォーマンスって、各作品でいちばんアピールしたい最高の場面を、オリジナルキャストがトニー賞の会場でものすごいテンションで演じるんです。そりゃ見ごたえありますよね。ブロードウェイそしてブロードウェイの俳優さんは本当にスゴイ!と思ってます。1曲だけでも感動できるパワーがあるんです。トニー賞のすごいところはそれを感じることができることですね。

――WOWOW「生中継!トニー賞授賞式」のスペシャル・サポーターとして、"井上芳雄だからこそ"伝えたい、やりたいことってなんですか?

トニー賞の知名度は日本の中ではまだまだ低いですね。僕の中では何よりも高いんですが一般的には知られてない。アカデミー賞やグラミー賞はまだ馴染みがあるほうです。そんな日本とアメリカのギャップを埋める橋渡し的役割になれればいいなと思います。ヒュー・ジャックマンが司会というのも影響力が大きいし、どの作品が最優秀賞を取るかに興味がなくても、その作品のいちばんの場面を最高峰のパフォーマンスで観ることができるだけでも十分価値がありますし。

 

――今年度、注目している作品は?

『マディソン郡の橋』です。自分も演じることができるかな!?って思うところもなくはないです。作曲家(ジェーソン・ロバート・ブラウン)がとてもいい作品を作る人なんです。(ミュージカル主演女優賞・オリジナル楽曲賞・編曲賞にノミネート)
今年は映画題材のミュージカルが多いですね。『アラジン』はウケるって意味では間違いないでしょう。イディナ・メンゼルの作品も『アナと雪の女王』効果ですごいことになっているようですね。

自分も出演したトニー賞作品は『ミー・アンド・マイガール』『ウエディング・シンガー』くらいですが、他の作品をもっと知ることで「(ブロードウェイには)こういうすばらしい作品がある」って言いたい。自分は役をいただく立場なので受け身ではあるけれど、それでも何かしら自分からも働きかけていきたいなと思います。

――あえて言語の壁を越えて共演してみたい人っていますか?

そうですね。(しばし考える)誰だろうなあ。この前来日していましたラミン・カリムルーは、今ブロードウェイで舞台に出てますよね。ヒュー・ジャックマン...サットン・フォスターも来日してましたね...でも、誰かと共演したいって思わないかも。憧れの存在ですね。

 

自分は共演していない人で、知り合いが共演したりすると悔しいんですよ。「いやいや、ラミンがさー」なんていわれると「お前...」って。以前『ミス・サイゴン』のキム役をやっていたレア・サロンガと直接共演したりすると、うらやましすぎてちょっと距離をおきたくなりますね!
(※補足:城田優さんのことを言っているようです)彼らが日本に来てくれると嬉しいんですが、反面「あ。きちゃったか」って思ったりもするんです。自分もブロードウェイ俳優たちと知り合いになりたいけれど、みんなが知っている存在になると逆に嫌になるんです(笑)

――ちなみに、井上さんがトニー賞授賞式をご自宅でご覧になっているとき、どのような気持ちで視聴されているのですか? 演じられる側の人でもあるので何か違う想いがあるのでは?

トニー賞ノミネートが発表になる頃は「あの作品は今年クローズした」「この作品はおもしろい」「これは日本の○○が(上演を)狙っているらしい...!?」など、この業界でも様々な情報が錯綜するんです。
僕の場合、この時期には既に各作品のサウンドトラックを入手して聴いた上で観ているんですが、ノミネート作品を目にすると「この作品には、男性で僕くらいの年齢の役はあるだろうか」ってやはり気になりますね。また、そういう作品が受賞したりすると、「この作品はどこの誰にお願いすれば、自分で演じることができるんだろう!?」って心のどこかでやはり思っていますね。「あの歌を次のコンサートで歌いたいなー」とかも。

――サウンドトラックの話で脱線しますが、井上さんのご自宅にはものすごい量のお宝映像があるそうですが、本当ですか?同じ作品でもバージョン違いで揃えているとか...。

え? どこ情報?(笑) 部屋の壁一面にミュージカルのCDとDVDを並べて収納しているんです。ブロードウェイミュージカルとかウェストエンドミュージカルとかに分けて並べて...。いろいろな国のバージョンも持っていて。特にCDはほとんど持っています。今はディスクを買う時代じゃないのかもしれませんが、iPodに入れていたら消えちゃうかもしれないし! まあ、CDをずらっと並べて「俺はこんなにCD持ってんだぞ」って自分で思いたいだけなのかもしれませんが(笑)

――過去のトニー賞授賞式で印象に残っている出来事ってありますか?

