マーベル、DCだけじゃない!こんなにも広いアメコミの世界

いまやハリウッドでも一大ジャンルとなったアメリカン・コミックスことアメコミ。そんなアメコミ業界は、マーベルコミックスとDCコミックスという代表的な2社の80年近くにわたる展開により、膨大な世界が広がっている。さらには、マーベル、DC以外にもいろいろな出版社から作品が常に出版されており、最近のアメコミ・ブームで興味を持ったけれど、何が何やら分からないという人も多いことでしょう。

ということで、アメコミ作品に手を出すことに躊躇しているような人に少しでもその世界に慣れ親しんでもらおうと、これまでの簡単な歴史を踏まえて、アメコミ原作の映像化作品を紹介したいと思います。

なお、映画化やドラマシリーズ化の年代記載について、シリーズものの場合は第1作の年代を記載しています。

■始まりは新聞の連載漫画

1920年代から1930年代にかけて、アメコミは新聞紙上に連載された漫画であるコミック・ストリップが中心でした。代表的な作品としては、『ディック・トレイシー』(1990年映画化)、『フラッシュ・ゴードン』(1980年映画化、2007年ドラマ・シリーズ化。パロディ版の『フレッシュ・ゴードン』と間違えないでね)、『ザ・ファントム』(1996年映画化)、『ザ・スピリット』(2008年映画化)などがあります。映像作品の内容は賛否両論あるものが多いですが、どれもある意味で古典として押さえるのは悪くない作品です。

 

そんなコミック・ストリップの成熟とともに、1930年代後半よりDCとマーベルがついに表舞台に現れます。

1937年、DCがディテクティブ・コミックスを創刊。その翌年には、世界最初のスーパーヒーローであるスーパーマンを登場させたアクション・コミックスを発刊しました。そして1939年には、アクション・コミックスにバットマンを登場させるのです。

一方のマーベル側は、1939年にマーベルの前進であるタイムリー・コミックス社がマーベル・コミックスを発刊し、1940年にキャプテン・アメリカをマーベル・コミックスに登場させます。そして、1949年にはブランド名を"マーベル・コミックス"と変更しました。

1940年代から1970年代までは、アメコミの映像作品というと、ほぼこの2社による寡占状態だったと言ってもいいでしょう。特に、DCは1950年代から『アドベンチャー・オブ・スーパーマン』、1960年代には『バットマン』、1970年代は『ワンダーウーマン』といったTVドラマ、『スーパーマン』の映画シリーズなど、映像作品にも力を入れていました。マーベル側も、1970年代に『アメイジング・スパイダーマン』『超人ハルク』などのTVドラマといくつかのTV映画を制作しますが、この頃の映像化ではDCにより勢いがありました。

■1980年代の新たなる潮流

アメコミのいわゆる"モダン・エイジ"と呼ばれる時代では、1980年代の後半、DCにフランク・ミラーの『バットマン:ダークナイト・リターンズ』、アラン・ムーアの『ウォッチメン』(2009年映画化)が登場し、アメコミが大人向けの作品としても認知されるように。

 

一方で、今やDC、マーベルに次ぐ規模となったダーク・ホース・コミックスが1986年に設立。ジョス・ウェドンの『バフィー 恋する十字架』などのコミカライズや、ジム・キャリー主演の映画がヒットした『マスク』や『フレイミング・キャロット・コミック』(1999年『ミステリー・メン』として映画化)で台頭し始めます。

さらに1980年代は、1990年代以降に多く映画化されることになるインディペンデント系コミックの出現も見逃せません。パシフィック・コミックスの『ロケッティア』(1991年映画化)、ミラージュ・スタジオの『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』(1990年映画化)、キャリバー・コミックスの『ザ・クロウ』(1994年映画化、1998年ドラマシリーズ化)、タブーからアラン・ムーア原作の『フロム・ヘル』(2001年映画化)などが次々と発表されました。

