冷戦時のスパイ活動に、補聴器技師が巻き込まれ...英BBC『Summer of Rockets』

時は1958年。イギリスのチャーチル元首相を担当する補聴器技師は、事業が傾いたことから社交界での顧客開拓を急いでいた。そんな彼の元にスパイ活動への協力要請が舞い込み、金に窮した技師の心は揺れる。監督の実の父親のストーリーを基にした『Summer of Rockets(原題)』が、英BBC Twoで5月下旬から放送中だ。

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絶好の社交イベントで忍び寄る黒い影

上質なスーツでおしゃれを決め込み、サミュエル(トビー・スティーヴンス)はイングランド南部へ。向かうはグッドウッドで開催されるモーターレース。オーダーメイドの補聴器を販売する彼は、チャーチル元首相を顧客に持つ。こうした縁で、王室専用の観覧席に招かれたのだ。

王室関係者のなかで孤立するサミュエルだが、ふと目を離した隙にまだ幼い息子のサシャ(トビー・ウルフ)を見失ってしまう。高貴な女性のキャサリン(キーリー・ホーズ)が発見してくれたことから、彼女の夫で下院議員のリチャード(ライナス・ローチ)とも顔見知りに。災い転じて上流階級とのネットワーク作りに成功し、サミュエルはすっかりご満悦。

万事順調に思えたが、同行していた同僚のコートニー(ゲイリー・ビードル)とサミュエルは、会場で何者かに跡をつけられていると直感する。帰りにサミュエルたちはひと気のない道で停車し、相手の正体を確かめることに。車からはスーツに身を包んだ4人の男が姿を現し、大規模なスパイ活動に協力するようサミュエルに打診する。

上流社会の仄暗い秘密

監督・脚本を担うのは英国出身のスティーヴン・ポリアコフ。上流階級が隠すダークな秘密を垣間見たいなら、ポリアコフ作品はまさに打ってつけだ、と英Telegraph紙。スパイ活動を扱ったTVドラマ『Close to the Enemy(原題)』など、過去作品でも同様のモチーフを取り入れてきた。実は本作は、ポリアコフ監督の父親の体験をベースにしたもの。チャーチル元英首相の補聴器を通じて盗聴を行い、ソ連に情報を流したとの嫌疑をかけられた父の、数奇な実体験が基になっている。

本作では、サミュエルが巻き込まれるスパイ活動がストーリー上の大きなポイントに。レース会場で不気味な男の偵察を受ける、と英Guardian紙はあらすじの一部を紹介する。周囲をうろつく怪しい影に勘づいたサミュエルは、自身の発明品を狙うライバルたちではないかと一旦は考える。発明好きのサミュエルは、ポケベルのような通信装置を完成させていたのだ。しかし、どうやら民間レベルの産業スパイといった生易しい相手ではない模様。一介の事業家に過ぎなかったサミュエルが、国家レベルの諜報活動に巻き込まれてゆく。

縁遠い世界を心地良く

こうした引き込まれるようなストーリーに加え、人間味豊かな登場人物たちが作品をいっそう盛り上げている。前述のように実父の人生をベースとしているからこそ、人物に血と肉が通っているのだろう。通常のポリアコフ作品であれば、キャラクターは気取った口調で喋り、寒々しく不安げなムードを醸し出す、とGuardian紙は指摘。しかし本作の主人公・サミュエルはより人間味があり、観る側としては興味を持ちやすい人物になっている。作中ではずうずうしく成り上がっていく彼だが、それでもやはり親しみを持つことができる。

さらにはサミュエルだけでなく、多くの劇中人物たちが親近感を演出。高貴な社会を舞台にしたストーリーだが、キャストたちの努力によって現実味を感じるドラマになっている、とTelegraph紙は高く評価する。

社交界の新入りサミュエルが国家間のスパイ活動に巻き込まれる『Summer of Rockets』は、英BBC Twoで放送中。(海外ドラマNAVI)

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トビー・スティーヴンス© Eugene Powers / Shutterstock.com