宝石店がひしめく、ロンドンのハットンガーデン地区。その一角にある銀行の貸金庫から、1400万ポンド相当の宝飾品が忽然と消失した。金庫破りの実行犯は、なんと6人の老人衆で...。英ITVで5月20日から放送された『Hatton Garden』は、近代稀に見る大胆不敵な宝石盗難事件を再現する、全4話のTVシリーズ。
不安だらけのシルバー盗賊団
老人たちがドリルを手に取ったのは、2015年4月のイースターのこと。齢76のブライアン(ケネス・クラナム『ゾンビ・アット・ホーム』)を筆頭にした6名の盗賊団は、ロンドンの宝飾街ハットンガーデン地区の銀行に向けて地下を掘り進み始めた。
そのメンバーはといえば、インスリン注射の欠かせない61歳のテリー(ティモシー・スポール『フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズ』)に、見張り役だが居眠り癖が抜けないケニー(アレックス・ノートン『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』)と、なにかにつけ不安な面々。思うように動かない体、糖尿、不眠、肺疾患など、病魔と闘う犯行チームが高セキュリティの貸金庫破りに挑む。
いざミッションの実行に取りかかると、加齢による頑固な気質が障害に。ことがスムーズに運んでいるうちはまだ良かったが、ひとたび暗雲が立ち込めると、途端に険悪なムードになってしまう。「テリー、お前の体じゃもう無理だ」とブライアンは吐き捨てるが、そう言う彼の体力も相当怪しいもの。警備システムに詳しい若手のバジル(ブライアン・F・オバーン『ブラザーフッド』)が介入し、両者はやっと矛を収めるという有様だ。高齢盗賊団の一挙一動に肝を冷やす、変わり種のクライムシリーズ。
ゆっくり、のんびり、金庫破り
金庫破りに挑む6人は、完全にシルバーの集団。これから一仕事だというのにブライアンはゆっくりとかがみ、息を弾ませながらやっとのことで靴紐を結ぶ。このシーンが流れている間に、お湯を沸かして豆を挽き、コーヒーを淹れることすらできるかも、とGuardian紙はユーモアたっぷりに紹介。次からはマジックテープの靴をオススメしますよ、と老体の窃盗団リーダーをからかう。
金庫の近くにトイレがあったのはラッキーだったね、とはIndependent紙のコメント。そうでなければオムツが必要だったかもしれないと記事は述べている。一夜にして19億円分の宝石類が消えた大事件だが、『オーシャンズ11』というよりはさしずめ"オーシャンズ・オーバー60"といったところ。ドリルで掘り進むうちに目的を忘れなかっただけでも奇跡、と同紙は述べている。
されどスリルは一級品
鮮やかな手口は一切登場しない本シリーズだが、不思議なことに全話が緊張感で満たされている。大々的に報じられた実際の事件に基づいたストーリーであるため、結末はイギリスの多くの視聴者がすでに知るところ。しかしGuardian紙は、ラストを知っていても観続ける価値があると評価している。魅力的な脚本と老齢の窃盗団を茶化したコメディ要素が、フレッシュなストーリーを届けてくれる。
緊張感が実に見事に持続しているドラマだ、とIndependent紙も興奮の視聴体験を高く評価。こちらも同様に、結末を知ってなお楽しむことができると絶賛している。セキュリティに見つかりそうになり屋根の上に逃亡するシーンなど、クライムアクションには定番の一幕も焦燥感を一段と加速する。
風変わりな盗賊団を主役に据えた傑作ドラマ『Hatton Garden』は、英ITVで5月下旬に放送された。日本での放送は現在未定。(海外ドラマNAVI)
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ケネス・クラナム
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