2017年に彗星のごとく登場し、各メディアで2019年ベストドラマに選出された『Fleabag フリーバッグ』以降、ドラマファンの間で瞬く間に話題となったフィービー・ウォーラー=ブリッジ。女優のみならずクリエイターとしても才気みなぎる彼女は、2018年に話題をさらった『キリング・イヴ/Killing Eve』でショーランナー兼製作総指揮を務めている。
同年公開の『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』ではドロイドという役どころでファンの意表を突いたほか、今後製作が進む『007』シリーズ最新作『No Time to Die(原題)』の共同脚本にも起用されている。そんな彼女の代表作『フリーバッグ』を振り返ったうえで、その源流ともいうべきコメディ『クラッシング』を紹介したい。
虚勢と哀愁のコメディ『Fleabag フリーバッグ』
フィービーを一躍有名にした作品は、シニカルな会話劇が不思議な魅力を生み出すコメディ・ドラマ『Fleabag フリーバッグ』だ。もちろん主演女優であるほか、製作から脚本までを幅広くこなしている。昨年登場した待望のシーズン2では、彼女が演じる主人公・フリーバッグの型破りな行動に、一段と磨きが。それを取り巻く奇妙な親戚の面々もパワーアップしている。
シーズン2冒頭で、父親の再婚を祝うディナーに駆けつけたフリーバッグ。しかし父のお相手は、昨シーズンのフィナーレで「性の美しさ」を訴える展覧会を開催した、クセが強すぎるあの女性。ディナーのテーブルを挟んで奇妙な会話と沈黙が交互に訪れ、同席した姉との水面下のバトルが気まずいムードに拍車をかける。最低な誕生日プレゼントを贈る父に、今回の婚儀を取り持つ立場でありながらフリーバッグに惚れてしまったイケメン司祭、そしてサービス精神満点だが絶妙に空気を読まないウエイトレスと、強烈なキャラクターのオンパレードだ。だれもが会話のペースを掴みかねているなか、姉の身にショッキングな出来事が降りかかり...。
シーズン2でも、フィービーがカメラ越しに視聴者に語りかける「第四の壁を破る」演出は健在。第1話の会話では、日本の視聴者へのちょっとした目配せにも気づくことだろう。センシティブなトピックを話の肴に盛り上がる一同を観ていると、笑い、同情、困惑といった感情が一度に押し寄せる。反応に困りつつも釘づけになってしまうような、独特の魅力を放つ作品だ。Amazon Prime Videoで配信されている。
フィービー・ワールドの源流を感じる『クラッシング』
Netflixで公開中のコメディ・ドラマ『クラッシング』もまた、フィービー・ワールド全開の秀作だ。『フリーバッグ』の不思議な空気感に引き込まれた人ならば、きっとこちらも気に入るだろう。2016年公開のこちらでも脚本・主演を務め、いわば『フリーバッグ』の源流といえるかもしれない。
フィービー演じる物語の主人公・ルルは、ルームメイトに家を追い出され、遠路はるばる幼馴染みのアンソニーを訪問。彼のもとで居候を企んでいたようだが、住所を追ってたどり着いた先は、まさかの廃病院。お金のないアンソニーは廃墟同然の建物に住み着き、貧乏でユニークな仲間たちと共同生活を送っていたのだ。
到着するや否や、開かれていたパーティー兼宝探しのイベントに急きょ巻き込まれることになったルル。成り行きでアンソニーの部屋に招かれると、失われた年月を慈しむかのように二人きりの時間を過ごす。しかし互いへの感情を素直に認められず、もどかしいすれ違いが続くなか、アンソニーに好意を寄せる同居人のケイトが乱入し...。常識破りのキャラクターたちが織りなす皮肉と哀愁のヒューマン・コメディだ。
『フリーバッグ』で花開いたフィービーだが、『クラッシング』はまだチェックしていないという方もいたのではないだろうか。『007』シリーズ起用でクリエイターとしてもますます注目度が高まるフィービーの今後に期待したい。(海外ドラマNAVI)
Photo:フィービー・ウォーラー=ブリッジ©DFree / shutterstock.com/ 『Fleabag フリーバッグ』© 2016 Amazon Studios/ 『クラッシング』© 2016 Channel 4/ 『Close Up With The Hollywood Reporter』© David Needleman/SundanceTV