【お先見!】アメリカ独立戦争のスパイ・ネットワークの諜報活動を描いた歴史コスチューム・ドラマ『TURN』

アレキサンダー・ローズの著書「Washington"s Spies: The Story of America"s First Spy Ring」をもとに製作された『TURN』は、1700年代後半のアメリカ独立戦争が舞台のシリアスなドラマだ。 戦争当時は米国側司令官、のちに初代米国大統領に就任するジョージ・ワシントン、彼の傘下で、若い男女で編成された実在のスパイ・ネットワーク"CulperSpy Ring"が、敵国である大英帝国の軍隊情報などを盗み出す諜報活動を描いている。

ドラマ・タイトルの『TURN』は、"回す、回る"という意味がまず思い浮かぶと思うが、ここでは、セリフにも出てくる"Turncoat(裏切り者)"という意味で"寝返りを打つ(味方を裏切って敵方につく)"という意味である。
CIAを含めスパイ系ドラマが多い昨今でも、第二次世界大戦後の冷戦時代の米国vs.ソビエト連邦、近年における米国vs.イスラム過激派勢力...あたりのテーマが多い。 しかし今回は、今までありそうでなかった新鮮な題材"アメリカ独立戦争時代のスパイ"を扱っているドラマ。 「意外なところに眼をつけたな~!」というのがドラマを観た私の最初の印象だ。 アメリカ人ならば小学生の頃から習う"独立戦争"の話。 少し気になった私は、"CulperSpy Ring"の存在を知っているか否か、身近なアメリカ人の知り合いや友達10数人に聞いてみたが「当然、当時スパイは存在したと思うが具体的な人物名は知らない」という答えが多く、歴史オタクの男性一人が"CulperSpyRing"について知っていた。 しかしだからこそ脚色化されているとは言え、あまり知られていない実在の人物を題材にしたこのドラマは興味深い。

『TURN』では、スパイ活動する主人公の一人、エイブラハム"エイブ"ウッドハルをジェイミー・ベルが演じている。
私がジェイミー・ベルと聞いて思い出す作品は、彼のデビュー映画『リトル・ダンサー』だ。 ジェイミーが演じるビリー・エリオットは、英国北部の炭鉱町の裕福ではない家庭に生まれたが、ダンスが得意でバレエの才能があることを見出され、苦難を乗り越えて、見事ロイヤル・バレエ学校に入学し、その後、主役に抜擢されるまで...を描いた話だ。 家族愛と友情あふれるホロリとさせられる心温まる作品だった。 そのビリー役で英国アカデミー主演男優賞を受賞後、映画を中心に着実に俳優として活躍してきているジェイミー。 『リトル・ダンサー』の頃、まだ13~14歳だった英国人の男の子が今や28歳! 大きく立派になって米国ドラマの主役なんて! おまけに英国人のジェイミーが"アメリカ独立戦争で英国を裏切るアメリカ人スパイ"役を演じるとは感慨深いな~。
正直言って『TURN』はジェイミー以外、「アッ!この俳優って何かの映画やドラマで見たことあるな~」ぐらいで、あまり名の知れた俳優は出演していないかもしれない。 しかしこのドラマを放送する米AMCは近年人気上昇中のケーブルTV。 なにしろオリジナル製作ドラマは『ブレイキング・バッド』『マッドメン』『ウォーキング・デッド』という傑作ドラマばかり。 だからプレミア開始前から「絶対『TURN』もおもしろいに決まっている!」とワクワク期待が高まっていた...そしてそれは正解だった!

ストーリーは...1776年頃の米国東海岸のニューヨーク、ニュージャージー、コネティカット周辺を舞台にスタート。
ジェイミー演じる主人公エイブは農園主で妻と赤ん坊と暮らしているが、農場経営はあまり上手くいっていない。 資金繰りに困っているエイブは、自らのプライドから父リチャード(ケヴィン・マクナリー)からの金銭援助を断り、他人から借金をし、野菜の闇売買をしている。 エイブは米国軍にも英国軍にも付かず、どちらかといえば、英国側よりの中立派だったが、判事である父は、権力も影響力もある筋金入りの英国側支持派。

エイブと仲良しの幼なじみも大人になるにつれ、環境も思想も異なってきて、エイブ以外は皆、米国側支持派である。 幼なじみで元婚約者のアナ・ストロング(ヘザー・リンド)とエイブは、彼女の父が米国側を支持したことにより別れるが、別の人と結婚した今でもお互い気にかけている存在だ。 そして同じく幼なじみのベンジャミン"ベン"トールマッジ米国軍少佐(セス・ナムリック)、その部下のケイレブ・ブリュースター中尉(ダニエル・ヘンシャル)とは、意見の相違はあっても今もエイブと友人であることに変わりはない。 ベンとケイレブは"エイブが窮地に追い込まれても口を割らないか!?"と、それぞれ闇商売の機会を利用してエイブにワナを仕掛ける。 その結果、エイブこそ英国軍の動向を探るスパイに最適!と判断して、「スパイにならないか?」と話を持ちかけるのだ。 最初は乗り気のなかったエイブは「なんでスパイにならないのよ?」と強気な性格のアナに背中を押され、ある事件をキッカケに諜報活動に足を踏み入れていく。 そしてエイブ、アナ、ベン、ケイレブ...この4人こそが、のちに組織化されるスパイ・グループ"CulperSpy Ring"の中心人物となるのだ!
一方、発覚した闇商売を免罪とする代償として、父が見張る中、英国側に忠誠を誓うことになるエイブ。 洞察力の鋭い父、常に父と一緒にいる英国軍の将校たちと行動を共にしながら、情熱的で頭のキレるエイブはスパイとして見破られずに活動できるのか?!

『TURN』にはアクションや戦闘シーンもあるが、非常に落ちついた雰囲気のある"大人のためのドラマ"だ。 結構ストーリーが複雑なので、少しでも集中力を欠くと「アレ?いつの間にこんな展開になった!?」となるので要注意!の奥深い歴史スパイ・ドラマである。(海外ドラマNAVI)

Photo:ジェイミー・ベル、ケビン・マクナリー(c)Megumi Torii/www.HollywoodNewsWire.net