ある日、盲目の少女が留守番中に強盗に入られ絶体絶命!果たして彼女の運命は…? こんな風にざっくり書くと鑑賞前から映画が透けて見えそうだが、ちょっと待った! 映画『シーフォーミー』は、この鉄板スタイルの中にFPS(操作者視点の3次元シューティングゲーム)などの最新テクノロジーと、人間と人間のアナログな助け合い精神が巧みに組み込まれ、観客を新たなスリラー体験へといざなってくれる。【映画レビュー】
『シーフォーミー』あらすじ
雪深い人里離れた地に建つ大豪邸。視覚に障がいのある少女ソフィ(スカイラー・ダベンポート)は、キャットシッターのアルバイトで、数日間、一人でここに滞在することになる。ところが夜も更けた頃、謎の強盗団が屋敷内に侵入。殺しも厭わない彼らに存在を気づかれたソフィは、視覚障がい者のサポートアプリ“シーフォーミー”に協力を仰ぎ、有能なオペレーター、ケリー(ジェシカ・パーカー・ケネディ『THE FLASH/フラッシュ』)とともに、見えない敵に立ち向かう。
主人公ソフィは、なかなかの荒くれ?者。もともとはダウンヒルスキーヤーのオリンピック候補選手だったが、視力を失い、夢半ばで挫折したことが性格の捻じれに大きく起因している。スポーツで頂点を極めようというだけあって負けん気が強く、「人の手を借りたくない」「同情なんてされてたまるか」と、プラス思考がマイナスに働き、事あるごとに悪態をつくありさま。そんな状態だから、パートナーを見つけてパラリンピックにシフトするなんて、彼女のプライドが許さない。
ところが、そこに謎の強盗団が押し入ってきてから状況は一変する。
とにかく弱みを見せたくないソフィは、1度は警察に助けを求めようとするが、よせばいいのに強盗団の黒幕と、「私は“目撃者”にはなれない、だから分け前をくれれば黙っている」と強気に交渉。だがそんな話、うまく進むわけもなく、まぁ、すったもんだした挙句、暗い屋敷を舞台に大攻防戦が勃発する。
初めて「誰か助けて!」と弱みを見せたソフィは、サポートアプリ“シーフォーミー”のケリーを頼りに応戦することになるのだが、ここからが本作の真骨頂。元軍人でFPSゲームの熟練プレーヤーの彼女は、ソフィからの情報と映像を瞬時に把握し、ビデオ通話で的確な指示を出す。
ソフィが現場でアクションを起こし、ケリーが外からパートナーとして誘導する…。まさに、パラリンピックの連携を想起させるように、次から次へと難易度の高いハードルを共闘しながら二人は越えていく。手法的なことをいえば、シューティングゲームのような主観映像がスリルを増幅させ、しかもソフィを演じているスカイラー自身が視覚障がい者であることから、その表情や行動、リアクションが超リアルで、段取りをきちんと組んだアクションシーンでは絶対に撮れない生々しさがある。
ケリーというパートナーと共に危機を乗り越えようとするソフィ。古くは『暗くなるまで待って』、最近では『ドント・ブリーズ』など視覚のない世界で攻防を繰り広げる傑作は多々あるが、本作のように犯罪とは対極にある“スポーツマンシップ”に帰結していくスリラー映画は極めて稀な気もする。
読後感でいえば、『ダイ・ハード』のマクレーン刑事とビルの外から指示を送ったパウエル警官の胸熱コンビネーションが近いだろうか? 健常者であっても、障がいを持つ人であっても、「人間は一人では生きていけない」という当たり前の教訓を、最新テクノロジーと不変的なスピリッツをかみ合わせながら昇華させた本作は、中身は苛烈でも、後味は珍しいくらい爽やかなスリラー…これだけは間違いない。
映画『シーフォーミー』は、新宿バルト9ほか全国公開中。
(文/坂田正樹)
Photo:『シーフォーミー』© 2021 SEE FOR ME FILM INC. 配給:クロックワークス