悩み多き殺し屋の"人間臭さ"がクセになる『セニョール・アヴィラ』

今月のHulu プレミアでは、『エンジェルズ・シークレット』『JAILERS/ジェイラーズ』『ザ・ビジネス/コールガールのマーケティング戦略』に続くラテンアメリカ作品第4弾となるサスペンスドラマ『セニョール・アヴィラ』シーズン1が、6月29日(月)よりいよいよ配信開始となる。『ゲーム・オブ・スローンズ』『ウエストワールド』などの HBOグループが制作し、2017 年には国際エミー賞(非英語米国プライムタイム番組部門)を受賞。ごく普通のサラリーマンを装いながら、犯罪組織に雇われた"冷酷な殺し屋"という別の顔を併せ持つ男・アヴィラの緊迫した二重生活を活写する。

表の顔、裏の顔という設定は、映画やドラマの世界ではよくあるパターン。だが、この作品はキャラクターも物語も、かつて観たことがないほど人間臭く、全てが危なっかしくて、常にハラハラ、ドキドキ。もちろん、ヴァイオレンスやエロティックなシーンは、HBOだけに容赦ない攻めの描写が炸裂するが、それにも増して問題山積みの人間関係が、主人公のアヴィラを追い込み、苦悩させる。そのアヴィラを演じるのは、『ベター・コール・ソウル』などに出演する実力派俳優トニー・ダルトン。"サエないサラリーマン"というよりも、やる気のない、あるは真面目に働く人を若干小馬鹿にしているちょい悪オヤジ(本当は極悪オヤジだが)。

そもそも必殺シリーズの如く、自警団的な正義を行使しているわけではなく、本質的に「殺し屋になりたい!」と思って組織の門を叩いている(と筆者には見えた)ので、カムフラージュのために築いた"良き家庭人"キャラは、どこかチャランポランで欠陥だらけなのだ。

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例えば、会社での勤務態度は超適当、女性社員と社内で不倫し、家族で交わす会話もどこかホラーチックでゾクっと怖い。息子は息子で素行が悪く学校を転々とし、妻は妻で躁鬱が激しく精神的に不安定。さらには殺し屋仲間がルール違反を犯してしまい、なかなか自分の"ピュア"な殺し屋稼業に専念できないという有様。だが、まさにこの"カオス状態"こそが、本作の見どころであり真骨頂。やがて組織のボスの座を引き継ぐアヴィラが、これだけの"お荷物"を抱えて、いったいどんな二重生活を送っていくのか、今から楽しみで仕方がない。

メキシコ発のサスペンスドラマ『セニョール・アヴィラ』(全13話)は、6月29日(月)よりHuluにて独占配信スタート。以降、毎週月曜日に1話ずつ更新予定。

(文/坂田正樹)

Photo:『セニョール・アヴィラ』(c)HBO OLE PARTNERS