これまでにも本サイトで度々紹介されてきた、英BBC Oneの政治サスペンスドラマ『ボディガード ー守るべきものー』。全6回の本作は本国イギリスで今年8月下旬から9月にかけて放送され、最終回のリアルタイム視聴者数は1100万人超え(最終的な視聴者数は1706万人)と、BBCドラマとしては過去10年間で最も多い視聴者数を叩き出した。
Netflixにより日本でも本日10月24日(水)から配信されることが決定しているが、今回はこのドラマがイギリスで盛り上がった理由について検証していこう。
まず、主人公デヴィッドを演じる英俳優リチャード・マッデンの魅力を挙げたい。大ヒット大河ファンタジー『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スターク役といい、映画『シンデレラ』のキット役といい、王子様キャラクターのイメージが強かったが、今作ではガラリと変わって、ロンドン警視庁に勤務するアフガ二スタン参戦の元軍人で、冷静沈着に任務に徹するが、内面はPTSDに苦しんでいるという難しい役柄に挑戦。鍛え上げた筋肉のセクシーなマッチョぶりを披露する。
デヴィッドはたまたま乗り合わせた列車内での自爆テロを未然に防いだ功績を認められて、反テロ法案を進める強硬派の内務大臣、ジュリアの警護担当に抜擢される。しかしジュリアは彼のトラウマの元となった英軍の海外派兵を推進した中心人物であり、デヴィッドは任務と復讐心との狭間で苦しむことになる。
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女性政治家にハンサムなボディガードといえば、そこに恋愛関係が生じるというのが世の常。デヴィッドとジュリアも親密度を増していくのだが、デヴィッド=リチャードのセクシーぶりを見ていると、ジュリアが惹かれていくのも無理はない、と妙に納得してしまう。彼女が報道番組に出演する直前、誤って彼女のブラウスにコーヒーがこぼれる。本番まであと数分。新しい服を買いに行く時間はない。デヴィッドは、すかさず自分が着ていた白シャツを脱ぎ、それをジュリアに渡す。まだ彼の肌のぬくもりが残っているであろうシャツ。こんなことをされて、その男性に惹かれない女性はまずいないだろう。今作での演技により、リチャードが次期ジェームズ・ボンドの有力候補に急浮上したというのも嬉しいニュースだ。
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このドラマが持つリアリティさも人気の理由だろう。例えば、第1話でデヴィッドが列車内で自爆テロの容疑者と直接交渉するシーン。一歩間違えれば、容疑者の身体に巻きつけられた爆弾が爆発するという絶体絶命の状況が20分も続く。イギリスでは、2005年のロンドン同時爆破テロをはじめ実際にテロ事件が何度も起きているため、自爆テロという設定はフィクションとは思えないほどの緊張感がある。
また、ドラマの中に登場する報道番組のキャスターやリポーターは、全員BBC局の本物のスタッフ。視聴者が日頃見慣れているキャスターたちが本編の報道番組に登場することで、より現実味を帯びる。
主人公が元軍人としてPTSDに悩むという設定もリアルだ。イギリスではアフガンやイラクに派兵された元軍人たちのメンタルヘルスが問題になっている。最初は「大丈夫、自分で解決できる」と強がっていたデヴィッドが、最終回で「僕には助けが必要なんだ」と泣き崩れるシーンは涙を誘った。
もちろん、人気刑事ドラマ『ライン・オブ・デューティ』のジェド・マーキュリオが企画・製作・脚本を担当したストーリーの面白さも忘れてはならない。ちなみに、マーキュリオは2015年にBBCで製作されたTV映画『チャタレイ夫人の恋人』で監督・脚本を担当しており、その時にも主演のリチャードと組んでいる。
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本作は回を重ねるにつれ、「一連の陰謀を裏で操る真犯人は誰か?」という推理小説のような展開になっていく。アガサ・クリスティのミステリーの如く、それぞれに不審な点があり、誰もが怪しい。警察長官、MI5(英情報部)長官、テロ対策担当相、ジュリアの元夫である国会議員、はたまたデヴィッドの自作自演? ネットではファンが仮説を語り合って犯人を予想するファン・セオリー(Fan Theory)で盛り上がり、放送翌朝の職場は本作の話題で持ち切りという社会現象を巻き起こした。
そんな中で迎えた最終回では、またしても息つくヒマもないほどの緊迫シーンと、あっと驚く結末が待っている。イギリスで賛否両論となったそのエンディングについては、ぜひご自分の目で見て判断いただきたい。
(文/Yoshie Natori)
Photo:『ボディガード ー守るべきものー』
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