『クリマイ』×『ハンニバル』×家族ドラマ!?残忍な犯罪を描く新作『Prodigal Son』の魅力

毎年、数多くの新作ドラマが生まれるアメリカにおいて2019年シーズンの注目作と言えるのが、米FOXで同年9月からスタートした犯罪捜査ドラマ『Prodigal Son(原題)』。第1話の視聴者数が18~49歳の層で新作ドラマとしてナンバー1を記録し、最初の2話放送時点で早くもフルシーズン製作が決まった作品だ。

ハンニバル・レクターの再来

物語の主人公は、プロファイリング能力を生かしてNY市警のコンサルタントを務めるマルコム。優れた分析力を持ちながらも時折精神が不安定になり、以前はFBI捜査官だったがクビになってしまった彼は、父親が"外科医"と呼ばれた連続殺人鬼のマーティン・ウィットリーだった。自身が幼い頃に逮捕された父親とは長年疎遠だったが、彼の犯罪を模した猟奇事件が起きたことから、父親に話を聞きに行くことになる...。これだけ聞くと、アカデミー賞主要5部門に輝いた1991年の映画『羊たちの沈黙』を連想する人もいるだろう。

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『羊たちの沈黙』では、若い女性ばかりを狙った猟奇犯罪のヒントを得るため、FBIの新米捜査官クラリスが、厳重な警備の刑務所に収容されている連続殺人鬼のハンニバル・レクター博士に話を聞きに行く。天才的な頭脳から意味深な言葉を繰り出し、プロファイラー顔負けの分析力でクラリスの秘密を探りながら、情報を提供する代わりに相手に見返りを要求するレクター博士と、それになんとか対抗しながら事件の真実へ近づいていくクラリスの関係は、精神的なイタチごっこであり、一種の師弟愛とも言える、おぞましくも愛おしい奇妙な繋がりだ。

レクター博士にあたる本作のマーティン・ウィットリーは、まだ若くてチャーミングなだけに、ある意味でレクター博士よりも始末が悪い。穏やかで機知に富んだ口調で真実を捻じ曲げ、レクターにとってのクラリスよりも結びつきの強い相手、息子のマルコムをダークな世界へと誘い込もうとする手腕はまさに悪魔的だ。余談ながら、それで思い出すのは、ザック・エフロンが実在の連続殺人犯を演じた映画『テッド・バンディ』だ。バンディも異常なまでに頭が良くハンサムで、非常にチャーミングだった。

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この"クラリス"は弟子でなく実子!

そんなタチの悪いマーティンの血が自分にも流れていることから、切っても切れない関係にあるマルコム。しかも選んだ仕事はよりによって連続殺人・猟奇殺人を専門にしたプロファイラー。幸か不幸か殺人鬼のことが本能的に理解できるため仕事では結果を出すが、ショックの影響で幼少期の記憶が不鮮明なことから、不眠症やパニックに日々苦しめられている。また、マルコムにとって悩みの種である家族は父親だけではなく、支配欲が強く異常に過保護な母親ジェシカも彼にとって負の要素となっている。

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精神的に悪影響でしかないのにシリアルキラーについて考えずにはいられないマルコム。元凶である父親にも、現在調べている事件のヒントを得るためという名目で会いに行ってしまう。まるで麻薬患者のように悪いと分かっていても手を出してしまうマルコムと、そんな息子を取り込もうとするマーティン。二人の関係は、同じくレクター博士が登場するサスペンスドラマ『ハンニバル』も彷彿とさせる。特に父をはじめとした殺人者のことが本能的に理解できるマルコムは、犯人や犯罪に共感できるウィル・グレアムと重なるものがあるだろう。また、彼がプロファイリングを生かしてNY市警の刑事たちとともに毎回残忍な事件の数々、死後に脳が取り除かれた死体、家族ばかりを狙った連続毒殺事件、100回以上刺されて死んだ男などの謎を解決していく様は『クリミナル・マインド』のようでもある。

