「セントラルパーク・ファイブ」と呼ばれた若者5人の事件についてご存知だろうか。アメリカでもっとも知られた冤罪事件のうちのひとつだ。事件が起こったのは1989年春。約30年経ったいま、事件の風化を防ぐために、そして当時と同じ方向に進もうとする国を憂うかのように、ドラマ『ボクらを見る目』がNetflixで配信開始となった。
胸に突き刺さるような全4話のこのミニシリーズは、冤罪のために翻弄された5人の若者とその家族を切々と描くとともに、政治と世論に突き上げられて飽和状態となっている警察内部の視点を組み入れた秀作だ。監督は、キング牧師の「血の日曜日事件」を描いた2014年全米公開映画『グローリー/明日への行進』のエヴァ・デュヴァネイ。
かき消された無実を訴える少年たちの声
1989年4月のある早朝、マンハッタン区にあるセントラルパークで白人女性が瀕死の状態で見つかった。女性は強姦されていただけでなく、頭蓋骨を割られ、体内の血液がほとんど流れ出た状態だった。奇跡的に助かった女性だが、体には障害が残り、事件当日のことは記憶から抜け落ちていた。
あまりに酷い被害者の状態にNY市内だけでなく、アメリカ中で犯人の逮捕を望む世論が高まるなか、警察が逮捕したのはハーレムに住む黒人とラティーノの少年5人だった。14歳から16歳の少年たちは、ティーンエイジャーにありがちな悪さはしたが、強姦・殺人未遂については無罪を主張。5人の少年たちを犯人として逮捕しなければ面目が立たない政治的なプレッシャーを感じていた警察上層部は、あの手この手で少年たちに自白を強要する。
事件の経過ではなく心の機微を映し出す
本来あってはならない冤罪だが、現実にはこれまでに幾度となく起きており、日本でも冤罪だと証明された事件、そして疑惑のあるなかで死刑が執行されてしまった事件がいくつかある。『ボクらを見る目』で取り上げられている事件も、真犯人が自供するという形で冤罪であったことが証明された事件だが、ドラマはもっと深い感情を描き出している。
米Los Angeles Times紙は「正義と人種についての物語であるのと同時に、親と子についての物語でもある」とレビューを掲載。そして、「それは現代にも通じる」と書いている。子を信じて守ろうとする親と、親を思い続ける子どもの心の絆を、メインキャスト5人をはじめとする俳優たちが力強く演じ、視聴者の心を惹きつける。
英Telegraph紙も同じく、少年たちが経験した身体的、感情的な事実が監督のデュヴァネイによって敬意を持って描き出されており、その「重みにぐっとくる」と表する。心に語りかけるようなこのシリーズに感情移入を余儀なくされ、「彼らの無罪が証明されたときには歓声をあげたくなる」と続けるが、無罪が証明されるのは2002年。当時16歳だったことで成人の刑務所に送られた一人は服役中だったものの、少年鑑別所に入った4人は刑期を終えてすでに出所していた。同紙は「(刑務所の中で)成長して大人になった彼らが子どもの頃の部屋に戻ってくるシーンで(無罪を勝ち取った)その勝利は無意味なものとなる」とレビューを締めくくる。人種差別が奪った彼らの時間は戻ってこないのだ。先入観で判断することの恐ろしさを再確認させられる場面だ。
また、劇中でドナルド・トランプ氏による「NYに死刑を復活させよ」という新聞の全面広告が出てくるが、これは実際に出されている。前述の2紙も敏感にこの事実についてレビューのなかで触れている。カリフォルニア生まれのデュヴァネイ監督は、いまアメリカ全土で起こっている人種問題に対しての危機感をドラマを通して訴えかけているようだ。
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Photo:
Netflixオリジナルシリーズ『ボクらを見る目』
© Atsushi Nishijima/Netflix