英BBC Oneで8月26日から放送中のポリティカル・スリラー『Bodyguard(原題)』。巡査部長のデヴィッド(リチャード・マッデン『ゲーム・オブ・スローンズ』)は非番の日の活躍を認められ、内務大臣の警護を任される。しかし警護対象の彼女こそ、デヴィッドにPTSD(心的外傷)を与えた海外派兵制度の推進者。任務と私的感情との矛盾は次第に強まり...。警察の腐敗を鋭く糾弾した『ライン・オブ・デューティ』の敏腕プロデューサーが贈る、社会派スリラー。
■要人警護の対象は、自身を苦しめる張本人
ロンドン警視庁に勤務するデヴィッドは、どこか不自然な状況があれば即座に気づく、鋭い感覚の持ち主。私生活で二人の子供と電車に乗っていたところ、不審な乗客と、長く使用中になっているトイレの存在が彼の注意を引く。アフガン戦争の退役軍人である彼は、手荒く乗客たちを車外へ押しやる。トイレからは身体中に爆弾を巻きつけられ、怯えきった様子の若い女性が。デヴィッドは落ち着き払い、アラビア語で容疑者との直接交渉に臨む。こうして乗客全員が爆弾テロから保護された。
功績が認められたデヴィッドは昇進し、内務大臣ジュリア(キーリー・ホーズ『ザ・ミッシング ~囚われた少女~』)の要人警護の担当に。しかし彼女こそ、彼にPTSDをもたらしたアフガン戦争への海外派兵の推進者。勇敢で冷静なデヴィッドだが、内面では爆発寸前の感情に日々苦しめられている。政策の誤りを認めないジュリアの護衛に当たる中で、内なる感情との矛盾に悩む日々がスタートする。
■イギリスで話題の社会派プロデューサー
製作・脚本は、ジェド・マーキュリオ。2012年から4シーズンが公開され、間もなくシーズン5の製作に入る人気刑事ドラマ『ライン・オブ・デューティ』のプロデューサーとして知られる。同作で警察にはびこる歪んだ正義を描くほか、クリエイターとして初めて携わった作品『Cardiac Arrest(原題)』と続く『Bodies(原題)』の医療ドラマ2作品では、イギリスの国民健康保険制度のあり方に一石を投じた。英Guardianはこうした作品を振り返り、社会派プロデューサーとしての側面を紹介している。本作でもマーキュリオは、権力の腐敗に対する鋭い嗅覚を発揮。1話を観ただけでダークかつ興味深い物語が始まったと確信できる、と同メディアは述べている。
英Telegraphは本作を、呼吸を忘れるほど張り詰めたスリラーだと称賛する。こちらも『ライン・オブ・デューティ』を引き合いに出し、絶え間無く緊張感を高め続ける作品だったと評価。同作で警察内部の不正を取り調べる面談シーンは、ゆったりとしたペースで進みながらも、まるで催眠術のように視聴者を虜にすることで有名だ。本作『Bodyguard』冒頭で列車テロを阻止するシーンにも同様の魔術がかかっており、20分にわたる豪華なシーンで視聴者を魅了する、と紹介している。
■憎悪の炎
心的外傷により、爆発寸前の感情をコントロールしなければならない苛立たしい毎日を送るデヴィッド。折しもイギリスでは軍隊の海外駐留の是非が議論されている最中であり、その意味でタイムリーな話題を扱っている、とTelegraphは評価する。任務と自身の信念の間に矛盾を感じるようになるデヴィッドが、警護対象のジュリアとどう渡り合ってゆくかが見ものだ。
ロボットのように無表情で任務に当たるものの、内心は怒りの火花がスパークしている、とGuardianは表現する。警護対象のジュリアが海外派兵の決定についてのインタビューを受け、謝罪を拒否するシーンでは、その心中に憎悪をたぎらせる。『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スターク役ですっかり有名人となったリチャード・マッデンの演技はさすがのクオリティだと同メディアは高く評価。内務大臣を演じるキーリー・ホーズも優れた才能を発揮し、冷淡な態度のなかにも知性と威厳を感じさせる。
社会派プロデューサーが贈る興奮のスリラー『Bodyguard』は、英BBC Oneで放送中。マーキュリオがプロデュースする、前述の『ライン・オブ・デューティ』はNetflixでシーズン1から4まで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:
キーリー・ホーズ&リチャード・マッデン(C)JHMH/FAMOUS