アカデミー主演女優賞にも輝いたジョディ・フォスターや80年代にブラット・パックの一員として名を馳せた男優アンドリュー・マッカーシーといった人材を迎えていることでも話題の『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(以下『OITNB』)。これまで数々のTVドラマを見てきましたが、『OITNB』ほど"ユニーク"という言葉が当てはまる番組はそうありません。刑務所内のクライム・ドラマは以前にもありましたが、収監された若い女性が主人公で、それを取り巻く女囚たちにも焦点を当て、刑務所というシステムと彼女たちにまつわる深刻な問題を提示しつつ同時にコメディの要素も十分にあるドラマ...。こんな斬新な番組はこれまでになかったと思います。
TCA(TV批評家協会)主催のプレスツアーでは、いつも番組中の囚人服姿しか見たことのなかったキャストたちが、番組クリエイターと共にドレスアップしてパネルディスカッションに登場。
今夏に新シーズン開始が予定されている『OITNB』だけに、クリエイターのジェンジ・コーハンは開口一番、「パネル対談の時にネタばれを避ける会話の秘訣を『MAD MEN マッドメン』のクリエイターだったマシュー・ワイナーに打診したんですよ」と笑いながら告白した後、「新シリーズでは(米国の)刑務所という企業化され、政策の一手段にされてしまっているシステム、そしてそこに放り込まれて地層のように積み重なっていっている人々に焦点を当てることから始めます。もちろん、皆さんが予期している人種や憎しみといった部分についても、私たちの視野を通してお伝えしていくつもりです」と、待望の第4シーズンについて語ってくれました。
また、実生活でもトランスジェンダーであり番組の女囚ソフィアを演じるラヴァーン・コックスは、「この番組がいつも繊細さを持って人種、女性、老い、ゲイといった事柄に取り組んでいる姿が本当に素晴らしいと思う」と『OITNB』を称え、「実際にたくさんのトランスジェンダー女囚は、不当に独房に入れられるという仕打ちを受けているんです。この番組が民衆に事実を届ける役割を果たして、それに皆さんが前向きな反応をしてくださることを願っています」と語りました。
ラヴァーン演じるソフィアにスポットライトがあたるシーズン1のエピソード3「同性愛お断り」では、消防士という輝かしいキャリアを持ち妻子を持つ男性だったのにも関わらず、他人のクレジットカードを使い込んでまで性転換手術に踏み切った彼女のストーリーが浮き彫りにされています。画面を通してソフィアの苦悩を感じた筆者は、世の中のトランスジェンダーの人々が経験しているであろう苦痛を思い胸が痛んだことを覚えています。
『OITNB』を見ていると、実際の刑務所があんな所ではないことを祈りたくなります。でも恐らく実際には、もっと過酷な状況の刑務所も存在しているに違いありません。一気見していると、目を背けたくなるストーリーが続いて「もう今日はこれ位で止めておこう」と思うことがあるのですが、その時にふと思うのです。「囚人たちには、『もうこれ位で止めておこう』、などと言う贅沢は許されていない」のだと。英語で刑務所は、Correctional Facility=矯正(教化)施設という呼ばれ方をよくされます。しかし、アメリカで刑務所内外を取り巻く劣悪な環境は、受刑者たちにとって、"correction"からは程遠い環境と言えるでしょう。
笑いの中にも時として見ているのが苦しくなるほど辛辣な現実が描かれている『OITNB』。そこにこの番組に対する評価の高さと視聴率の高さの由縁があるのでしょう。
(取材・文: 明美・トスト / Akemi Tosto)
Photo:『Marvel デアデビル』Neflix TCAレポート
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