『THIS IS US』マイロ・ヴィンティミリア~顔面麻痺という障害を乗り越え歩んだ俳優人生~

マイロ・ヴィンティミリアという名前を聞いて思い浮かべる作品は一体何だろうか? 『ギルモア・ガールズ』、『HEROES/ヒーローズ』、『チョーズン:選択の行方』――、おそらく海外ドラマ好きの方々なら、人それぞれ違う作品を思い浮かべることだろう。

もうかれこれ15年以上もの間、アメリカTV界の第一線で活躍している彼が多くの苦難を乗り越え、歩んできた俳優人生を紹介していきたい。

マイロ・アンソニー・ヴィンティミリアは、1977年7月8日アメリカ・カリフォルニア州オレンジ郡アナハイムで生を受ける。父はイタリア系の血を引き、母はイングランドやスコットランドといったチェロキー族の祖先をもつ家庭で、幼少のころからベジタリアンとして育つ。しかし生まれた時にマイロは、顔面の神経が傷つけられてしまったことで、顔の左半分、特に口元に麻痺が残ってしまう。

本人は冗談交じりに""歪んだ口""と呼ぶなど、そこまで大きな障害として捉えていないようにも見えるが、そういった顔面麻痺を抱えながらの俳優人生というのは、並大抵の努力では歩んでこられなかっただろう。

俳優の道へ

マイロが本格的に演技を学び始めたのは、高校卒業後のこと。American Conservatory Theatreのサマープログラムで演技の道を志すようになり、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で演劇と英文学の課程を修了。ここから"俳優マイロ・ヴィンティミリア"としてのキャリアが幕を開ける。

大学を卒業して間もない1995年のこと。当時ラッパーとして活躍していたウィル・スミスのTVデビュー作でもある『The Fresh Prince of Bel-Air(原題)』にパーティのゲストの一人として出演。これがプロの俳優としての第一歩となる。

その後、メリッサ・ジョーン・ハート主演の人気コメディ『サブリナ』やジェリー・ブラッカイマー製作総指揮の『CSI:科学捜査班』などの人気ドラマにゲスト出演を重ね、徐々に頭角を現していったマイロは、2001年より、のちに最初の代表作となるファミリー・ドラマ『ギルモア・ガールズ』へのレギュラー出演を果たす。

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マイロ演じるジェス・マリアーノはシーズン2から登場し、アレクシス・ブレデル演じる主人公ローリー・ギルモアの恋人として存在感を発揮するキャラクター。劇中でどこにでもいるような好青年ぶりを見せつけた彼は、4シーズンにわたり同役を好演し、一気にスター街道を歩むようになる。

この『ギルモア・ガールズ』にはジェスを主人公にした『Windward Circle』というスピンオフ企画も存在していた。この時に彼の父親役としてオーディションに参加していたのが、のちに共演を果たすことになるエイドリアン・パスダーだったが製作に至ることはなく、企画自体が頓挫してしまう。しかし、このオーディションが、マイロの俳優人生に大きな転機をもたらすことになる。

憧れの俳優との共演

『ギルモア・ガールズ』出演中も、これに慢心することなく、『ボストン・パブリック』や『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』などで経験を積んだマイロは、2006年に尊敬する大御所俳優との共演を果たす。

名作ボクシング・ドラマ『ロッキー』シリーズ前作から16年ぶりの続編となった『ロッキー・ザ・ファイナル』でシルヴェスター・スタローン演じるロッキー・バルボアの息子ロバート(本当はロッキー・ジュニア)役に抜擢されたのだ。実はマイロにとってスタローンは特別な存在だった。スタローンもまた、生まれた時から顔面、特に左側に強い麻痺症状を抱えている俳優なのだ。同じような境遇であるにもかかわらず、ハリウッドの頂点に君臨する名優であるスタローンにマイロは強い憧れを抱いていた。

劇中では、父親に引け目を感じて家を飛び出したドラ息子を演じているマイロだが、撮影中はスタローンに積極的にアドバイスを求めていたという。この共演がマイロの俳優人生をさらに、充実したものへと昇華させていく。

2006年より放送が始まった『HEROES』でマイロの魅力に取りつかれてしまったというファンも多いことだろう。前述の『ギルモア・ガールズ』スピンオフの話を思い出してほしい。『HEROES』の放送が始まる8年前に、親子役のオーディションに参加していたマイロとエイドリアンだが、この時に親子よりも兄弟に近いのではないかという意見が上がり、それから8年の時を経て『HEROES』のピーターとネイサン・ペトレリの兄弟役が実現したという運命的な背景がある。

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同作でマイロが演じるのは、ある日を境に世界中で特殊な力を秘めた能力者たちが次々と覚醒する中、世界の救世主となりうる存在ピーター・ペトレリだ。これまでの爽やか好青年イメージを覆した、目元が隠れる前髪が超絶クールな印象を与え、どこか陰のあるミステリアスな雰囲気を大いに醸し出しているのだ。

日本人俳優マシ・オカの出演で大きく人気を博した作品だが、ピーターもといマイロのカッコ良さにばかり目が行ってしまうという海外ドラマ好きが急増したのも記憶に新しい。他人の能力をコピーし、次々と強くなっていきながらも、自らの能力と葛藤するピーターの姿を4シーズンにわたり体現したマイロは、本作で世界的に大ブレイクを果たし、一気に自らの地位を確立することとなったのだ。

その後はジェットコースター・サスペンス『チョーズン:選択の行方』、ホラー・ドラマ『見えない訪問者 ~ザ・ウィスパーズ~』、『GOTHAM/ゴッサム』などのTVドラマで活躍する傍ら、映画やアニメの声優として実力を発揮してきたマイロに今、再び大きな注目が集まっている。

2016年より放送が始まるや瞬く間に全米を席巻した『THIS IS US 36歳、これから』。エミー賞&ゴールデングローブ賞をはじめとした数々のアワードで注目の的となり、ここ日本でも、本作で涙活する視聴者が続出した話題作だ。

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同じ誕生日に生まれた4人の男女の人生を描き出す本作で物語の重要な要素を占めるジャック・ピアソンを演じているのが、マイロである。子煩悩な父で、良き夫でありながら、いささかの問題を抱えたジャックというキャラクターを人間味あふれる演技で好演し、エミー賞主演男優賞にノミネート。作品のクリフハンガーとなる役割を果たしていることも多く、終始目が離せない演技を披露している。

いくつもの海外ドラマで存在感を発揮し、今に至るマイロ。顔面麻痺という俳優にとっては致命傷になりかねない障害を抱えながら、好青年からミステリアスな役柄まで表情豊かに幅広く演じ分ける彼は、間違いなくアメリカTV界を代表する名優である。

(文・zash)

Photo:『ギルモア・ガールズ』© Warner Bros. Entertainment, Inc. エイドリアン・パスダーとマイロ・ヴィンティミリア©FAMOUS 『THIS IS US 36歳、これから』 TM & (c) 2016-2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. Artwork (c) 2016-2017 NBCUniversal Media, LLC. All rights reserved.