『ゼロの未来』テリー・ギリアム監督インタビュー「全ての意味は何なのか?生きているという意味は何なのか?」

熱狂的なファンをもつイギリスのコメディグループ"モンティ・パイソン"のメンバーであり、『未来世紀ブラジル』『ブラザーズ・グリム』などを生み出した名匠テリー・ギリアム監督の最新作『ゼロの未来』が5月16日(土)より公開される。

コンピュータに支配された近未来、天才プログラマーのコーエンは自身が住む荒廃した協会にこもって大量のデータから人生の謎を解くという「ゼロ」という数式の解明に挑んでいた。答えが見つからずストレスにより荒れるコーエン。そんな彼のもとに魅力的な女性のベインズリーと、「ゼロ」の秘密を知る少年ボブが現れる。孤独に生きて来たコーエンが人々とふれあい見つける"本当の幸せ"とは? そして、コーエンは「ゼロ」の秘密を解明することはできるのか...。

生きるとは――、愛するとは――。人生の謎を解く数式「ゼロ」に挑む人々が、生きる意味と真実の愛にせまる近未来ヒューマンドラマの最高傑作。監督が初めて来日した際に訪れてカルチャーショックを受けた秋葉原の影響もある本作。そんな『ゼロの未来』のプロモーションのため、5年ぶりの来日となった監督に本作について語っていただいた。

 

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――まずは本作の第一印象についてです。監督は『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』ではディストピア的な世界を舞台として描いていましたが、本作の舞台は一見するとユートピア的な世界のイメージが多く感じられました。過去の作品と比べて製作時にどのような心境の変化や考えがあったのでしょうか?

『未来世紀ブラジル』と比べられたくなかったからだよ(笑)というのもあるんだけど、今、我々が生きている世界というのが皆がショッピングなどで物質を消費することで、商業主義や物質主義にまみれている間に、ホントに大切な問いというものをしなくなってしまっていると私は考えているんだ。それが"今"なのではないかと。全ての意味は何なのか? 生きているという意味は何なのか? 自分を忙しくしているだけの人たちが増えているね。例えばアリやハチとかは自分たちが存在しているかは考えないけど、ソーシャル・メディアが我々をソーシャル・インセクツ(昆虫)、あるいは集団行動する昆虫のように多忙にしてしまったのではないかと考えているんだ。それを表現したかったんだ。

 

――本作でも監督ならではのオリジナルな世界観に感動しました。さらに本作はエモーショナルな感動を受けました。監督の作品は回を重ねるごとに新しい驚きがあるのですが、監督のイマジネーションの源になるものはどういったものなのでしょうか? 先程のSNSのような情報化社会のお話もありましたが、このような情報社会はイマジネーションを生む助けになるのでしょうか?

まず、イマジネーションだけど、それは私にも分かりません(笑)。私自身、それが普通だと思っているし、なぜ、みんなが私のように世界を視ないのかと不思議に思うね(笑)。常に何もかもが繋がっているこの世界の中で、人というのはニューロンのようになってしまうと思う。つまり、情報というものが自分に伝えられ、自分を通って他の人に受け継がれていく存在だけになってきてしまう。繋がりの一部に人間がなってしまうとも言えるかな。その中で、自分なりのイマジネーションだったりを、そもそも持てるのか。やはり、それは一人で過ごすという時間が必要だし、自分で思考する、自分で少なくとも想像力までに至らなくても、自分なりの世界の見方というのを見つけなければいけないんじゃないかと思うね。自分の場合は、ただの受容体のような形で情報の受け渡し、伝達の中にただいるのでは無く、一人でいることで色々と考えたり、想像したりしていきたいと思っているよ。

 

――本作もまた監督らしいユニークな世界観ですね。ビジュアル面で言えば、インターネットへの接続やソーシャルメディアは、通常の作品ですとサイバーパンクのような近未来的な描かれ方をしますが、本作は未来的でありながらレトロな雰囲気を感じました。今回の映画でビジュアルやデザインについて、何かこだわりなどはありますか?

