吹き替え冥利に尽きるほど面白い!『インコーポレイテッド』ベン・ラーソン役の細谷佳正インタビュー

アニメーション映画『この世界の片隅に』で主人公すずの夫・周作を演じて絶賛された声優の細谷佳正が、『インコーポレイテッド』の吹き替えで念願の海外ドラマ初主演。同作のDVDが先日リリースされたことに合わせて、本作に対する熱い思い、印象に残るシーンなどについて真摯に語ってくれた。

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本作は、マット・デイモン&ベン・アフレック製作総指揮による手に汗握る近未来SFサスペンス。大規模な気候変動によって政府が機能を失い、巨大企業が世界を支配することになった2074年、"富(グリーンゾーン)"と"貧(レッドゾーン)"に分断された二極化社会の中、レッドゾーン出身の主人公ベンが、初恋の女性エレーナを救うためグリーンゾーンに身分を偽って潜入し、破滅と背中合わせの計画に身を投じていく姿を描く。

――本作が海外ドラマ初主演とお聞きしました。ちょっと意外な感じがしましたが、オファーがあった時はどんなお気持ちでしたか?

そもそも僕は、海外ドラマや映画の吹き替えで声優のキャリアをスタートさせたんですが、当初はアクションやコメディなどの視覚的なお芝居の中で、若者らしい元気さ、無謀さを求められてお仕事をいただくことが多かったと思います。本作のオファーをいただいたのが35歳の時。ようやく大人の役を任せていただけるようになったのかな?と思うと、感慨深いものがありましたね。

――しかも、ハリウッドを代表する存在のマット・デイモン&ベン・アフレックが手掛ける話題のドラマとくれば、燃えないわけがないですよね。

そうですね。どちらも実績のある有名な方なので、きっと面白い作品になると思っていました。彼ら二人が創る世界観の中で主人公ベンさせての吹き替えを任せていただけることが、素直に嬉しかったです。

――吹き替えの現場はどんな感じでしたか?

初主演ということよりも、周りが技術力の高い声優さんばかりだったので、そちらの方がプレッシャーを感じましたね。デビュー当時こそ海外ドラマや映画をやらせていただきましたが、その後はどちらかというとアニメーションのお仕事をたくさんいただくようになっていたので、果たして吹き替えのエキスパートの方々の中で「自分は遜色なくやっていけるのか」という不安が常にありました。

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――初主演のベン役、手ごたえはありましたか?

自分を偽ったり、嘘をついたりと、かなり心の動きが重要になる主人公だったので、内容について深く考察しました。僕の吹き替えのキャリアの中で一番複雑な役柄だったので、とてもやり甲斐はありましたね。今回インタビューをしていただくということで、改めて見直してみたんですが、最初にあった違和感が、回を重ねるごとに薄れていくのを感じました。僕は自分を過小評価してしまうタイプなので、「これで正解なのかな?」とか、いろいろ考え込んでしまうんですが、物語が後半に向かっていく中で、自分でも「これでいいんだ」と納得できるようにはなりました。視聴者の皆さんがだんだん声に馴染んで聞き慣れていく、あの感覚に似ているかもしれませんね。

――マット・デイモンとベン・アフレックからの警告とも言うべき"二極化社会"、細谷さんはどのように受け止められました?

巨大企業が実権を握るグリーンゾーンという世界があって、それ以外の世界は壁で仕切られ、レッドゾーンと呼ばれるスラム街と化している。デフォルメされてはいますが、未来を暗示するような二極化社会、すごく身に迫るものを感じました。

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――貧しすぎるレッドゾーンも困りますが、裕福だけれど完全管理されているグリーンゾーンはもっと怖いと思いました。

昔、生き別れた初恋の女性を捜すために、ベンはグリーンゾーンに潜り込むわけですが、常に監視されていて、そこがスリルを生むわけですよね。完全に管理される社会って、僕も怖くて仕方ないですが、いずれこうなっていくんだろうなというリアルさは感じました。至るところに監視カメラが設置されていますし、指紋認証によってその人の情報が見えてしまうというテクノロジーもある意味では脅威です。マットとベンは、両極の世界を描くことによって、社会に警鐘を鳴らしたかったんでしょうね。

――細谷さんがベンを演じていて面白いと感じたシーンは?

