本国アメリカでの放送開始から50周年を迎えたテレビドラマシリーズ『刑事コロンボ』。NHK BSプレミアムでは先月、「あなたが選ぶ!思い出のコロンボ ベスト20」が発表され、「別れのワイン(#19)」や「二枚のドガの絵(#6)」「溶ける糸(#15)」など、コロンボ・ファン納得の作品がズラリと並んだ。ラインナップを眺めているだけで、どんどん蘇るコロンボのあの言葉、あの名シーン...思いを巡らせているうちに「全作品をもう一度観たい!」という欲求に駆られ、約1ヵ月をかけて再見した筆者も自分なりにベスト10を選出してみた。「え、なぜそれが?」と思われる作品もあるだろうが、あくまでも独断と偏見なのでお許しを。NHK BS4Kでは年末より新旧シリーズ全69作品が放送予定なので、よければこちらのベスト10も参考にしながら、あなたもコロンボの魅力にどっぷり浸って、オリジナルのベスト10を選んでみては?
目次
第10位 愛情の計算【#23】
ストーリー:人工頭脳学調査研究所の所長マーシャル・ケーヒル(ホセ・ファーラー)は、翌日に表彰される息子ニールの研究が盗作であることを知る。同僚のニコルソン教授に「ニールが受賞を辞退しなければ真実を暴露する」と詰め寄られたマーシャルは、ハイテクを駆使して教授を殺害する。
見どころ:アイデアに窮した脚本家が苦肉の策で作り上げた異色作というような、シリーズきっての"珍品"を選んでしまってごめんなさい! ストーリーの基本は、実績を持つ立派なお父さんが、出来の悪い息子をなんとかいいポジションに引き上げようと画策する親バカもの。子供を溺愛するあまり殺人を犯してしまう歪んだ愛情にコロンボがメスを入れるのだが、それよりも陳腐な研究所が気になって気になって仕方がない。「MM7」という1970年代ならではのコテコテロボットが登場し、人間の感情をプログラムすると何でもやってくれるのだが、犬の散歩をしたり(コロンボの愛犬ドックがロボの犠牲に!)、チェスでうまくいかないと八つ当たりしたりと、とんでもなく進化しているところは驚きだ。ちなみにこの研究所には天才少年も働いているのだが、(トリビアでも書いたが)名前がスティーヴン・ス"ペ"ルバーグというから笑ってしまう。
お楽しみ:本シリーズは長丁場だっただけに、こうした迷走気味の作品もいくつかある。「ハッサン・サラーの反逆(#33)」(中近東)や「闘牛士の栄光(#35)」(メキシコ)のように異国の文化に触れながら犯人逮捕に苦労する"いつもと違うコロンボ"シリーズもあり、そういった"珍味"も本作の魅力でもあるので、ぜひご賞味いただきたい。
第9位 死者のメッセージ【#41】
ストーリー:古希(70歳)を迎えた今もミステリー作家として活躍するアビゲイル・ミッチェル(ルース・ゴードン)は、最愛の姪フィリスをヨット事故で失った。だが、これが事故ではなく彼女の夫エドモンドによる殺人であることを見抜いたアビゲイルは、ミステリー作家の知恵を生かして、巧みなリベンジ殺人を企てる。
見どころ:『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞した名女優ルース・ゴードン(大好きな女優さん! 脚本家としてもアカデミー賞に3度ノミネート)が、70歳のおばあちゃん作家を実にチャーミングに好演。『刑事コロンボ』史上最も憎めない犯人と言えるかもしれない。ところが、殺害手口はそのキャラに反して実に巧妙で、捉えようによっては極めて残酷。「遺産はあなたのものよ」と持ち上げるだけ持ち上げて、最後はじわじわと死を突きつけるという罠は、さすがミステリー作家。ところが、標的となったエドモンドの信じられない"裏技"が、おばあちゃん作家を逆襲するのだ! それにしても、コロンボじゃなきゃこのどんでん返し、絶対に気づかないよ。
お楽しみ:「6、5、4、3、2、1、ドーン!」と叫びながら、現場の金庫室から登場するコロンボに大爆笑。いつものようにオトボケシーン満載なのだが、あるシーンでコロンボがこれまで内に秘めてきた「人間愛」を語り出した時、筆者は思わず涙がこぼれた。「私は人間が大好きだ。それが殺人犯でも尊敬することがある。やったことは許されることではないが、知性やユーモア、人柄...誰でもいいところが必ずある」(抜粋)。罪を憎んで人を憎まず、血や死体を見るのが苦手なコロンボの根底に流れる優しさに、胸が熱くなった。
第8位 殺しの序曲【#40】
ストーリー:会計事務所を営むオリヴァー・ブラント(セオドア・バイケル)と共同経営者のバーティは、ともにトップクラスの知能指数を持ち、天才だけが集う「シグマ協会」にも所属する旧知の仲。ところが、顧客の金を横領したことをバーティに知られたオリヴァーは、口封じのために彼を殺害する。
見どころ:最大の見せ場は、世界に2%しか存在しない天才の知能指数を生かしたアリバイ・トリック。ステレオ、辞書、電線、爆竹、コウモリ傘、そしてサイレンサー付きのピストル...これらを使ってオリヴァーは殺害の準備を行う。IQが高すぎる犯人の考えることなので、何が何やらチンプンカンプンだが、これがまるで「ピタゴラスイッチ」(NHK Eテレ)のようなからくりとして連動し、見事にアリバイ成立。チャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」から始まる完全犯罪となるはずだったが、IQでは測り切れない規格外の男コロンボが、天才の"弱点"を見事に突いて、からくりおもちゃをぶち壊す!
