Amazon『高い城の男』シーズン3、魅力的な田上とスミスのストーリー、期待のラスト

リドリー・スコットが製作総指揮に名を連ねる『高い城の男』は、AmazonオリジナルのSFスリラー。ナチス・ドイツと大日本帝国が第二次世界大戦に勝利し、アメリカの東西地域をそれぞれ支配しているという架空の世界を描いている。スコット監督作『ブレードランナー』の原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」で有名なSF作家、フィリップ・K・ディックの小説を原作にしたシリーズ。その最新となるシーズン3が10月から配信されている。

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ニューヨークなど東海岸を大ナチス帝国に、そしてサンフランシスコなど西海岸を日本側(日本太平洋合衆国)に支配されたアメリカ。ナチスが行った日本側への原油制裁を発端に、両国の関係は悪化の一途をたどる。そんな中、ナチの野望を阻止したいジュリアナ(アレクサ・ダヴァロス)は、日本側の穏便派の貿易大臣・田上(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)に協力を依頼。歴史上の分岐点が生んだ平行世界でまったく違う人生を体験した田上は、自身とジュリアナとの運命が相互に影響していることに気づく。二人は手を組み、両帝国の秘密が潜んでいると見られる謎のフィルムの解明に乗り出すことに。

何本もの映像リールにわたる問題のフィルムは、複数存在する歴史上の平行世界の様子が収められたもの。大ナチス帝国の優秀な将校であるジョン・スミス(ルーファス・シーウェル)も、実はこれらのフィルムに政府打倒のヒントが隠されていると目をつけていた。数々の出来事に阻まれながらも数十本もの映像に目を通し、ついに映像から衝撃の事実を発見する。

いつまで経っても色褪せないシーンがある、ディテール豊かな歴史改変SFだ、と評価するのはFinancial Times誌。鉤十字の旗がずらりと掲げられたニューヨークの街、日本側の統治者が集う会議の窓の外に見えるゴールデンゲート・ブリッジなどは、アメリカが他国から支配されるというプレミスを象徴するカットだ。他にも美しいモニュメント・バレーで日本太平洋合衆国が原爆実験を行う場面など、視聴者にとっては胸に響くであろうシーンが続く。

ストーリーの進行についてEmpire誌は、プロットの進行が遅い点に多少不満があると述べている。打倒ドイツ帝国を企むジュリアナの両肩には救世主としての重圧がのしかかるが、その行動にはあまり進展が見られない。恋のトライアングルに巻き込まれたり、正体のよくわからない追っ手にかかったりといったことを繰り返している。しかし、これもシーズン最後の2話に予算を集中させ、盛り上げるためだと同誌は分析。また、終盤まではメインのシナリオよりも、むしろサブプロットが面白みをもたらしてくれると指摘する。秘密の人間関係、プロパガンダの本当の狙い、ナチスの式典の陰でひっそりと進行するユダヤ教の儀式など、興味深いディテールが随所に盛り込まれている。

これまでも原作小説の枠を超えた展開で視聴者を驚かせてきた『高い城の男』だが、今シーズンではさらに翻案が進むとFinancial Times誌は紹介。日本側が治める西海岸には、新たなキャラクターとしてナカムラ軍曹が登場。その資質を疑う非難の声に晒されるが、持ち前の熱心な勤務態度で組織への忠誠心をアピールする。シーズン2では平行世界を旅し、今シーズンではさらに重要なポジションを担う貿易相・田上など、日系・日本人キャラクターの活躍も目覚ましい。同誌はほかに、大ナチス帝国に活躍を認められ昇進を果たしたスミスにも注目。容赦ないナチ党員でありながら、息子・トーマスを亡くした心の傷が癒えない彼は、そこはかとない哀愁をドラマに加えている。

そんなスミスを演じるルーファスが本作の明らかなMVPである、とEmpire誌は称賛。さらに同誌も、田上の生み出すストーリーを高評価。日本側の貿易大臣という地味な役職ながら、彼の平和主義がアメリカとの軋轢を生み出し、実に魅力的な葛藤の源となっている。

第二次大戦後の「もしも」の世界を描く『高い城の男』シーズン3は、Amazon Prime Videoで配信中。(海外ドラマNAVI)

Photo:アレクサ・ダヴァロス
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