最初の方のエピソードで、ベンは会社の同僚何人かとレッドゾーンの怪しい店に繰り出して、上司を貶(おとし)めるんですが、そこにいたライバルで同僚のロジャーがベンを疑い始めるんです。その話を休憩室で攻め合うんですが、お互いの黒い部分が見え隠れする舌戦がとにかく面白くて、演じていてすごく楽しかったですね。簡単に言ってしまえば、ベンはスパイのように暗躍しているんですが、時おり見せる、目的のためなら手段を選ばない冷酷な一面は、吹き替え冥利に尽きるほど面白かったです。

――優しく正義感の強い一面もあるからこそ、時おり見せる冷酷さがより際立つのかもしれませんね。

幼なじみのエレーナを捜す、という名目はあるんですが、ベンはすごく頭が切れるので、純粋に「彼女を助け出したい」という綺麗な気持ちだけではないような気がするんですよね。たまたまうまくいっている計画に乗っかって、最終的にグリーンゾーンで着々と地位を積み上げているところを見ると、必ずしも愛のためだけで動くような人間ではないと思います。そこがダークヒーロー的で魅力的なんですよね。

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――ベンを演じたショーン・ティールという役者さんについてはどんな印象をお持ちですか?

グリーンゾーンとレッドゾーンの狭間で生きるベン役にはピッタリな役者さんだなと思いましたね。グリーンゾーンにいる役者さんたちは顔立ちや雰囲気が白人系という感じなのに対して、ショーン・ティールはどこかエキゾチックという感じがします。その感じが、「どちらに転ぶか分からない」というミステリアスな視覚的効果を与えていたのではないでしょうか。

――普段、どんな海外ドラマや映画をご覧になっているんですか?

何といっても『ミッション:インポッシブル』です! あのシリーズはハズレがありませんし、トム・クルーズが大好きなんです。先日、『ミッション:インポッシブル/フォール・アウト』のニュースで、トムが撮影中に骨折したことが面白おかしく書かれてあったんですが、僕の中で「トムは凄い人」というリスペクトの気持ちがあるので、読んでいてちょっと嫌でした(笑) 『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』や『バリー・シール/アメリカをはめた男』も観ましたが、とてもイーサン・ハント(『ミッション:インポッシブル』の主人公名)と同一人物とは思えない変貌ぶりに、凄い俳優だなって思いました。

――細谷さんのトム・クルーズへの熱い思いがこちらまで伝わってきます。いつか吹き替えができるといいですね。

トムの吹き替えはひとりの観客として観ていたいです。それに大先輩の森川(智之)さんが専属でやられているんで恐れ多いです。欲を言えば、トムの作品で違う役として森川さんとご一緒できたらな、という夢はありますね。

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――最後に、『インコーポレイテッド』の見どころを教えていただけますか?

マットとベンが仕掛けたグリーンゾーンの完璧な管理システムを見事に欺いていく、主人公ベンのある意味でスパイ的な行為は、視聴者の皆さんをドキドキさせると思います。また、物語の後半で"エバークリア"という記憶を視覚化できる尋問機器が出てくるんですが、それを利用したトリックで生き延びていくベンのしたたかなダークヒーローぶりも必見。もっと大きな視点で観れば、グリーンゾーンのような監視社会になってほしくないという人間の希望みたいなメッセージも込められているので、いろんな角度から観ていただきたいですね。

取材・文・撮影:坂田正樹
ヘアメイク:河口ナオ

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Photo:『インコーポレイテッド』
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