お楽しみ:親友だと思っていた男が、実は憎しみを持っていた...そこから始まる悲劇なのだが、オリヴァーがいじられキャラのバーティをやたらとコチョコチョくすぐり、ちょっかいを出す描写が、天才すぎてアホなのか?と思うくらい滑稽だ。さらに、コロンボに「あなたは天才だ!」と自尊心を煽られ、つい真実を自白してしまう幼稚さも、これまた滑稽。人間の本質を見極め、心理を操るコロンボの深遠さに改めて感服する。
第7位 祝砲の挽歌【#28】
ストーリー:陸軍幼年学校校長のラムフォード大佐(パトリック・マクグーハン)は、経営不振から同校を男女共学の短大に変えようとしている創始者の孫ヘインズと対立。開校記念日、祝典に使う空砲に細工した大佐は、ヘインズを事故死に見せかけて始末しようと企てる。
見どころ:シリーズ屈指の名作であることは重々承知だが、個人的な視点から苦渋の決断で7位に。犯人である大佐の揺るぎない哲学と毅然とした態度、陸軍学校で学ぶ生徒たちの若さゆえの葛藤、そして、この事件に関わる人々の心の動き、時間の経過、現場の立ち位置まで、細かくファイルするコロンボの完璧な観察眼。全てが絡み合い、一つの"圧倒的"な証拠へと繋がっていく展開は見事。何よりエミー賞を獲得した大佐役のパトリック・マクグーハンの迫真の演技は素晴らしく、同作を不朽の名作へと押し上げている。
お楽しみ:陸軍学校が舞台なだけに全体的に引き締まった作品になっているが、唯一コロンボが"抜け"の部分を担当。学生寮に泊まることになった彼は、ランニングシャツ姿で夜中にうろうろしたり、腹が減ってパンをポケットに突っ込んで逃げてきたりと、シャキっとしたイケメン生徒たちと差がありすぎて思わず笑ってしまう。
第6位 5時30分の目撃者【#31】
ストーリー:催眠療法を主とする精神分析医マーク・コリアー(ジョージ・ハミルトン)は、著書のモデルとなった患者ナディアと恋仲に。ところがコリアーとの関係を知ったナディアの夫が「催眠を深めるために薬を使っていることを暴露してやる」と逆上、身の危険を感じたコリアーは思わず彼を火かき棒で殴り殺してしまう。
見どころ:催眠術とアモバルビタール(意志を曲げる効果がある薬)を駆使して、やりたい放題のイケメン精神科医コリアーをジョージ・ハミルトンがクールに好演。おそらく、殺しのシーンで、同シリーズのタブーであった"血"が初めて描写された作品。電話を利用して患者の行動を自在に操るシーンはゾッとするが、双子のおじさんを巧みに利用し、カマをかけるコロンボの知恵と機転は、そんな催眠術さえも凌駕する! 出てくる女優がコケティッシュな美女ばかり、というのも一見の価値あり(よこしまですみません...)。
お楽しみ:普段はコロンボの頭の中で駆け巡る事件の推理を、同作では犯人の友人たちの輪に入って説明するという新たな手法を試みている。「こんな事件が起きて、ここを捜査しているが、犯人はこんな感じ」ってな具合で、まるでコリアーに挑戦状を叩きつけているようにも見える。「君はオトボケの名人だな」と吐き捨てていたクールなコリアーが徐々に焦り始める展開が面白い!
