サイコロジカル・スリラー『The Cry』 異国で我が子が失踪、若き母の精神は限界に...

英BBC Oneで9月30日(日)から放送中のサイコロジカル・スリラー『The Cry(原題)』。劣悪な環境で育児をこなしていた若きイギリス人の母親が、やむを得ない事情でオーストラリアを訪問。その地で我が子が失踪する悲劇に見舞われ、精神は極限状態に追い込まれる。豪ABCでの放送も予定されている本作は、乳児誘拐事件というミステリーとしても興味を惹く一本になっている。

【関連記事】【まとめ】2018年 Netflixで配信される新作海外ドラマ21選(最終更新日:10月11日)

■愛した相手は既婚者 それさえ苦しみの序章
美しい女性ジョアンナ(ジェナ・コールマン)は、政府のスポークスマンとして働くアリスター(ユエン・レスリー)と恋に落ちる。夢のような時間もつかの間、アリスターには妻子がいたことが明らかに。縁を切ろうとしたジョアンナだが、アリスターの子を身ごもっていることがわかり呆然。出産を決意する。

アリスターの離婚が成立し、無事に長男ノアを出産、3人で暮らし始めるジョアンナだが、そこからがストレスの連続。夜泣きをする赤ちゃんに、仕事で多忙なアリスターは無関心。さらに彼は、オーストラリアに住む前妻アレクサンドラ(アッシャー・ケディー)との間の子を引き取りたいと言いだし、親権交渉のためのオーストラリア訪問を決めてしまう。

泣きわめく赤ちゃんを抱えたまま、ジョアンナは30時間のフライトに同行することに。さらに入国後に降りかかったのは、愛する息子ノアの失踪事件。メルボルンからジーロングの街への1時間ほどのドライブの道中、買い物に寄った店から戻ると、ノアは車内から忽然と姿を消していた。事件は世間の関心を引き、メディアの取材攻勢、捜査機関の尋問、そして関係のない人々からの批判がジョアンナたちを襲う。失踪の真相が分からないまま、彼女の精神状態は限界に達する。

■子を失った者に、世間の仕打ちは冷たく
乳児失踪事件はそれだけでも想像を絶する心理的負担を生じさせるが、ジョアンナの結婚生活は事件以前から苦難の連続だった。ひとりの親としての苦労を強調するのは英Guardian。昼夜問わず泣き続ける赤ん坊、夜間はひとり熟睡してしまう夫、赤ちゃんができたことで生活が変わったことを理解しない友人、物知り顔でアドバイスをしてくる通りがかりの人々など...母親にかかる負担はただでさえ相当なもの。育児仲間との関係づくりといったストレスと、それによって亀裂の入る結婚生活など、注目せずにはいられない要素が満載のサイコロジカル・スリラーだと同メディアは紹介している。

巧妙でニュアンスに富んだ作品だと英Timesは評価し、事件後の動向に注目。2007年にポルトガル南部で英国人の女児が行方不明になった「マデリン・マクカーン失踪事件」を思わせる苦悩がジョアンナたちに襲いかかる。心を痛める両親に対して世間が寄せるのは、子育てに不備があったのではという厳しい視線。マスコミに追われ、報道番組にも出演し、雑誌の表紙にもなるなかで、過度のストレスから結婚生活にも軋みが。事件の当事者に鞭打つような周囲の仕打ちは残酷そのものだ。

■頼れない夫 それも作品の魅力
ジョアンナを追い詰める要因のひとつは、本来支えとなるべき夫アリスターの態度。Timesは、アリスターが既婚者だったことをジョアンナが知る瞬間を紹介。アリスターとベッドの上で親密な時間を過ごしていると、そこへ当時の妻アレクサンドラと娘が入室。アリスターを独身だと信じていたジョアンナにとって最悪の瞬間となった。

アリスターのはっきりしない曖昧な態度はジョアンナに苦悩をもたらすばかりだが、彼が撒く混乱の種の数々も作品の魅力だとGuardianは捉える。彼が良い夫に落ち着くのかどうかに興味がそそられると述べている。そして、失踪事件の真相についての推理を展開。育児のストレスに悩んだジョアンナが息子の失踪を計画した可能性や、車のトランクに凶器となりそうなガーデニング道具を隠し持つなど怪しい行動が目につく前妻アレクサンドラが何らかの行動に出た可能性など、真相は誘拐事件ではない余地もあると推測している

子を持つ親なら誰もが感じる辛さをベースにしたサイコロジカル・スリラー『The Cry』は、英BBC Oneで放送中。(海外ドラマNAVI)

Photo:ジェナ・コールマン
(C) JHMH/FAMOUS