新たなホームズ＆ワトソン!?　男女の名コンビがセックスの解明に挑む異色のヒューマンドラマ『マスターズ・オブ・セックス』

2016年10月4日 2016年10月4日 ※本ページにはアフィリエイト広告が含まれます

上司と部下であり、師と弟子であり、同じ研究に打ち込む同志であり、時には一緒にルールを破る共犯者であり、悩みを分かち合う友人であり、そして互いにとってなくてはならない存在。『マスターズ・オブ・セックス』のウィリアム・マスターズ博士とバージニア・ジョンソン女史は、海外ドラマでこれまで描かれてきた数々の名コンビの系譜を継ぐ組み合わせと言えるだろう。

20世紀半ばから約30年にわたって人の性に関する研究を行い、あのタイム誌の表紙も飾った二人の男女の物語にインスピレーションを受けた本作。ミズーリ州セントルイスのワシントン大学病院に勤務する著名な産科医のウィリアム・マスターズは、前人未到の分野であるセックスの研究に情熱を燃やしており、異性の視点を得るため、女性の助手を加えることに。そこで雇われたのが病院の新しいスタッフであるバージニア・ジョンソンだった。二人は、まるで引力で引かれ合うかのように出会う。

コンビものとしては珍しく、「上司と部下」という上下関係が明確に存在するが、現実には二人の力関係はフィフティ・フィフティ。マスターズが研究熱心なあまり、不妊治療に訪れた妻リジーへの対応がおざなりと見れば、ジョンソンは「無神経」だとボスをたしなめる。ただし、患者の命を救ったり赤ん坊を授けることができるこの名医を尊敬しているので、彼からセックスを研究していることを打ち明けられても臆さないどころか、積極的に同僚たちを説得し、実験に参加させていく。

上司であり、師として医学的な知識を授けるのはマスターズだが、世間を知っているという点で彼よりも大人なジョンソンとのパワーバランスは絶妙だ。資金集めのパーティーで二人が交わす会話にもそれが表れている。
ジョンソン：「私にうまく転がされてる」
マスターズ：「私が君を使っているんだ」
ジョンソン：「そう思っていればいいわ」

コミュニケーション能力や常識に欠ける天才と、豊富な人生経験と包容力で天才を支える相棒という構図は、19世紀に生まれた名コンビの代表格、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンを彷彿とさせるが、ジョンソンが解雇された時にこのコンビの重要性が露になる。大学内での研究が禁じられた際、マスターズはその原因を作ったとしてジョンソンにクビを言い渡すと、新たな研究場所として単身、娼館に機材を持ち込み、娼婦たちの協力を仰ぐが、変態扱いされてうまくいかない。そこへ自発的にジョンソンが駆けつけ、娼婦をうまく説得するのだ。プライドが高く自分の決定を取り消したがらないマスターズだが、ピンチを救われたことで渋々、ジョンソンに仕事を続けるよう告げる。

彼らのコンビが魅力的な理由として、演じる二人のケミストリーの良さも大きい。マスターズ役の英国俳優マイケル・シーンは、『クィーン』でトニー・ブレア首相、『フロスト×ニクソン』ではテレビ司会者のデビッド・フロストを演じた。役柄によって大きく印象が異なるカメレオン俳優のためか、一般的な知名度はそこまで高くないものの、映画やテレビ、舞台で20年以上のキャリアを誇る実力派。そして、実生活ではケイト・ベッキンセイル（『アンダーワールド』）、レイチェル・マクアダムス（『きみに読む物語』）といった美人女優と交際し、前者とは子どもももうけている。本作で実在の人物を演じるにあたって特別なリサーチはせず、あえて先入観なく臨んだという彼の自然な演技はゴールデン・グローブ賞、テレビ批評家協会賞のノミネートという形で結実し、現在ハリウッドでも大活躍している英国俳優たちの一人として、さらなる飛躍が待たれる存在だ。一方のジョンソンを演じるリジー・キャプラン（『ミーン・ガールズ』）も、包容力があり内に強さを秘めたシングルマザーを好演している。

仕事上で名コンビの二人だが、プライベートでの関係がどうなるのかも気になる点だ。マスターズには彼を愛し尊敬する美しい妻がいるものの、第1話のラストで彼がジョンソンに驚きの提案をしたことから、二人の今後が注目トピックの一つとなる。セックスの研究同様に奇妙かつユニークな二人の関係がこれからどうなっていくのか、楽しみでならない。