YouTubeは2018年、月額定額のストリーミングサービス「YouTube Premium」を満を持してスタート(日本では未提供)。SFアクション『Impulse(原題)』は、その方向性を決定づけると言っても過言ではないほど出来の良い作品だ。超能力モノでありながら、その能力に悩まされる少女の心理的葛藤を丁寧に描いている。
◆思わず瞬間移動
ニューヨーク州の郊外の町に越してきたヘンリー(マディー・ハッソン)は、冴えない日々を送る高校生の少女。次々と恋人を乗り換えては引越しを繰り返す母(ミッシー・パイル)のせいで、親しい友人を持てないことに悩んでいる。
バスケットのスター選手であるクレイはそんな彼女に優しい態度を見せるが、そう思っていたのもつかの間、自宅へと送り届ける車の中で、キスから始まった彼の行動はエスカレートし、レイプ寸前にまで発展する。恐怖を感じたヘンリーだが、次の瞬間、なぜか自宅のベッドの上に横たわっているのだ。次第に彼女は、感情が高ぶった時にテレポーテーションをするという自らの特殊能力に気づき始める。
他の生徒に能力を知られたくないヘンリーは、観察眼鋭いクラスメイトのトウンズと義理の姉妹であるジェンナと共に、能力が発動する条件を合理的に解き明かそうと試みる。
◆特殊能力が悩みの種に
ヘンリーは、テレポーテーションに加えて周囲の物を動かす能力も備えている。しかし、その発動条件は彼女自身にも不明。むしろ能力を持ったことで悩みを抱えており、その点が同ジャンルの他作品と比較してユニークだ。また、彼女と母の関係にも巧妙なヒネリが加えられている。米IndieWireはこうした独自の設定に関し、超能力物にありがちな展開をうまく避けているとし、その独自性を買っている。
テレポートする際の特殊効果にも注目。サウンドとビジュアルはその不思議な世界観を存分に感じさせてくれる。同誌は、いい意味でショックを与えてくれると感じたようだ。特にオープニング・シーケンスでは、殴り合う二人の男が、満員の地下鉄や氷山などを一瞬で移動し、能力者の世界を存分に見せつけてくれる。
ただし、本作の主眼はあくまでも能力主の苦悩。オープニング以降は派手な演出はあまりなく、この点はやや残念。米Hollywood Reporterは、パイロット版よりも特殊効果が貧弱に感じるカットがいくつかあったとも指摘する。同誌はYouTube側に予算上の制約があった可能性を指摘しているが、真相はどうだろうか。
◆ハソンが熱演、トラウマを抱える少女
主演女優マディーの卓越した演技力は、本作を見逃せない理由の一つだ。Hollywood Reporter誌は、「マディーの主役としての非常に強力なパフォーマンス」が、本作に「ヤングアダルト・スリラーというよりも性的暴行にまつわる人間ドラマ」としての側面を与えており、ドラマの推進力になっていると絶賛。強気だが脆い内面を抱えた少女が、ハソンの桁外れの演技力によって表現されている。
米Forbesでは演技力に加え、作品の姿勢についても高く評価。性的暴行という重いテーマを扱っているにもかかわらず、刺激的な表現を避け、トラウマに悩む少女の内面を丁寧に描写している点は秀逸。一方でアクション作品としての暗く血なまぐさいシーンも多く目にすることができるようになっており、「ヤングアダルト・フィクション作品としては非常に衝撃的」な仕上がりとなっている。FCC(連邦通信委員会)の規制を受ける地上波の局には不可能な内容で、YouTubeというメディアの特徴を存分に活かした作だと言えよう。高校生から大学生を明確なターゲットに据えた同作は、YouTube Redの立ち位置を決めるドラマになるだろうというのが同誌の見解だ。
『Impulse』は、サービス対象国のYouTube Premiumで配信中。日本では第3話まで無料で視聴可能。(海外ドラマNAVI)
Photo:マディー・ハッソン
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