『ウルフ・ホール』マーク・ライランス(トマス・クロムウェル役)インタビュー

ブッカー賞受賞のヒラリー・マンテルによる原作を豪華キャストで完全映像化した、稀代の政治家トマス・クロムウェルの視点から描く歴史大作『ウルフ・ホール』。第67回エミー賞で8部門にノミネートされるなど高い評価を受ける本作が、AXNミステリーで1月9日(土)より放送される。そんな話題作に出演するキャストたちのインタビューを3回にわたってお届け。まず登場するのは、主人公トマス・クロムウェルを演じるマーク・ライランス。同役と、スティーヴン・スピルバーグ監督作『ブリッジ・オブ・スパイ』で第73回ゴールデン・グローブ賞2部門にもノミネートされている彼が、自身が演じるトマスの人物像や、当時と現代の類似点などについて語ってくれた。

トマス・クロムウェルは優れた記憶力に恵まれていた。(原作者の)ヒラリー・マンテルもそのことについて書いている。特殊な知能としてね。また、彼は相手の目を見ただけで、その人が真実を伝えているかどうかが判断できた。だから人の心を読むのが得意で、判断を誤ることは滅多になかったんだ。

(監督の)ピーター・コスミンスキーも言っていて、きっと彼の言い分は正しいと思うんだが、労働者階級もしくは中流階級の人間で国の仕事に就いたのはクロムウェルが初めてだったようだ。それまでは貴族階級が就いていたからね。こうして、商人の実用主義的な考え方が支配者層の世界に入ってきた。クロムウェルは他の人間とは違い、土地に縛られていなかった。周りは皆、不動産や収穫周期、雇っている農民階級などを気にかけながら生きていた。つまり古い形の統治の仕方だ。

一方で、クロムウェルのやり方はビジネスマンを集めて何かに投資し、不安やリスクの高い状況の中、必要な者を選別し、お互いを信頼し合うことで統治した。彼は権力者たちの動きをゲームとして見ていたと思うんだ。ルールに従ってプレイすることもできるし、人をルールに従わせることもできる。クロムウェルは基本的に権力者を疑っている。いわゆる異端者だね。彼のような知的な人間の目には、当時の社会は抑圧的に映ったに違いない。聖書をラテン語ではなく英語で読みたいと思っていたし、社会に決められた判断基準ではなく、本来の能力によって評価されたいと思っていた。

 

ピーターにいつも言われるんだけど、クロムウェルは人を二つのグループに分けている。人間性で評価する人のグループと、社会的地位で評価する人のグループだ。ヘンリー8世はもちろん、クロムウェルを人間性で判断している。彼の生い立ちは知っているけどね。当時の権力者としては素晴らしいことだった。人間性や能力を見て、クロムウェルに権威を与えていたんだ。でも周囲はそれに反感を抱いていた。

クロムウェルはとても人間味あふれる人物で弱みも持ち合わせている。社会との関係性の中で、我々が直面するのと同じような問題で苦しむんだ。その社会とは家族や親戚間、もしくは職場や国家かもしれない。個人的な要望、欲望、不安、憂うつな感情などが絡んでくる。

 

(枢機卿の)ウルジーとは父子のような関係だ。クロムウェルには父親がいないからね。いたけど暴力的だった。ウルジーとは正反対さ。一方でヘンリー8世は、彼にとって弟のような存在だ。そしてヘンリー8世にとって自分は彼の死んだ兄、アーサーの代わりなのだとクロムウェルは気づく。私にはそのように見えるね。つまり5歳から10歳ほど離れた兄弟なんだ。

次の展開を知らないまま、その場で演技するように心がけている。そして、どうすればクロムウェルにとって最も有益な結果が手に入るかも意識している。クロムウェルは激しい競争の中、トップに立つ人間に仕えることを選択した。だから王にとって何がベストかを常に念頭に置いているんだ。一度、それぞれのキャラクターが自身や他者について語ったことを書き出そうとしてみたんだが、あまりにも長くなってしまった。だから代わりに、雄弁な言葉を書き留めることにした。その中に、クロムウェルがヘンリー8世に仕える意義を表す美しい一節があるんだ。それを、いつでも見られるように携えている。

 

私が本作のプロデューサーだったら、ナショナルトラストから宣伝料を取っていたよ。難しい話だろうけどね。28ヵ所のナショナルトラストの建造物で撮影を行ったことは、彼らにとっていいプロモーションになったはずだ。私自身も訪れるのは子どもの時以来だったり、初めて見る建物も多かった。大聖堂や大邸宅や下層階級の家などはね。英国が誇るべき素晴らしい遺産だと思うよ。庭も美しいし、当時の生活が細部にまで表れている。劇中で我々が着ている服装の人々や、それより少し後の時代を生きた人々が、この空間に立って同じ庭を眺めていたんだ。樹木や植物は当時と違うかもしれないけど、丘などの地形は同じはずだ。だから、こうした場所で撮影することは(当時をイメージする上で)非常に助かったね。

視聴者は当時の人々に惹かれているんだ。ストーリーだけでなく、人間に惹かれている。米国では特にそのようだ。当時の王や支配者の特有の生活は裏側を知ったら、なおのこと興味をそそられる。ケネディやクリントンのようにね。オバマが考えていたこともいつか分かるだろう。女王エリザベス2世のこともいずれは分かるかもしれない。彼女は秘密主義者だからね。

 

ヘンリー8世の場合は...実は彼の物語を演じるのはこれが2回目なんだ。前の作品(映画『ブーリン家の姉妹』)ではトマス・ブーリンを演じたんだよ。この時代が魅力的なんだ。エリザベス1世が王位を継承した経緯や、英国ルネサンスがいかに開花したかが見えてくる。シェイクスピアが登場し、英語という言語が急速に発展した。フランス人やノルマン人の支配から脱し、英国人が自由を手に入れた頃だ。それまでは、法律はフランス語で、聖書はラテン語で書かれていた。欧州の文化や国に支配されていたんだ。クロムウェルやヘンリー8世が成し遂げたことは、英国人が自らの国の文化を認識する大きなきっかけとなった。そんな当時のストーリーが長年人々を魅了してきたんだ。

「ヘンリー8世」はシェイクスピアの晩年の作品でもある。当時と今を比較してみると面白いんだ。ヘンリー8世の頃のカトリック教会の影響力は、現代のWTO(世界貿易機構)や整備された世界的ビジネス組織の影響力と非常に似ている。大規模な貿易関連の合意を目指すことにより、残っているわずかな民主主義が完全に失われてしまうんだ。(大型スーパーの)テスコが村のメインストリートかその近くに出店すれば、メインストリートの他の店は衰退してしまう。規制が緩くなり、企業が政府により働きかけやすくなっているんだ。だから戦っているという意味では、当時の状況と現代は似ているね。我々は暮らす環境、文化、社会の権利をめぐって戦っているんだ。

小説による当時の時代の描き方は、演劇や映像では完璧には再現できない。でも構わない。小説では光を当てられない部分を、演劇や映像で描ける場合もあるからね。それができれば上出来だと思うよ。

 

■『ウルフ・ホール』放送情報
ミステリー専門チャンネル AXNミステリーで
2016年1月9日(土)7:00PM~ 全4話一挙放送
2016年1月28日(木)10:00PM~ レギュラー放送 毎週木曜10:00PM


Giles Keyte, Ed Miller, Simon Smith-Hutchon © Company Pictures/Playground Entertainment for BBC 2015
Giles Keyte, Ed Miller © Company Pictures/Playground Entertainment for BBC 2015