家族の愛情に心打たれる...テロ集団にムスリム一家の母が挑むスリラー『Next of Kin』

テロの緊張が世界的に高まる中、その加害者と被害者の両方の立場に陥った一家を描いた『Next of Kin(原題)』が、生々しい緊張感を放っている。渡英したムスリム(イスラム教徒)家族が味わうテロの余波を、あくまで平凡な一家族の立場から描いた視点が新鮮な、英ITVで今年1月から配信しているスリラードラマだ。

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♦兄弟はテロの犠牲に 甥には別のテロを起こした疑惑が
イギリスで開業医をしているモナ・ハーコート(アーチー・パンジャビ)は、パキスタンからの移民。彼女が2歳のとき、一家全員で海を渡ってきた。夫、ガイ(ジャック・ダヴェンポート)と息子を含む、家族全員がムスリムだ。

モナの兄弟であるカリーム(ナヴィーン・チャウドリー)は母国パキスタンで医療関係の海外ボランティアに従事している。彼の無事を願うモナだが、その祈りも虚しく、空港に向かう途中にカリームは誘拐、惨殺されてしまう。時をほぼ同じくして、ロンドンでは爆破事件が発生。テロと断定した警察は、カリームの19歳になる息子、ダニー(ヴィヴェイク・カルラ)が何らかの形で関与していると見て行方を追い始める。

モナは兄弟を亡くして悲しみに暮れるが、テロへの関与疑惑をかけられたダニーはモナにとって甥に当たる存在で、一家に対する周辺住民の態度は一変する。身の危険さえ感じるようになった彼女は、一家と甥を守るため、時に銃口の前に立ち、時にコンピュータを駆使して困難に立ち向かう。

♦グローバルな脅威を家族の視点で
タイトルの『Next of Kin』は、「最も近い親族」を意味する法律用語。テロ事件の容疑者に最も近い人物となってしまったモナが、その余波に引き裂かれる一家を守る。家族こそが真のテーマであり、そこにしっかりとフォーカスした誠実なドラマだと米New York Timesは評価する。手に負えない息子や疎外感を感じる白人の夫など、移民家族を扱ったシリーズとして欠かせない題材に加え、そこにテロリズムの影を感じさせることで緊張感を保つことに見事成功している。

国際的な問題であるテロリズムを、家族という観点から描いた点が特徴的だと英Observerは指摘。斬首や爆撃、過激派組織への参加といったショッキングな描写がある一方で、家族の愛情をきちんと感じさせるストーリー運びとなっているところは見事だ。

米Pasteもほぼ同じ見方で、テロの余波を家庭レベルで克明に描写したソリッドなスリラーだと評価。「ムスリムのテロリスト」とはお決まりのパターンだが、本作の描写はステレオタイプにおさまらない。喧嘩や隠し事などが絶えず、それでも互いを愛しているという日常的な描写から、彼らが普通の家族となんら変わらないのだと気づかせてくれるのが本作の美点だ。

♦主演アーチー、そのカリスマ的存在感
兄弟を亡くし、さらには甥が別事件に関与したとして心を痛めるモナ。その複雑な心の内を、主演アーチーがダイナミックな演技で表現する。モナは一児の母であるが、全く危険を顧みず、常人離れした洞察力とアクションを存分に発揮する。捜査員に対してあくまでも気丈に応じ、脆いが決して弱くないキャラクターを、カリスマ的な存在感を放つアーチーが熱演し、まさに主役にふさわしい風格だとPasteは高く評価している。

ドラマ『グッド・ワイフ』で、利益のためなら違法行為も厭わないクールな調査員カリンダ役で出演したアーチー。本作ではその役柄から一変、繊細さを含ませた演技に注目だ。主役のパフォーマンスこそが本作を支えているとNew York Timesは賞讃している。

『Next of Kin』は、イギリス、アメリカなど世界4カ国のストリーミング・サービスで配信中。(海外ドラマNAVI)

Photo:アーチー・パンジャビ
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