2005年の番組開始以来、10年以上にわたって世界中で愛されてきた大ヒット犯罪捜査ドラマ『クリミナル・マインド』。そのスピンオフ『クリミナル・マインド 国際捜査班』が2月14日(火)よりWOWOWにて放送スタートとなる。オリジナルがFBIの行動分析課(BAU)の活躍を描いているのに対し、本作で登場するのは外国で凶悪犯罪に巻き込まれたアメリカ人を救うためのFBI特別チーム(IRT)。世界各国で事件にあたる彼らは日本で起きた連続殺人事件も捜査することになるのだが、そのエピソードにゲスト出演した小澤征悦さんを直撃! ゲイリー・シニーズたちとの共演や、ハリウッド進出について語ってもらった。
――まず、本作へ出演することになった経緯を教えてください。
この作品の撮影が2015年の11月で、その年の6月に『JUKAI-樹海-』というアメリカ映画に出ていたんです。こちらはオーディションに受かって出させてもらったんですが、その時のプロデューサーさんに、知り合いのプロデューサーに今度紹介すると言われていました。日本に戻って『ディズニーネイチャー/クマの親子の物語』の日本語版のナレーションをやらせてもらった時、ディズニーの方から、海外ドラマで日本人の役者を探しているから紹介させてくれ、と言われまして、そのプロデューサーさんが所属するグループの名前を聞いたら(ロスで知り合った人たちと)同じだったんですよね。その後、ロスでいろんな人と会う予定があったので、ついでに相手の方に紹介してもらって、『クリミナル・マインド』シリーズで日本を舞台にした作品があるからぜひ出てほしいと言われました。
――それではオーディションやミーティングは特になかったのでしょうか?
そのプロデューサーさんに会いに行って、自分はこういう人間だといった話はしました。人の縁って大事ですね。
――ちなみに、オリジナルの『クリミナル・マインド』についてはご存知でしたか?
もちろんタイトルは知っていましたし、全部は見ていませんが犯罪捜査ものであることなどは知っていました。そんな作品に自分が参加できるなんて、(『JUKAI-樹海-』の)オーディションに受かって良かったなと思いましたね。
――映画やドラマに関して、アメリカと日本で作品作りに違いを感じることはありますか?
基本的には一緒だと思います。19年くらい役者をやらせてもらっていますが、アメリカの作品だと英語を使って海外でやるということで最初はものすごく緊張しましたけど、初日をやってみて、自分がこれまで日本でやってきたことと基本的には一緒なんだという安心感を得ました。細かい部分での違いといえば、俳優のための控室用、衣装部屋やメイク部屋用と、何台もの大きなトレーラーがあるんです。その中で、特にこれはすごいな、日本でもぜひ取り入れてほしいなと思ったのは、トイレのトレーラーですね。男性、女性用があって、20メートルくらいの長さのトレーラーの内部に、ホテルの中みたいにずらっとトイレが並んでいるんです。どんなに辺鄙な場所に行ってもそのトレーラーが一緒に来てくれるので、すごいなと思いましたね。日本の場合、作品の大きさにもよるのかもしれませんが、そもそもそういうものがないんじゃないでしょうか。輸入したら儲かるだろうなと思いました(笑)
――『クリミナル・マインド 国際捜査班』にもオリジナル同様に魅力的な捜査メンバーが揃っています。小澤さん演じるリョウ・ミランテは、ダニエル・ヘニー演じるマシュー・シモンズと主に行動しますが、今回共演された中で一番印象に残っているメンバーは誰ですか?
皆さん、技術的にも素晴らしい役者さんたちでしたが、やはり(チームリーダー、ジャック・ギャレット役の)ゲイリー・シニーズが皆をまとめてましたね。個人的にはダニエルとすごく仲良かったので、好きでしたけど。変な意味じゃないですよ(笑) でも、ゲイリー・シニーズに会った時は、『フォレスト・ガンプ/一期一会』の人だ!と感動しましたね。
――では、『フォレスト・ガンプ』のダン中尉のイメージだったと?