第5位 悪の温室【#11】
ストーリー:甥のトニーから、「信託扱いで手が出せない父親の遺産を自由に使いたい」と相談を受けたジャービス・グッドイン(レイ・ミランド)は、狂言誘拐を提案。トニーの妻に脅迫状を送れば、緊急事態として信託基金から現金が引き出せると甥を説得するが、その裏にはもう一つの計画があった。
見どころ:「指輪の爪あと(#4)」に続いて、オスカーも受賞した名優レイ・ミランドが犯人役で再登場。嫌味で気高く、気難しい犯人役を(観ていて殴ったろか!と思うくらい)見事に演じている(コロンボが「なんとかなりませんかね?」と持ってきたしおれたアフリカバイオレットを「こんなものはゴミ箱へ」と冷ややかに言い放つシーンは象徴的)。倒叙形式も少しずつ工夫が施され、殺人発生前にコロンボが登場した初の作品としても有名だ。また、急な坂道を転びそうで転ばない、でも最後にはスッテンコロリンと転んでしまうピーターの体を張ったガチなアクションシーン(?)も必見!
お楽しみ:コロンボ・ファンにはお馴染み、頭でっかちのウィルソン刑事が初登場!「もちろんお気づきでしょうが」が口癖で、尊敬するコロンボにアピールしようと、必死に集めた状況証拠を逐一報告。その姿が滑稽でコロンボも苦笑いだが、金属探知機や最新カメラなどハイテク知識を駆使して存在感を示す。
第4位 パイルD-3の壁【#9】
ストーリー:気鋭の建築家エリオット・マーカム(パトリック・オニール)は、壮大な住宅都市ウィリアムソン・シティ建設のプロジェクトに取り組んでいたが、出資者の実業家ウィリアムソンからその構想を罵倒され、援助を打ち切ると宣告される。殺意が芽生えたマーカスは、失踪事件をでっち上げて、工事現場を利用した完全犯罪を計画する。
見どころ:コロンボ役のピーター・フォークが初メガホンを取ったシリーズ屈指の人気作。「1本は監督したい」と要求していたピーターを、スタジオは一度出禁にし、怒ったピーターもボイコットするという事態を招くが、話し合いを経て本作を撮ることで収まった。肝心の作品は、完全犯罪の最後の仕上げがエンディングでわかるという大胆な脚本が素晴らしく、「そんなどんでん返しがあるのか!」と唸るほど驚きの結末が用意されている。犯人VSコロンボの息詰まる攻防、殺人犯も、被害者も、周りにいる者も、全てが"クセモノ揃い"というところも見どころの一つ。
お楽しみ:原案は、のちに『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985年)でアカデミー賞脚本賞を受賞したウィリアム・ケリー。ビルの基礎工事を掘り返す認可を得るために役所を訪ねるが、窓口に振り回され、長蛇の列に並ばされるコロンボ。その地道な姿を延々と映し出す大胆な演出が秀逸! コロンボの忍耐強さと揺るぎない信念が今も脳裏に焼きついている。
第3位 偶像のレクイエム【#14】
ストーリー:テレビドラマ界に転身した往年の映画女優ノーラ・チャンドラー(アン・バクスター)は、自身の出演作で生じた多額の損失を帳簿操作によって撮影所に押しつけていた。だが、秘書ジーンの恋人でゴシップライターのパークスが全てを知っていたことから、ノーラは秘密を隠蔽するために彼の殺害を計画する。
見どころ:『イヴの総て』『十戒』の大女優アン・バクスター、50歳目前にしてこの美貌とお色気! もともとファンだった筆者にとっては、もうそれだけで大満足。ストーリーも、大胆な爆破殺人を実行し、しかも重大なミスを犯して落胆か...と思いきや、ノーラに隠されたもう一つの大きな秘密が浮かび上がるなど、本シリーズの基本スタイルであり"倒叙形式(最初に犯人とその手口を明かし、アリバイを崩していくスタイル)"では収まらない展開がたまらない。また、映画・テレビの熱い撮影現場をコロンボの目を通してミーハー気分で味わえるのも本作の醍醐味の一つ。
お楽しみ:憧れの女優に舞い上がるコロンボ。思い余って、愛車のプジョー403カブリオレに乗せてしまうという暴挙に?!(彼のプジョーに乗った初の殺人犯)。さらに、ノーラからド派手なネクタイをプレゼントされて照れまくるコロンボだが、愛着のあるネクタイ(カミさんからのプレゼントらしい)を勝手に外されたコロンボは我に返り、「明日、結婚記念日なので、ネクタイ返してくれませんかね」と直訴。愛妻家の一面を全力で出すこれまた名シーンと言えるだろう。
