ギャングに命を狙われた警官がすがったのは、最悪の相手だった――。LAの裏社会を描くAmazon Prime Originalの新作『トゥー・オールド・トゥー・ダイ・ヤング』は、独特なセンスで知られるデンマークの鬼才ニコラス・ウィンディング・レフンが企画・製作総指揮・監督・共同脚本を手掛けている。6月中旬から全10話が独占配信中だ。
殺される寸前のLA警官がすがる、最悪の取引相手
ロサンゼルスで警察官として勤務するマーティン(『セッション』のマイルズ・テラー)は、相棒のラリー(『STAR 夢の代償』のランス・グロス)とともに夜のパトロールへ。決して実直な警官コンビとは言えない二人だが、特にラリーは悪質。信号無視で呼び止めた女性を脅し、性的な目的で家までついて行くと圧力をかけた上、まんまと賄賂をせしめる。しかし、その夜のうちに天の報いが。ギャングに撃たれ、ラリーは路上であっけなく死んでしまう。
その様子をパトカーの脇で目撃したマーティンは恐怖に襲われる。彼はかつてラリーと組み、ギャング組織のボスの姉妹を殺していた。今夜ラリーを襲撃したのは、その女の息子。敵討ちだと悟ったマーティンは、次は自分が殺られるのだと確信する。庇護を求めてナイジェリア系ギャングのボスであるダミアン(『ザ・ウィドウ ~真実を求めて~』のバブス・オルサンモクン)の元へと駆け込むが、身を守る代償として組織の殺し屋役を押し付けられる羽目に。背に腹は変えられず、淀んだ地下世界へと徐々に引きずり込まれてゆく。
映画で培ったスタイル、ドラマにぶつける
『プッシャー』『ブロンソン』『ドライヴ』といった暴力と裏社会の色濃い作品を送り出してきたレフンは、10話すべてでメガホンを取った本作でも独特のセンスを発揮。普通、映画作品であれば監督の個性が強く出るとしても、広く家庭で視聴されるドラマの場合はその個性(アク)を取り除いて製作するのが普通だ。しかし、最近はストリーミングという形態が広まってきたことから、スポンサーに捉われない、ある程度製作者の個性が出るシリーズが増加。そんな中でも本作は他作品を上回る独自性と奇抜さを誇る作品だ、と英Guardian紙は紹介している。過去に監督が手掛けた映画の特性を引き継ぎ、独特な審美眼とゆっくりとしたペースを取り込んだ、スタイリッシュなドラマだ。
無法者たちの世界を舞台とした残酷なストーリーであるものの、それでも小粋なクライム・スリラーになっていると英Economist誌は評価している。スリラーでありながら雰囲気をじっくりと味わうという、従来のドラマにはなかったようなタイプの作品だ。
怠惰な展開?大胆な挑戦?二分する評価
ほかにはないオリジナルのセンスでLAの裏社会を描く本作。その宿命だろうか、視聴したファンと批評家からの評価は二分するだろう、とGuardian紙は述べている。第1話は93分と映画並みの長さだが、最後まで観続ける視聴者は多くないかもしれない、と同紙。夜の街角で雰囲気たっぷりに繰り広げられる会話シーンなどに時間を費やしており、動きのあるシーンが少ないことが一つの特徴だ。
全10話、計13時間に及ぶことから、常時スローな展開はさすがに行き過ぎだとEconomist誌も捉えたようだ。たっぷり尺を取ったシーンは贅沢だが、あまりに長く続くため、再生したままキッチンにお茶を淹れに行きたくなると表し、映画のように2時間程度の長さなら良かったと述べている。その一方で、血なまぐさい世界をゆっくりしたテンポで描く試みは大胆な決断で、一つの挑戦だと評価してもいる。映画作りで独自のスタイルを培ってきたレフンだが、その手法がストリーミングファンに受け入れられるか否かで評判は変わってくるだろう。
味わい深い空気感に満ちた『トゥー・オールド・トゥー・ダイ・ヤング』は、Amazon Prime Videoで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:
Amazon Prime Original『トゥー・オールド・トゥー・ダイ・ヤング』