推理作家が女刑事とタッグを組んで難事件を解決していく大人気ドラマ『キャッスル ~ミステリー作家は事件がお好き』。同作で主人公リチャード・"リック"・キャッスルを演じたネイサン・フィリオンが奮闘する新ドラマ『The Rookie(原題)』が米ABCにて10月16日(火)よりスタートした。
40代にして新米警官
同作は、中年特有の悩み(ミッドライフ・クライシス)を抱え、何となく日々を過ごしていたジョン・ノーラン(ネイサン)が、ある出来事をきっかけに人生を変えようと決意。警察官になると決め、ロサンゼルス市警で最年長の"新米警察官(ルーキー)"になるところから始まる。命取りにもなるような凶悪犯の追撃もあれば、家庭のいざこざ問題にも尽力する警察官たちの日々の姿が描かれている。展開の早い犯罪捜査やアクションシーン、そしてところどころに散りばめられたウイットに富むセリフが小気味好く展開していく本作だが、この作品の最大の魅力はなんといっても、ネイサン演じる人生の熟練者、40代の新人ジョンだ。
ジョンは、初日から「ディスコができる前に生まれた新人」と上司から紹介され、先輩警察官からも「おじさんだから走れないだろう」と揶揄される。実際同期の若い二人に比べて、犯人追跡もキツそうに走るし、瞬発力もなくフェンスさえも登れない。それを見ては笑う年下の先輩たちからのからかいに口答えもせず、"仕方ないか"という表情で流す姿はある意味"大人の男性"の余裕さえ感じさせるが...実は陰で落ち込んだりもする。
いつでも一生懸命で魅力的
しかしジョンはただの冴えない中年新米警察官というわけではない。彼なりの豊富な人生経験を生かし、自殺しようとする女性に自分の山あり谷ありの生き様を語って踏みとどまらせたり、監禁されている少女を救いたい一心で凶悪犯のアジトに単独で突入したりするような、誠意と正義感を持った人間なのだ。優しく真っ直ぐな心はまるで少年のよう、だが外見は立派な中年男性。そんなジョンがドジを踏み笑われる姿に、男女問わず思わず可愛いなと思ってしまうに違いない。
しかも意外なことにジョンはプライベートでは、なんとモテ男でもある。失敗を繰り返しつつも、世の人々のため第二の人生を捧げるジョンの一途さを見て、馬鹿にしていた先輩警察官や上司たちも、徐々に彼を認めていくようになる。『キャッスル』のイメージが強いファンでも、真面目でお茶目なジョンをすぐに応援したくなることだろう。
脇を固めるキャスト陣
ジョンの同期若手新米警察官に、アジア系女性警官ルーシー(メリッサ・オニール)とアフリカ系男性警官ジャクソン(タイタス・メイキン・Jr)の二人がいる。新米警察官3名は、全員人種の異なるキャスティングで、なおかつそれぞれの先輩警察官も全員異性のパートナーを配置され、人種や性別の組み合わせもダイバーシティに富んでいる。ルーシーは、同期の中でもすば抜けて優秀で勇敢、先輩パートナーの厳しいテストにも立ち向かう一見非の打ち所のないルーキーだが、プライベートでは育った環境に秘密を抱えており、女性としての幸せとキャリアで悩むことも。演じるメリッサは、オーディション番組『カナディアン・アイドル』シーズン3で見事優勝した歌唱力抜群の中国系カナダ人。最近では俳優としても活躍し、『iゾンビ』やカナダ製作のSFドラマ『Dark Matter(原題)』に主演するなど目覚ましい躍進ぶり。力強くアクションをこなし、歌手が本業とはとても思えない体当たりの演技を披露している注目の俳優だ。
また『グレイズ・アナトミー』『クローザー』などゲスト出演が多かったもう一人のジョンの同期、ジャクソンを演じるタイタスも、本作で注目され始めたまさに"ルーキー"俳優だ。父をLAPDの上役に持つジャクソンは、当然周囲からの期待値も高く本人も自分が優秀だと自負している。だが現場に出た途端その自信はガラガラと音を立てて崩れてしまい、初日から怖気付いてしまうという非常に人間らしいもろさを持った役どころだ。年齢も人種も性別も違う新米警察官たちが、仲間と先輩、そして時には助けた一般人からも支えられながら成長していく様に、観ていて胸が熱くなることも多々あるだろう。
ストーリー構成としては、毎回3組のルーキーたちが通報などでそれぞれの現場に向かうため、三つの事件が並行して展開する。それぞれの事件が交差していくため、スピード感満載で、これぞ犯罪ドラマ! という醍醐味が味わえる。さらに、これまであまり細かく描かれたことがないような、パトロール前の準備、逮捕して連行、パトカーから署内に護送した後の手順、書類の手続きなど、犯人逮捕で終わりがちな犯罪ドラマの見えない業務、「そういうこともするのか」と思える部分が丁寧に描かれており興味深い。
画期的な撮影手法
撮影スタイルにも注目してもらいたい。通常のドラマ撮影カメラとは別に、それぞれの警察官が胸につけているボディカメラのおかげで、作品に真新しさと躍動感が溢れ出ている。犯罪ドラマといえばFBI、CIA捜査官や刑事モノが多いが、警察官である本作のキャラクターたちは、制服着用と共にボディカメラを装着。実際にアメリカでは、警察官の武力行使や差別的な取り締まりを監視するため、また警察官自身の身を守るためにボディカメラが使用されている。そのおかげで、事件発生時にどのような対応をしたかが、ドライブレコーダーと同様に証拠となるのだ。逃走する犯人を追い詰める際の撮影は、通常のカメラ撮影と並行して、各警察官のボディカメラでの映像が組み合わさり、まるでVR(仮想現実)やゲームの世界のように、自分自身が犯人を追い詰めて走っている気分になりドキドキする。
3人の新米警察官が先輩たちに揉まれながら、失敗し、学び、励まし合い、感謝され正義を全うする王道ストーリーに、手に汗握るボディカメラワークで犯人追跡を体感できる本作。それに加えて、ベテラン俳優ネイサン・フィリオンの愛らしい大人の魅力が詰まった、ちょっとコミカルで心温まる新作犯罪ドラマ『The Rookie』は、米ABCで毎週火曜日に放送中。
(文/Erina Austen)
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『The Rookie』
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