ダン中尉というよりは、銀幕の人というイメージでしたね。そこでしか会えない人が目の前にいるという感じがしました。だけど実際に話してみるとすごくフランクで、優しいし、スターのエゴみたいなものはまったくなかったです。スケールの大きさを感じました。女優さんたちも素晴らしかったです。個人的にはダニエルとよく飲みに行ってました。
――ダニエルさんとは今回の共演を通して親しくなられたんですか?
そうなんですよ。言葉で表現しづらいんですけど、初めて会っていろいろ話している時、人間の芯の部分というんですか、深い部分でお互いに何かが似ているなというのを感じたんです。そして彼は韓国の血が流れているので、韓国の素晴らしい文化である、先輩を立てるのがすごいんですよ。僕の方が2、3歳上だったので、僕に対して「兄貴、兄貴」「飲みに行こう」「飯行こう」って感じで。ロスのお店を知らない僕は、内心ダニエルのことを兄貴と思いながら、いろいろなところへ連れてってもらいました。なんというか、すぐオープンになれたんですよね。化学反応が起きたというか。
――そのお二人の雰囲気の良さが画面からも伝わってきました。
そうなんですよ。それも言いたい。撮影は2週間ちょっとだったんですけど、基本的に時間軸に合わせて進めていたので、ラストシーンを撮るのは最後の日だったんです。人と人が知り合うと、やっぱり芝居も変わってくるんですよね。最後に僕ら二人が握手を交わすんですが、それはダニエルと話し合って入れたシーンです。作品の中でも知り合って、男の友情みたいなものが生まれたのは確かですね。
――つまり、もともとの脚本にはその仕草はなかったのですね?
ええ。僕とダニエルが話し合って、監督の許可をもらって追加しました。僕らが演じるキャラクターが一緒に捜査して、協力し合って事件を解決し、国の垣根を越えたということを表現する上でも役立つと思いましたから。
――2016年にハリウッドデビューを果たされましたが、このタイミングでアメリカ進出することになったきっかけなどはあったのですか?
自分が初めて芝居に触れたのは二十歳の頃で、ボストン大学に留学していた時なんです。もともとは英語のための留学だったんですが、昔から映画が好きだったのでちょっと映画を撮る方の勉強もしてみようと。その流れで芝居の勉強もして、23歳くらいで役者を始めたんですよね。最初はがむしゃらに、30代の頭くらいまでは自分ができることをやっていました。ただ、監督業や俳優業について最初に勉強したのが英語だったので、海外に対する夢というか、そういう世界があるよなあとはずっと心の中で思っていました。ただ、そういうことを口に出す前にまずは自分の中に基礎となるもの、ベースを確立しなければならなかったのですが、30半ばから、自分のこれまでや今後を考えたり事務所とも話し合った結果、チャレンジしてもいいんじゃないかという話になりました。今、世界がどんどん狭くなってきているので、その中で挑戦しない手はないな、と具体的に動き出したんです。でもどうやったらいいのか分からないので、事務所にも手伝ってもらって、オーディションの情報を集めることから始めました。だから、(ハリウッドデビュー作となった)『JUKAI-樹海-』の前にも何度もオーディションを受けているんです。それで何度も落ちているんです。だから、初めて受けてすぐ受かったという話ではないんですよ。ようやくデビューして、今回『クリミナル・マインド 国際捜査班』にも出演することになったんです。個人的には、ローマは一日にして成らず、の心境です。
あと、留学していた時の流れで、ニューヨーク在住の演技指導の人と知り合って、ずっと英語で勉強していたんです。日本にも同じシステムがあるのかもしれませんが、プロの役者を教える人なんですよね。もらった役が自分一人で取り組むには難しいと感じるプロがそういう先生に手伝ってもらって、二人で演技を作り上げていくシステムがあるんです。僕は海外のことなんて考える余裕もない頃にそういう先生と何度も一緒に勉強したのですが、きっかけとしてそういうことはありました。
――ご自身にとって初の海外ドラマとなる本作では日本語版の声をご自身であてたそうですが、いかがでしたか?