第2位 歌声の消えた海【#29】
ストーリー:「缶詰を買ってメキシコへ行こう!」という懸賞に当たったコロンボ夫妻が、豪華客船でバカンスをお楽しみ中に事件は起こった。愛人の女性歌手から「関係を暴露する」と脅迫された中古車ディーラーのヘイドン・ダンジガー(ロバート・ヴォーン)は、人工的に"心臓発作"を起こして自身のアリバイを作った上で、愛人を殺害するという奇策に打って出る。
見どころ:冒頭、いきなりコロンボが豪華客船でカミさんを捜すシーンから始まる異色作。「ついに話題のカミさん登場か?」と期待を煽るが、出るのか?出ないのか?そこも楽しみ。舞台は人があふれかえる大きな船の上、警察関係者はコロンボのみという悪条件。それでもコロンボが、船長や専属医を上手に操り、捜査を巧みに進めていくところは痛快だ。何か企んでいそうな悪の華ロバート・ヴォーンがダンディーに証拠隠滅を図るが、コロンボにかかっちゃ、万事休す。「♪ダンジガーさ~ん」と歌いながらトドメを刺すシーンは、コロンボの不気味な迫力を感じるひとコマだ。
お楽しみ:アロハシャツを着て浮かれるコロンボが、バカンスを楽しむバカ亭主と、犯罪に挑む敏腕刑事の両面を、映像(コロンボの私生活は普段は話だけ)で楽しむことができる貴重な作品。『0011/ナポレオン・ソロ』で鍛えたガンさばきがあまりにも板につきすぎるヴォーンの陰湿なディーラーぶりもさすがの貫禄だ。また、コロンボが犯人捜査と同じくらい熱心に、迷子のカミさんを捜しまくる姿もツボ。
第1位 忘れられたスター【#32】
ストーリー:往年のミュージカル映画の名場面を集めた『ダンス&ソング』が公開されたことで、再び脚光を浴びることになった女優のグレース・ウィラー(ジャネット・リー)は、これを機にかつてコンビを組んでいた俳優のネッドと共にカムバックを計画。ところが、夫のウィリス博士から資金援助を拒否され、彼女は彼の殺害を計画する。
見どころ:なぜ夫は、グレースの女優復帰に頑なに反対したのか。そこがこの犯罪の肝となるのだが、あまりにも切ない真実と、妻を思いやる深い愛が、結果、元大女優グレースのプライドと執念に火を着ける。カムバックを夢見て狂い咲くグレースに対して、彼女の過ちに手を差し伸べる盟友ネッド、そして、いつになく温情を見せるコロンボの優しさといったらもう...(涙)。ラストの愛に溢れた"小さな逆転劇"は、シリーズ最高のエンディングだ。
お楽しみ:葉巻の灰を落としたり、モノを探しては部屋を散らかしてみたりと、屋敷を守る執事にとってコロンボは天敵。グレース邸の執事と彼の水と油のような会話が超楽しい。さらに、度を越えた現場検証で木にぶら下がって降りられなくなったり、蝶ネクタイのエレガントなスーツ姿を披露したり(「ハッサン・サラーの反逆(#33)」「初夜に消えた花嫁(#60)」等でも披露)、本筋とは全く関係ないが「いい加減に射撃テストを受けなさい!」と婦人警官に叱られたりと、コロンボのオトボケ・キャラ全開も本作ならではの魅力(愛犬ドッグも出るよ!)。
独断と偏見で選んだベスト10。旧シリーズばかりになってしまったが、新シリーズにも、犯人役の大女優フェイ・ダナウェイがコロンボを骨抜きにする(?)「恋におちたコロンボ(#62)」や、若き日のスティーブン・スピルバーグ監督を(明らかに)モデルにした「狂ったシナリオ(#47)」など、こちらも見応えある作品がズラリ。何度観てもまた観たくなる中毒性、初めて観る方も夢中にさせる娯楽性。何はともあれ記念すべき50周年、これを機に不世出の傑作シリーズを存分に味わってみてはいかがだろう。
Photo:Photo:『刑事コロンボ』 © 1971 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved. © 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved. (C)WENN/amanaimages (C)Mary Evans/amanaimages (C)Everett Collection/amanaimages