米National Geographicで1月に放送された『Valley of the Boom（原題）』は、技術革新と投機ブームに沸いた90年代のシリコンバレーを振り返るシリーズ。ドキュメンタリーに定評のあるナショナル ジオグラフィックが、ITブームに沸いたカリフォルニアの地を真実味たっぷりに、かつドラマチックに描写する。
♦︎黎明期のSNSにブラウザ... 誕生秘話の数々
90年代、数々のIT企業が生まれたシリコンバレーは、新技術発祥の地であると同時に大規模な投機の場ともなっていた。また、60年代のヒッピー文化の影響が残るこの地では、前代未聞のテックブームの影で、ドラッグや乱痴気騒ぎも。アイデアの盗用、ハッキング、政治的錯乱、フェイクニュース、そして現在も残るウェブの悪習「ポッアップ広告」など、20世紀後半のIT技術誕生の様子を全6話でありのままに伝える。
人気のブラウザ「Firefox」の前身となった「Netscape」やSNSの誕生・普及の経緯について、Netscape社のCEOなどへの生々しいインタビューも。同社のIPO（新規上場）では初日の終値が公募価格の倍額に達し、その後の投機ブームの火付け役となった。ストーリーの主役となるのは同社に加え、SNSの草分け的存在となったtheGlobe、そして黎明期のストリーミング産業で大成功を収めたPixelonなどの企業。ドキュメンタリー・タッチの映像と再現ドラマで、現在のインターネット普及に繋がった90年代を検証する。
♦︎懐かしい90年代を軽やかなタッチで
インターネット普及前夜のストーリーを辿る楽しい作品だ、とHollywood Reporter誌は紹介。今でこそ当たり前のように使われているインターネットだが、90年代前半にはまだこれほどの普及を断言できる状況ではなかった。そんななかで事業を立ち上げ、コンセプトを投資家に説明するという挑戦は、並外れた努力を必要とする。こうした苦労にスポットライトを当てる本作は、独創的かつ、とてつもなく面白い作品だと同誌は評価している。
90年代の技術革新を素晴らしい手法で捉えた作品だ、と表現するのはLos Angeles Times紙。全6話のシリーズはどれも情報に富んだ有益なエピソードが満載で、その大部分が事実に基づいたストーリーとなっている。類似のドラマとして、皮肉な視線を交えた2014年の『Silicon Valley（原題）』などが挙げられるが、本作では史実を重視した脚本とユーモア溢れるトーンが特徴的。技術者たちが革新を求めて日々戦った、古き良き時代のハングリー精神をよく表現している。ダイヤルアップ接続、チャット、リアルタイムのビデオ送信など、ストーリーが進むにつれ「新技術」が続々誕生。古くからのインターネット利用者は、懐かしさに思わず目を細めることだろう。Los Angeles Times紙は、2016年製作のドキュメンタリードラマ『マーズ 火星移住計画』の流れを汲む良作だ、と本作の出来栄えに納得。ドキュメンタリーを得意とするナショジオ一流の良さが出た作品だ。
♦︎意外な演出でリフレッシュ
本作はドキュメンタリー調でありながら、時折挿入される意外な演出が視聴者の心を捉える。Los Angeles Times紙はパペットの登場を紹介する。ビル・ゲイツ氏のスピーチシーンに役者は一切登場せず、彼の特徴を捉えた愛らしい人形が代役を務める。他にも創作ダンスで心理描写を表現したり、いわゆる「第4の壁」を壊し、演者が視聴者に直接語りかけたりといった演出が楽しい。（第4の壁を壊すとは、三方向を囲う舞台セットに次ぐ4番目の壁である「画面」の存在を無視し、役者が視聴者に語りかけること）複雑な近代史を扱う作品だけに、こうしたユニークな演出がリフレッシュさせてくれる、と同紙は好感している。
ユニークな演出はほかにも。ドラマの最中に突然時が止まったかのように全員が静止し、一人だけが動き出してナレーションを開始。こちらは米Showtimeのコメディ『ハウス・オブ・ライズ』でもお馴染みの手法、とHollywood Reporter誌は指摘している。また、ナレーターによる解説やラップバトル形式での企業紹介なども盛り込まれており、自然とテック業界に詳しくなれる趣向が嬉しい。
凝った演出でITの敷居をぐっと下げてくれる『Valley of the Boom』を放送した米National Geographicの『マーズ 火星移住計画』は、Netflixで日本からも視聴可能。（海外ドラマNAVI）
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本シリーズに出演するブラッドリー・ウィットフォード
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