全米で最も忙しい病院の救命処置室(ER)の現場を舞台にした医療ドラマ『コード・ブラック 生と死の間で』。5月13日(土)よりDlifeにてついに日本初上陸を果たした本作は、先日シーズン3の製作が発表されたばかり。ピープルズ・チョイス・アワードで2部門にノミネートされるなど高い人気を誇る同シリーズについて、今 祥枝(映画・海外ドラマライター)の批評をご紹介しよう。
「コード・ブラック:患者数がERの許容量を超える緊急事態 平均発生回数は年間5回 エンジェルス記念病院では年間300回発生する」
毎回、タイトルの意味を説明する一文から始まる『コード・ブラック』。始まって5分も経たないうちに、これまでに見たことのないリアリズム、臨場感に圧倒されてしまうドキュメンタリータッチの硬派な医療ドラマだ。海外ドラマファンにとって、医療ドラマの金字塔といえば『ER 緊急救命室』だが、1996年に同作が日本に初上陸(アメリカでの初放送は1994年)した時に受けた、あの衝撃が頭に浮かぶ人も多いはず。以来、医療ドラマは数あれど、2013年の同名ドキュメンタリー映画をベースにした『コード・ブラック』ほどに医療の現場、命の重さに対するリスペクトが感じられる真摯な作りは、そうは思いつかない。
物語の中心になるのは、4人の新米医師、看護師、そしてERを仕切る"パパ"ことリアン・ロリシュ医師(マーシャ・ゲイ・ハーデン)と、"ママ"こと看護師長のジェシー・サランダー(ルイス・ガスマン)だ。それぞれに事情を抱え、個性も異なる多彩なキャラクターの描写と人間模様が大きな見どころだが、ドラマの核となり、番組を牽引しているのがゲイ・ハーデン演じるロリシュである。『ポロック 2人だけのアトリエ』(2000年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したゲイ・ハーデンは、数多くの映画やドラマは『ダメージ』などのほか、ブロードウェイ等の舞台でも輝かしいキャリアを誇る演技派の大ベテラン。愛する家族を失った悲劇的な過去を持つロリシュは、『Dr.HOUSE』のハウス医師をも思わせるクセの強いキャラクターで、新米医師たちにはこれでもかと厳しく接する。だが、その厳しさはロリシュが優秀な医師であると同時に、心の底から「可能な限り命を助ける」という仕事に情熱を傾け、真摯に向き合っているからに他ならない。
そんな彼女の仕事ぶりに、医療ドラマを見ながらいつも考える疑問が頭に浮かぶ。それは、「もしも自分自身が、またはそれ以上に自分の愛する人の生死がかかった瞬間に直面した場合、どんな医師に診てほしいか?」ということだ。優しくて同情的、人当たりの良さなんて、気にする人はいないのではないだろうか。自分にも他人にも厳しく、無愛想でも冷たいと感じられてもいいから、全力で、あるいは可能な限りの手段を使って適切な対処をしてくれる医師であってほしい。それこそが、ロリシュのような医師ではないか。リアルにそう思わせる説得力がある、それでいて非常に魅力的なキャラクターを演じきっているゲイ・ハーデンは、さすがという他ない。
理想の医師像はそれぞれだとしても、新米医師たちが彼女から何を学び、どう自分の中で糧にしていくのか。あるいはロリシュ自身もどのように変わっていくのかを描く過程で、視聴者は彼らと一緒に幾多の涙を流すこともあれば、命を救うことに対する喜びに心が震える瞬間もあるだろう。番組の生みの親であるクリエイターは、シャーリーズ・セロン主演の社会派映画『スタンドアップ』(2005年)の脚本家として知られているマイケル・サイツマン。心に残る名台詞の数々を散りばめた、密な人間模様と緊迫感のあるドラマの中にも、ふっと息を抜ける瞬間がある本作は、全米では『ER 緊急救命室』以来の本格派医療ドラマとして確固たる評価を得ている力作だ。
■『コード・ブラック 生と死の間で』放送情報
Dlifeにて好評放送中
[二]毎週土曜 23:00~
[字]毎週金曜 25:00~
(※再放送 毎週土曜 15:00~)
Photo:『コード・ブラック 生と死の間で』
© 2015 ABC Studios