19年連れ添った妻が家を飛び出した――! そんな日常の中の非日常をテーマにした『Come Home(原題)』は、3人の子どもとともに取り残された初老男性の悲哀の日々を、ユーモアで包み込んだドラマだ。今年3月末にイギリスで第1話が放送されると、主人公グレッグ(クリストファー・エクルストン『LEFTOVERS/残された世界』)のありふれたキャラクターが共感を呼び、じわじわと人気となっている。
■元妻を忘れられない男、新たな恋を求める
妻のマリーは、「距離を置きたい」とだけ告げてグレッグの元を去る。妻との日々を忘れられないグレッグだが、一方で新たな恋を求めてインターネットを通じた出会いに賭ける姿が同情を誘う。
ストーリーの幕開けは、グレッグが女性の家の周囲を怪しく嗅ぎ回るシーン。敷地のあちこちを偵察するうちに女性2人が帰宅し、そこが元妻マリーの家であることが明かされる。慌ててシャワーカーテンの向こうに身を隠すグレッグの姿は滑稽だ。
そこで画面は2週間前にフラッシュバック。インターネットで出会った女性との最悪のデートの様子が描かれる。初対面のデートでグレッグは、ポケットに忍ばせていた大量のコンドームを床にばらまいてしまうのだ。この夜、彼はガレージまで連れ帰った女性と一夜を共にするが、その女性はDV被害やアルコール依存などの問題を抱えていることが判明する。グレッグと3人の子どもたちは、再び温かい家庭を手にすることができるのだろうか。
■エクルストンの新たな一面
本作では主人公グレッグ役のクリストファーが、ありふれた男の姿を好演している。これまでは情熱のほとばしる激しい演技を見せる俳優として知られてきたが、今作ではこの部分を押し殺し、リアルな男性の役柄に徹する。Guardian紙(3月27日)では、コラムニストのルーシー・マンガン氏が、迫真の演技だがシーンによって目障りに感じることがあったと振り返る。今作では一転し、「普通ではない状況に置かれた普通の男」として説得力ある姿を見せている点が目新しい。
他の出演陣も注目に値する。妻のマリー役を務めるのは、アイルランド人でありながらアメリカのドラマにも多数出演するポーラ・マルコムソン(『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』)。Telegraph紙は、画面に「静かな情熱をほとばしらせる」と評価している。
脇役も個性派揃いだ。俗人的な態度があからさまなポーリンと、その尻に敷かれた夫のデレクは、早くもスピンオフに値するとIndependent紙は評する。超常現象などは一切登場しない地に足のついたドラマだけに、経験に裏打ちされた俳優陣の演技が光る。
■真価が見られるのはこれから
脚本のダニー・ブロックルハースト(『エグザイル 戦慄の絆』)は、普通の男女を極端なシチュエーションに置くのを得意のパターンとしており、本作もその典型だ。第1話放送時点ではまだドラマの中核が定まり切っておらず、真の盛り上がりを見せるのはまだ少し後かもしれない。
マリーがなぜ家庭を棄てたのかをめぐる謎解きとして観るのも楽しいだろう。Telegraph紙では妊娠検査薬に関する回想シーンに注目し、このプロップが原因になっているのではと予想している。さらに、一見普通の男に見えるグレッグ側にも、心理テストを熟読するなど奇妙な行動が垣間見える。これはグレッグに隠された別の性格があることを示唆しているのかもしれない。
Guardian紙では、このように離婚原因に思いを巡らせるミステリの側面と人間ドラマの側面の、どちらが主軸なのかを現時点では判断しかねると述べる。ただしドラマ全体の印象は、演技の良さなどを理由に良好だ。記事の著者は女性であるため思わず妻側に味方してしまったという。カップルで観て意見を戦わせるのもまた一興だろう。(海外ドラマNAVI)
Photo:『Come Home』
BBC