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また、ウィットリー家で起きていることは異常だが、マルコムと両親の関係はファミリーであれば多かれ少なかれあるであろう家族の確執をモチーフにしているように思える。我々にも覚えがあるような、時に不健康な精神的駆け引きが、極端な状況の中にうまく盛り込まれているのは興味深い。

元祖から続く英国の系譜

キャストもただものではない。連続殺人鬼のマーティン・ウィットリーを演じるのは、2006年の映画『クィーン』などで3度英国アカデミー賞(BAFTA)候補になり、近年ではAmazonオリジナルドラマ『グッド・オーメンズ』や米Showtimeの伝記ドラマ『マスターズ・オブ・セックス』で活躍する英国男優マイケル・シーン。『羊たちの沈黙』などでレクター博士を演じた英国俳優アンソニー・ホプキンスに通じる、チャーミングながらもどことなく不気味な悪役を好演している。

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その息子マルコムを演じるのは、こちらも英国俳優のトム・ペイン。ドラマファンには大ヒットドラマ『ウォーキング・デッド』のポール・"ジーザス"・ロビア役でおなじみだろう。

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脇を固める顔ぶれも手堅い。マーティンの妻でありマルコムの母であるジェシカ・ウィットリーを演じるのは、人気ドラマ『スキャンダル 託された秘密』でのメリー・グラント役で知られるベラミー・ヤング。ファーストレディから大統領となるメリー役に続き、今回もベラミーの十八番である、他人を操るのは朝飯前という何とも信用できないパワフルな女性に扮している。また、マルコムの妹エインズリー役はハルストン・セイジ。SFドラマ『宇宙探査艦オーヴィル』やマーベル映画『X-MEN:ダーク・フェニックス』にも出演する26歳の注目株だ。

そして、ここしばらくいい役に恵まれていなかったものの、本作での番組を束ねる役回りでいい味を出してカムバックを果たしたのがルー・ダイアモンド・フィリップス(『ヤングガン』『NUMB3RS ナンバーズ ~天才数学者の事件ファイル』)。彼が演じるのは、マルコムが唯一信用する刑事ギルで、マーティンを逮捕した当時まだ幼かったマルコムのことを気にかけ、大人になってからも八方塞がりの人生を送る彼にコンサルタントの職を勧めた恩人とも言える役どころ。いいドラマにはいい脇役が欠かせない。これもヒットの法則だ。

聖書の逸話と関係あり?

保守的な米国のネットワークでは、お茶の間に不快なものを見せてはならない、という暗黙の了解があった。しかしストリーミング配信サービスの台頭により、従来のやり方では太刀打ちできなくなってきた中、本作はこれまでの常識を打ち破っている。第1話でなんと主人公がオノである人間の手首を切り落としたり、残忍な犯罪現場や死体が映し出されるなど、ネットワークらしからぬ過激な描写を含んでいることは視聴者にとって新鮮だったに違いない。

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そんな本作が日本上陸を果たした場合、邦題はどうなるのだろう? 原題の「Prodigal Son」という言葉を検索すると、新約聖書の「放蕩息子のはなし」にたどり着く。その話では、父親に背いて出て行った息子が家族の財を使い果たした挙句、悔いて父親の元へ戻ってくる。本人もその兄も父親は許すまいと思っていたが、実際は父親は愛情深く放蕩息子を出迎えた、というストーリーで、親子の絆は深く、許しの心は偉大であることを示している。米国ではよく冗談っぽく使われるイディオムだが、これが本作においてどんな意味を持つのだろうか。

プロファイリングを生かした一話完結型の犯罪捜査ドラマと、殺人と嘘と秘密にまみれた一家をめぐるファミリードラマが両方楽しめる『Prodigal Son』は、米FOXで毎週月曜に放送中。日本でお披露目されるのもそう遠くないかもしれない。

Photo:

『Prodigal Son』
『羊たちの沈黙』
(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『テッド・バンディ』
©2018 Wicked Nevada,LLC
『ハンニバル』
© 2014 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
『クリミナル・マインド』
(c) ABC Studios