『キャロライン、オア・チェンジ』という黒人社会を描いたミュージカルのパフォーマンス。劇中のメインナンバーを歌った女優さんが声の調子が良くない状況だったんです。聴いてるのも辛いくらいで。でもその女優は最後まであきらめずにひっくり返り、カスカスになりなりながらも歌い上げて、観ていて感動したんです。そうしたら劇場のお客様もどの作品以上に歓声を上げていて。僕が舞台に出る側だからこそなんだけど、自分が万全の体調じゃないときにどんなパフォーマンスができるか、なかなか映像に残らないことだからこそ、印象的でした。

――トニー賞授賞式、現地取材にも興味はありますか?

WOWOWさん、毎年生中継をやってくれます!? それなら行きたいなあ。現地レポートとかしたいですね。レッドカーペットは相当な英語力が必要ですね。でもやってみたいですね。というか、あの雰囲気を味わってみたい。日本にもトニー賞みたいなアワードがあるといいですね。別に僕が作る訳じゃないですが働きかけはしていきたいです。このジャンルが盛り上がるためにも。トニー賞もアメリカの業界に凄い影響をもたらすし活性化もさせています。「この作品はトニー賞を取ったらしいよ」ってなると誰もが劇場に足を運ぼうとしてくれますし。このトニー賞のお仕事をやらせてもらいながらそういった点も学びたいです。ブロードウェイの裏側や仕組みもわからないことばかりですし。

『SMASH』という海外ドラマを見ていたんですが、「本当にそんなことになっているんだろうか」ってくらいドロドロしていますよね。でもそれだけ大きなビジネスなんでしょうね。シーズン2で終わっちゃったんですよね? 残念です。

――今回、トニー賞をPRするミュージカル風スポットで歌われたそうですが。

つい先ほど、歌だけ収録してきました。どういう歌い方が正解なのかわからないけど(笑)。替え歌というかパロディではありますが、内容は僕らにとっては意外と切実な内容で。そういう意味で気持ちを込めて歌ってきました。僕の役割は「日本でミュージカルをやっている人はこういうふうに歌っているんだ」と伝えること。貴重なチャンスなので、持てる限りの力を出して。少しでも印象に残ればと思います。デフォルメして、無駄に熱くしていますよ。WOWOWですし、ドラマファンや映画ファンも観てますしね。

――-日本のミュージカルってあまりメジャーじゃないですよね。そんな中、あえて伺います。ミュージカルの魅力とは!?

音楽の力ってものすごいと思うんです。言葉も要らないし説明も要らない。物語の一場面なんだけどすばらしい音楽があり、さらに踊りも加わり、観るだけで感動できて説得力があるんです。説明が要らないのはものすごい強みです。理屈じゃないです。

トニー賞のオープニングって、みんなが知っているだろうミュージカルナンバーに替え歌をつけて歌いあげるんです。司会のヒュー・ジャックマンが歌い、ダンサーが出てきて踊り、さらに有名なキャストが何人か出てきてうわああ!となって。観ているだけで泣けてきちゃう。人間賛歌を観ているような気がするんです。生きていることとか、人間を賛美する想いを歌いあげ、そして喜ぶ。これがものすごく感動的ですよ。高揚感で涙が出るのはミュージカルならではじゃないかな。前後のストーリーがわかったらさらに感動するだろうけど。根本的にアイドルもディズニーも同じ。"日本人だからってミュージカルは好きじゃない"ってことは絶対ないと思うんです。ぜひ体験してほしいと思います。

【井上芳雄 プロフィール】
2000年、ミュージカル『エリザベート』皇太子ルドルフ役で鮮烈にデビュー。以降、様々な舞台で活躍する一方で、CD制作等音楽活動も意欲的に展開。近年では映像にも活動の幅を広げ、8月よりNHK BSプレミアムで放送の『そこをなんとか2』にレギュラー出演。第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞演劇部門他を多数受賞。