映像の中で動いている自分に後から声をあてるという体験は以前にもやったことがあるんです。撮影した後、どうしてもその時に録った音が変だったり技術的に直したいという理由で録り直すんですが、どちらも日本語で、しかも自分がすでにやったことだから、そう難しくはないんですよね。でも元が英語だと、日本語とは尺がまず違いますし、スピードや抑揚も異なります。片耳に当てたイヤホンから自分の元の声(英語)を聞きながら日本語のセリフを言うんですけど、ものすごい耳障りというか(笑)引っ張られるんですよ。自分が過去にやったことだから。しかも、英語と日本語の長さの違いによってうまく間を取ったりしなきゃならない。これまで味わったことのない、初体験の感覚でした。
――つまり、間の取り方が特に難しかったのでしょうか? もう少しアフレコの模様についてお聞かせいただけますか?
僕はアフレコ自体は経験はありますが、今回、初体験だったんですけど、他の役者さんのセリフはもう日本語になってると思い込んでいたんですね。でも行ってみたら僕が(日本語版収録として)最初だと言われて。つまり、他の人たちが英語をしゃべっている中、自分の番になった時に日本語をしゃべるという。撮影時は周りの人の英語を聞いて自分も英語をしゃべっていたのに、今度は英語を聞きながら自分は日本語を言うので、すごく難しかったですね。関西弁とかもそうだと思うんですけど、感情のある言葉の方が抑揚がのりやすいんですよ。関東の言葉って意外とフラットじゃないですか。英語も非常に抑揚があるので、感情をのせるのが面白い言葉だと思うんですけど、それでやった撮影時の感覚と、アフレコで標準的な日本語をしゃべる時のフラットな感覚のせめぎ合いみたいな。ただ、面白かったです。台本も書き方が違うんですよね。画に合わせてセリフが書いてあって、そういう新しいことを覚えたので、また少しバカじゃなくなりました(笑)
――今回演じられたキャラクターは、日本人のイメージが集約されたような、生真面目な人物でしたけれども、監督と役柄について話し合ったりされたのですか?
リョウは日本のある体制、警察という大きな組織の中に組み込まれた人で、上司の福井警視はガチガチの保守派という状況で、もしかしたら自分が後で大変なことになるかもしれないけれど上司に対してちょっと噛みつくというか、体制を曲げてでも正義を追求するキャラクターです。そこからダニエル演じるシモンズとの交流が生まれていって、それが事件解決の助けになっていきます。
――小澤さんは過去に似た刑事役を演じられていますが、今回のお話をくださった方はその演技をご存知だったのでしょうか?
いや、全然知らないと思いますよ。...別に毎回体制に噛みついているわけじゃなくて、権力の権化みたいな役もやりますし(笑) こういう言い方をするとなんですけど、国と国の間の架け橋みたいな存在になれればいいかなと個人的には考えていました。
――以前から海外進出を視野に入れていたというお話ですが、実際に海外作品に携わったことで役者として成長したこと、価値観が変わったことなどはありますか?
日本でこういう風に仕事をもらえるようになると、オーディションの話が来なくなったりするんです。有り難いことではあるんですけどね。ただ、一歩日本を出てしまえば、自分は無名の存在で、ゼロのところに立てるというのが、海外進出をしようと思った時に得た最初の宝物だと思います。常にゼロに戻れる、その気持ちを持っていられる、というのが今の自分にとって大事なことですね。そこで幸運にも仕事がもらえたら頑張るしかないわけで。
そして海外進出を果たして感じたのは、作っている人たちの見ている先が世界だということです。映画でもドラマでも、時代もありますけれども、アメリカ国内だけでなく海外にどんどん発信していくのを前提に作っているので、そういう作品だとやっている人たちがすごく楽しそうなんですよね。キャストはもちろん、スタッフも。誇りを持ってみんなやっているんだなあと。日本よりも求める"お皿"のサイズが大きいから、必然的にそこに載せる料理は増えていきますよね。そういうものを体験してから日本に戻ると、日本の良さも再発見したりするんです。相乗効果を得られたのは有り難いことでした。双方の良さも悪さも知ることでイイトコ取りができるんです。アメリカだと組合が強いので、スタッフが休む時間がたっぷりあるんですよね。でも、それだといい意味での緊張感が続かないので、やっぱり睡眠時間が短くてもすぐに撮れる日本はいいなと思ってみたり。でもそういうことって実際に体験しないと分からないですから。
――今後はどんな作品にチャレンジされたいですか?