私はカートゥーンニストなんだけど、だから自分が視た世界というものを色々と変化させて表現しているんだ。そこに遊び心を持って色々と試す中でデザインが生まれてくるわけなんだ。
本作でいうと、コンピュータのスクリーンも、なぜ横長でなければいけないのかと。縦型でもいいじゃないかとやってみたら、シンプルだけどとても変化が出る。オフィスで仕事をするならエコとして自分の使用する電力を自分で生み出せばいいじゃないかと、自分の椅子を自転車にすることでエクササイズもできるからいいじゃないかと遊びながらも作り上げているんだ。

通常の未来をテーマにした映画というとデザイナーに発注して、出来上がってくる世界観は似たようなものばっかりだよね。それじゃ面白くないしね。例えば、コーエンの仕事は"エンティティ分析者"というものだけど、数字を扱う仕事を表現する場合に映画『ビューティフル・マインド』のように数式や数字がテキスト情報として画面に出ることが映画の場合に多いんだ。だけど、それでは面白くない。そこで、アルゴリズムというものを立方体を用いて表現する。それがうまくブロックでビルのように組立てることが出来れば方程式や数式が成立するが、組立に失敗するとブロックが崩れてしまう。
ただ数字で表現するよりも、何かより物理的なもので表現してみるとか、ただそれだけのことなんだ。コンセプトがどうのと難しいことは考えていないんだよ。

 

――この作品では、生きることの幸せなどシンプルなテーマを描いていますが、今この情報化社会で特に若い人達が色々な人と繋がる社会になっていて、生きることの難しさ、生き辛さというものを感じている人が多いと聞きます。監督から、こういう世界に生きるための解決方法やメッセージがありましたら、お聞かせ下さい。

英知を授けてくれと言われても、私は聡明じゃなくて、ただ疲れた男なんだけど(笑)、「もっと、自分で考えようよ」というのは伝えたいね。メディアや他人に言われる世界ではなく、自分で世界を作り上げればいいんじゃないかなと思うね。後は人生のアドバイスなら"道を渡る時に左右をちゃんと見ないと、時々バスに轢かれて死んでしまう"かな(笑)。
一つ思うのはSNSとかで、自分の意見を表現することや声高に言うことを怖がっている、そんな時代じゃないかと思うよ。気を付けて慎重に人の気持ちを傷つけないようにとか、変な人が逆ギレしないように気を使っているのが今だと思う。しかし、それはとても危険なことだと思うんだ。自分たちの意見を表現してディスカッションするのが、社会をイキイキさせるものだと思うので、もっと自分が思うことを失敗を恐れずにちゃんと言えるようになるべきじゃないかな。

 

――監督が過去に製作した作品は今でも多くの影響を与えていますね。日本でもミュージカル『スパマロット』が再演されて非常に好評でした。『12モンキーズ』のTVドラマ化や『ブラザーズ・グリム』のTVドラマ化決定など、非常に多くの後進のクリエーターに影響を与えています。今回の映画もまた多くのクリエーターに影響を与えると思いますが、そのことについてどう思われますか?

自分の年齢よりも若いクリエーターが自分の作品からインスピレーションを得てくれているというのは、とても嬉しいことだね。彼らにフレッシュなものを与えて、そして彼らなりの作品作りのきっかけに自分の作品や映画が影響を与えているんだったらとても嬉しいよ。おかげで私も金銭面で豊かな老後を過ごせるしね(笑)ちなみに『12モンキーズ』と『ブラザーズ・グリム』のドラマ版には全く関わっていないんだ。ただし、BBCで『バンデッドQ』のテレビ・シリーズをやる予定で、アメリカでは『Defective Detective』というテレビでのミニ・シリーズの企画も動いているよ。

――後進のクリエーターへのお話がありましたが、監督ご自身は長いキャリアを積まれてきて、年を重ねるということが自分にどのような影響を与えているのでしょうか?

私の最高の仕事は何年も前にやった仕事なのかという気持ちにさせられるね。もちろん、ウソだよ(笑)。たくさんの映画作りの闘いを経験して、年を重ねるごとに映画を作ることの難しさを実感しているので、自分を鼓舞しないと疲れて映画を作れなくなってきてしまっているんだ。それで、ある日に自分がハムスターの回し車の中でグルグル走っているようだと気が付いて、そのまま死んでしまうんだろうね(笑)。でも幸運なことに、この世の中に私を怒らせることが沢山あるので、そのおかげで何か違うことがやりたい気持ちにはさせれているよ。

 

5年ぶりの来日となったテリー・ギリアム監督。監督は来日記者会見&特別イベントでテリー・ギリアムの大ファンであるお笑いコンビの爆笑問題(太田光 / 田中裕二)と再会するなど、多くのインタビューやイベントに対応する多忙なスケジュール。そのような中でのインタビューであったが、丁寧な受け答えと、そして実に監督らしいウィットに富んだ楽しいインタビューとなった。

『ゼロの未来』は5月16日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館他にてロードショー。

Photo:映画『ゼロの未来』(C)2013 ASIA & EUROPE PRODUCTIONS S.A. ALL RIGHTS RESERVED.