少年誘拐殺人、そして報復...実際に起きた悲劇をリアルに描く『Our Boys』

2014年にイスラエルで起きた、3人のユダヤ人少年の誘拐事件。続いて報復のように行われたパレスチナ人少年の誘拐事件を経て、民族間の対立はガザ侵攻へと発展した。米HBOで8月中旬から放送中のクライムドラマ『Our Boys(原題)』は、時にドキュメンタリーかと錯覚するようなリアリティあふれるタッチで二つの誘拐事件を描写。実際に起きたこれらの事件を題材に、複雑な民族感情の高まりを表現する。

無垢な少年たちの犠牲

2014年6月、ヒッチハイクで家へ帰ろうとしたユダヤ人の少年3人が何者かに誘拐された。事件はイスラエルのユダヤ人たちの大きな関心事となり、人々は少年たちの無事を祈り続ける。事態を重く見たイスラエル総保安庁のサイモンは、解決のため特捜チームを指揮。最悪の事態の回避に動くが、健闘虚しく少年たちは遺体で発見される。

無念さに民族感情は高まり、報復を求める大規模なデモが勃発。結果、それから間もなくパレスチナ人のムハンマド少年が敵討ちの標的となり誘拐されてしまう。やがてサイモンたちは、拷問を受けた上に焼かれたムハンマド少年の無残な遺体を発見する。報復殺人はハマス側のさらなる怒りを招き、ロケット攻撃へと発展。のちにガザ侵攻と呼ばれることになる2014年の大規模な紛争につながってゆく。

類まれなる緊迫感

全10話のシリーズで漂うのは、絶え間ないスリルだ。冒頭からして、類まれなる緊迫感が緩むことがないのは明らかだ、と米Wall Street Journal紙は表現する。事件後は正義をめぐる議論が現地でにわかに活発となり、イスラエル社会は怒りに包まれる。数万人には上ろうかという人々が怒号を上げるデモ行進のシーンは圧巻だ。歴史的事象を扱った複雑かつ濃密な本作を、同紙はストーリーテリングの奇跡だと称えている。

製作は米HBOとイスラエルの会社Keshetが共同で行い、実際にイスラエルで撮影を敢行。さらにクリエイターをイスラエル出身であるハガイ・レヴィ(『アフェア 情事の行方』)とパレスチナ人がともに担当するなど、リアリティを保ちつつ人種のバランスを取ることも意識している。手持ちカメラのブレをそのまま残したリアルな映像スタイルと、現実味を帯びた自然なトーンの会話が本作の特色だ。折に触れて挿入される実際の資料映像も相まって、犯罪ドラマというよりはドキュメンタリーのような臨場感だと米Hollywood Reporter誌は指摘する。

感情豊かなキャラクターたち

文句なしのリアリティもさることながら、ドラマとしての興味深い人間像も見逃せない。主人公のサイモンは職務に忠実なあまり、冷血漢と誤解されてしまうこともしばしば。物語を引っ張る存在でありながら、厳粛さも持ち合わせている、とWall Street Journal紙は紹介している。3人の少年の両親とイスラエル社会が少年たちの無事を祈り続ける中で無残な真相を知ってしまったサイモンは、彼らの望みを断つような発言を強いられることに。そこで人間らしい感情はないのかと同僚から罵られてしまうくだりは何とも歯がゆい。

サイモン以外にも心に訴えるキャラクターが豊富だ。ユダヤ系学校への進学を両親に強制されているアヴィシャイ青年は、自分の選択に心を痛め続ける。惨殺されたムハンマド少年の父フセインに至っては、失踪直前の息子と口論をしてしまった後悔に苦しみ続けている。そんなフセインについてHollywood Reporter誌は、主人公サイモンが作品の頭脳だとすればフセインは魂だと述べ、心に訴えるその演技を高く評価している。

少年たちの事件に民族感情のうねりが高まる『Our Boys』は、米HBOで放送中だ。(海外ドラマNAVI)

Photo:『Our Boys』(HBO公式Instagram)