■ダークホース・コミックスとイメージ・コミックスの躍進

1980年代に登場したダークホース・コミックスは1990年代に入ってもその勢いは止まらず、フランク・ミラーによる『シン・シティ』(2005年映画化)と『300』(2007年映画化)、マイク・ミニョーラによる『ヘルボーイ』(2004年映画化)と大作をリリース。さらに、『エイリアンVSプレデター』(2004年映画化)、『タイムコップ』(1994年映画化)、『ヴァイラス』(1999年映画化)、『バーブ・ワイヤー』(1996年映画化)、『R.I.P.D.』(2013年『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』として映画化)といったバリエーション豊かな作品を刊行します。

また、1990年代には作品の著作権を会社ではなく、原作者が所有するという新しい形態を打ち出したイメージ・コミックスが、トッド・マクファーレンらによって設立。そのマクファーレンの代表作『スポーン』(1997年映画)は映画、コミックスだけでなく、フィギュアブームが日本でも巻き起こりました。

この時代で注目すべきインディペンデント系は、映画版が世界的大ヒットとなったエアセル・コミックスの『メン・イン・ブラック』(1997年映画化)でしょう。さらに、佳作ではありますが、日本でアニメ化もされたトップ・カウ・プロダクションの『ウィッチブレイド』(2001年ドラマシリーズ化)、イベント・コミックスの『ペインキラー・ジェーン』(2007年『特殊能力捜査官 ペインキラー・ジェーン』としてドラマシリーズ化)もあります。

また、アメコミというとその大半はヒーローものですが、1990年代にはオニプレスの『ホワイトアウト』(2009年映画化)のようなサスペンスも登場。さらに、日常系アメコミ・ブームのきっかけともなったファンタグラフィックス・ブックスの『ゴーストワールド』(2001年映画化)が出版されるなど、ヒーローもの以外の作品も出現していきます。

■映画の大ヒットがもたらしたアメコミ・ブーム

2000年代になると、マーベルの『X-MEN』や『スパイダーマン』、DCのクリスチャン・ベール主演『バットマン』3部作や『ヤング・スーパーマン』といった映画やドラマシリーズの成功により、アメコミ・ブームが到来。そして、2008年にロバート・ダウニー・Jrが主演したマーベル映画『アイアンマン』の大ヒットによって、アメコミの知名度が日本でも一気に広がりました。

その勢いに乗じて、さらに多くのアメコミが映像化されることに。マーク・ミラーによるトップ・カウ・プロダクションの『ウォンテッド』(2008年映画化)、IDWパブリッシングの『30デイズ・ナイト』(2007年映画化)、オニプレスの『スコット・ピルグリム』(2010年『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』として映画化)、プラチナム・スタジオの『カウボーイ&エイリアン』(2011年映画化)、ブーム・スタジオの『2ガンズ』(2013年映画化)、ラディカル・コミックスの『ヘラクレス』(2014年映画化)。そして、2010年にドラマシリーズ化され世界的ヒットとなった『ウォーキング・デッド』もアメリカのTV業界に大きな衝撃を与えたのです。

アメコミの世界に興味があれば、ヒーローものに限らない幅広いジャンルの中から、気になる作品をチェックしてみてはいかがでしょう。ちなみに今回は触れませんでしたが、ほかにも、マーベルのアイコン・コミックス(『キック・アス』『キングスマン』など)、DCのバーディゴ(『プリーチャー』『ルーザーズ』など)やオマージュ・コミックス(『RED』など)のようなブランドや、アメリカではなくイギリス原作系(『シーナ』『ジャッジドレッド』『タンクガール』『Vフォー・ヴェンデッタ』など)があります。気になる人はこちらを探してみるのも楽しいですよ。

Photo:
アメリカン・コミックス (C)ZUMA Press/amanaimages
「ディック・トレイシー」 (C)The Granger Collection/amanaimages
「スーパーマン」コミック (C)UPI/amanaimages
フランク・ミラー (C)FAMEFLYNET PICTURES/amanaimages
『アイアンマン』 (C)ZUMA Press/amanaimages
『ウォーキング・デッド』 (C)Capital Pictures/amanaimages