難しいですね。役者というのはやっぱり、出会いがすごく大事なんですよね。人との出会いもそうですが、その作品と出会うかどうかが。ふさわしい年齢で出会えるかという問題もありますし。だから、どんなものがやりたいかと聞かれれば、超モテモテのエリートもやってみたいし、バリバリの殺人鬼もやってみたいし、人の命を救う崇高な医者もやってみたいし、もっと年を重ねたら、孫を可愛がる素敵なおじいちゃんもやってみたいし、とやってみたいことはたくさんあるんです。実際に演じたわけではないんですが、体は男性ながら心が女性の役を研究したこともありますから。そういう風にいろんな役に興味を持つのはすごく面白いですよ。電車に乗っている時とかによく周りの人を観察するんですが、身体の末端、指先や肩、顎を意識するだけで変わりますから。...あ、ヤバい。秘密を言っちゃった(笑) 心の中にメモしとかないと。
――出演されたエピソードで、小澤さん演じるリョウが「自殺は日本の文化の一つだ」と口にします。実際にそういう風に感じている人はいないと思うのですが、このセリフについてはどういうご意見ですか?
僕はそんなこと言いたくなかったんですけどね。正直、そこについて思うことはありましたが、いち役者としてそれを意見する立場にはないので。与えられた中で自分ができる最大限の努力をして、そのシーンなり作品なりを成立させるという立場なので。そんなことを言ったら、多分、僕たちも海外のことに関して勘違いしていることってたくさんあるんですよね。それはいいの?って話になってくる。言葉の端々を取って良かったことでなく悪かったこと探しをしてしまうのは、少なくとも生産的なことではないと思います。もちろん、自殺が日本の文化だなんて僕は思っていませんが、でも「富士の樹海」って聞いた時にみなさんが最初に何を思い浮かべるのかという話なんですよね。でも僕、『ブラタモリ』でタモリさんが富士の樹海に入っていく回を見たんですけど、プロのガイドさんが、樹海は本当はそんなに危ないところじゃないって話しているんですよね。ちゃんと道があるからそこを歩いていれば普通の森なのに、危険だというイメージが先行している。風評被害ですよね。日本人でもそう思っているくらいだから、海外の人は分かんないですよね。なので、僕は割り切って作品に取り組みました。作品に描かれていることが100%嘘なわけではないですし。作品としてはすごく面白くなっていますので、より多くの人に見ていただきたいなと思います。
――樹海のシーンはどこで撮影されたんですか?
ロスです。結構いい住宅街の中にある公園で撮りました。日本が舞台ですが、撮影は全部ロスで行いました。日本人街があるので、ホテルのシーンはそこで撮りました。築地も作っていましたね。チームが世界各国を飛び回るために使う飛行機は後ろ半分を作っているんですが、これ一つだけで7000万円という話でした。やっぱり規模が違いますよね。日本でセット一つに7000万円というのは、僕はあんまり聞いたことないですから。そういう意味でも、恵まれている環境で参加させてもらえたという喜びもあります。ただ、7000万だけど、スロープ部分が鉄剥きだしなので、革靴だと結構滑るんですよ(笑) エピソードの冒頭でチームのみんなが飛行機から降りてくる時、気を付けないといけないんです(笑)
『クリミナル・マインド 国際捜査班』はWOWOWプライムにて2月14日(火)23:00よりスタート〔第1話無料放送〕。小澤さん出演の第4話「死神のささやき」は3月7日(火)放送。
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Photo:
小澤征悦さん
『クリミナル・マインド 国際捜査班』
(c) ABC Studios