学習障害という難テーマに挑み高評価の『There She Goes』 実話ベースの「辛辣なコメディ」

英BBC Fourでこの秋放送された『There She Goes(原題)』(全5話)は、深刻な学習障害を抱える9歳の少女を軸にした家族のドラマ。脚本家がFacebookに公開した育児体験記に基づく物語は、厳しくも温かいと評判だ。

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◆学習障害を抱えた娘を育てる夫婦の日常

1歳の息子を育てるエミリー(ジェシカ・ハインズ)と夫のサイモン(デヴィッド・テナント)のもとに、2人目の子ロージーが生まれる。そのロージーが生後半年ほどになった頃、エミリーは娘がほかの子と比べて頭が小さいなどの異常に気づき、やがて確信を得る。サイモンは、嘆き混乱に陥る妻を落ち着かせながらも、新米の父親として激しく動揺する。

10年後。9歳になったロージーの育児は「普通」ではない。ある日、キッチンの物音に気づいたサイモンが駆けつけると、床一面にシリアルがちらばっていた。そして驚く間もなく、目の前でロージーが歓喜の叫び声をあげながら牛乳を自らの頭にかけたのだ。こうした光景がこの家の日常。かつてエミリーが勘づいた娘の異常とは、学習障害だった。

◆「母性」にとらわれがちな女性を救うドラマ

学習障害とは、先天的に「聞く・話す・読む・書く・計算する・推察する」といった能力の習得が極めて困難な状態を指す。ロージーのようにふいに大声を出すことも多く、親はつい不本意な叱り方をして心労をためこんでしまう場合もある。

本作ではまず、最初に異変を察した母親の心情をクローズアップ。英Guardian紙は、倫理的に「母性」なるものに順応しがちな女性たちの苦しみを読み取り、本作は「母性神話を打破する辛らつなコメディ」と見る。昨年から反母性神話的なドラマが増えていることも指摘し、本作もその一つだと歓迎している。

5つ星の高評価をつけた英Telegraph紙も、母親を美化せずに描いたくだりを紹介。記者自身が自閉症の子を育てる母親でもあることから、描写の正確さや母親の率直な心情を誠実に汲み取っていると評す。

◆難題に挑んだ姿勢と、ユーモラスで温かい作風が魅力

本作の最大の魅力は、重い題材を扱いながら視聴しやすい作風にある。サイモンの際どいブラックユーモアも絶妙な緩衝材になっていると好評だ。だが、こうした手法はそうそううまくいくものではない。今、ポリティカル・コレクトネス(差別・偏見が含まれない言葉や表現を目指すこと)が厳密に求められる風潮にあるからだ。この観点から敬遠されがちなテーマに正面から挑み、実りある作品になっていると見るのが英Independent紙。「ロージーを愛したいけど、できるかどうかわからない」と母親が吐露する姿など、象徴的な場面も紹介している。

英New Stateman誌も巧みな表現手法を挙げて「疑似ドキュメンタリー」と見なし、脚本の力と、両親役のジェシカとデヴィッドの演技を称賛している。(海外ドラマNAVI)

Photo:学習障害の娘を持つ父親を好演したデヴィッド・テナント
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